2007年12月29日土曜日

ポップ・フランセーズの100年



 セリーヌ・フォンタナ著『ラ・シャンソン・フランセーズ』
 Céline Fontana "LA CHANSON FRANCAISE"


 (128頁の一部)「ジョルジュ・ブラッサンスと並んでシャンソン・フランセーズ界の魅惑の口ひげ男だったジャン・サブロンは,日本公演の際に現地女性と恋に落ち,日本で生まれたジャンの息子はのちにシャンソン・ジャーナリストとなり,向風サブロンと名乗った」。

 (↑)うそですよ。

 この種の小百科全書的なシャンソン事典は他にもたくさんあり,向風のムックも多くの題材をそれらの書物に依存していたわけですが,この本は向風ムックとほぼ同時の9月末刊行でした。つまり爺はこの本を参考にできなかったのです。私は盗作ライターではないと身の潔白を訴えますけど.... この本が参考書として加わったら,もっともっと面白い内容になったであろうに....と悔やまれる一冊です。
 15年選手の女性ジャーナリスト,セリーヌ・フォンタナの初著。ソフトカバー270頁のシャンソン年代史で,シャンソン発祥のイントロダクションに始まり,本編は1920年代から2007年まで(ミスタンゲットからアブダル・マリックまで)の総覧的ガイドです。インターネット画面のような構成で,思わずクリックしたくなるような見出し+アーチスト太文字と,それに続く簡潔な紹介本文があり,その左右に,"Zoom"(注目すべき詳細),"la petite histoire"(エピソード),"Pour en savoir plus"(補足情報)といった小さい活字のコラムがついています。これがとっても味があるんですね。
 たとえば157頁めでアラン・スーションがらみで「ネーム・ドロッピング」という作法について説明していて,歌の中に著名人の名前を織り込むやり方なんですが,スーションでは「テオドール・モノー,ボリズ・ヴィアン,ジャック・プレヴェール,ジョン・レノン,アダモ,カール・マルクス,ジュリエット・グレコ,ソフィー・マルソー,クラウディア・シファー,フランソワーズ・サガン,サマーセット・モーム,アルレット・ラギエ,ピエール神父....」等が顔を出しています(歌がほとんど思い出されるところがすごい→自分)。それがヴァンサン・ドレルムでは「ファニー・アルダン,ステフィー・グラフ,チャールズ・ブコウスキ,パトリック・モディアノ,ダニエル・バラヴォワーヌ,ロザンナ・アーケット...」等ですね(これも歌全部知ってるところがすごい→自分)。というような,オタッキーな愛好者の心をくすぐるような記述があったりします。
 また141頁めにはジュリアン・クレールのファンの会のことが書いてあります。数あるファン組織のひとつに『パティヌールの会』というのがあり,1972年発表のエチエンヌ・ロダ=ジル作詞の"LE PATINEUR"(スケート男)という歌に因んで会の名前をつけた,言わば「初期ジュリアン・ファンの会」なんですね。ファン組織にありながらこの会は公然とクレールの80年代期(ジャン=ルー・ダバディー,リュック・プラモンドン,セルジュ・ゲンズブール,デヴィッド・マクニールなどが作詞していた時期。"LA FILLE AUX BAS NYLON", "COEUR DE ROCKER", "MELISSA"...)を酷評するんですね。気持ちはわからないでもないですが,長くやっているアーチストでは初期ファンと後期ファンで内ゲバがあったりするんでしょうね。

 カフェ・コンセール,ミュージッコール,ザズー,スウィング,ロックンロール,68年,フォーク,ディスコ,ヒップホップ,オルタナティヴ,ラップなど時代のキーワードに関する説明もとても丁寧です。写真(アーチストもレコード写真も)は一切載っていません。これはインターネットじゃないんだから,画像は無視して,文字を読め,という編集方針のように見ました。良い態度です。登場するアーチストたちもちゃんとしてます。向風と違って,ブリジット・フォンテーヌもマッシリア・サウンド・システムもミレイユ・マチューもちゃんと紹介されてます。-M-マチュー・シェディッドは表紙を飾ってますし。
 表紙に関して言えば,ピアフ,サルヴァドール,ブラッサンス,カルラ・ブルーニ(言うまでもなく,セリーヌ・フォンタナはこんなことになるとは知る由もなかったはずです)ですから,それとなくエディトリアルがうかがえようと言うものです。入門編としては申し分ありません。エピソードの数々こそがこの本の魅力の決め手です。シャポー,バ。
 因みにセリーヌ・フォンタナは現在トマ・フェルセンに関する本を準備中だそうです。おおいに期待しています。

CELINE FONTANA "LA CHANSON FRANCAISE"(HACHETTE PRATIQUE 2007年9月26日刊。12.90ユーロ)
 

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

La bande des patineuresの住処はここです。
http://www.labandedespatineurs.com/Forum/default.htm
私は何度かこのオバサマ達に遭遇しましたが、とっても怖いです(笑)
でも70年代からJulienを聴いている人間には、尖がったところが消滅してしまったかのような80年代の彼の曲も、結婚さえも気に入らないのだと思います。(私もその一人かもしれません。 「Melissaは嫌い!」と、公言したことはまだありませんが・・・)
 この手の本は辞書を引きながらでも読みたいです。 他にもお薦めがあったらぜひお教え下さい。
ではよいお年をお迎え下さい。 
Bonne Année !

Pere Castor さんのコメント...

さすがジュジュ様のことになると詳しいTOMIさん。
でも長く第一線でやっているアーチストだからこその話ですよね。カルラ・ブルーニ以降にファンになったジュリアン・クレール好きというのもいるかもしれませんよ(いるわけないか...)。その点40年間初期ファンしかいないポルナレフというのは,ファン同士の意見違いなんかないでしょうから。
来年もよろしく。