2008年2月7日木曜日
今朝のフランス語「ラ・デセプシオン」
(←)フランスのニュース週刊誌レクスプレスの2月7日号の表紙です。1953年創刊で,設立者は当時女性誌の先鋭であったエル誌の編集長フランソワーズ・ジルーと,ル・モンド紙論説委員だったジャン=ジャック・セルヴァン=シュライバー(略してJJSSと呼ばれます)で,この二人の人脈で,カミュ,サルトル,モーリヤック,マルロー,サガン等が執筆陣となり,60年代にはフランスの週刊誌の代名詞的な評価を得て,独シュピーゲルや米タイムと肩を並べるようになります。64年にはここからジャン・ダニエルが独立してヌーヴェル・オプセルヴァトゥール誌を創刊し,71年にはクロード・アンベールが独立してル・ポワン誌を創刊するだけでなく,ラジオやテレビのジャーナリストたちも多くこの雑誌のOBであったりして,フランスのニュース・ジャーナリズムはすべてレクスプレスの出身者が作っているようなおもむきがあります。
1977年にJJSSがレクスプレスを反共の資産家ジミー・ゴールドスミスに売却して以来,親会社は時代と共にいろいろが変わっていて現在はベルギーの大出版グループ,ルーラルタ・メディアが同誌を保有しています。
表紙の大見出しは LA DECEPTION (ラ・デセプシオン)
大修館新スタンダード仏和辞典には次のような解説があります。
déception デセプシオン(女性名詞)失望,期待はずれ;落胆 éprouver une 〜 失望感を味わう。 causer une 〜 à qn (結果などが)人を失望させる。
では「デセプシオン」を含む諺/格言をいくつか見てみましょう。
★ La déception est bien moins pénible quand on ne s'est point d'avance promis le succès.
成功が前もって約束されていなければ,失望はさほど辛いものではない。
--- ルキウス・アンナエウス・セネカ(BC4/5~AD65)
★ La déception est un sentiment qui ne déçoit jamais.
失望とは,決して期待を裏切らない唯一の感情である。
--- フランソワ・モーリヤック(1885-1970)
★ Année. Période de trois cent soixante-cinq déceptions.
1年とは365回の失望の期間である。
--- アンブローズ・ビアス「悪魔の辞典」
★ Voyager, c'est bien utile, ça fait travailler l'imagination. Tout le reste n'est que déceptions et fatigues.
旅行することはとても有益であり,想像力を働かせてくれる。それ以外はすべて失望と疲労でしかない。
--- ルイ=フェルディナン・セリーヌ「夜の果てへの旅」
★ Un des charmes du mariage est de causer des déceptions aux deux.
結婚の魅力のひとつは二人を失望させることである。
--- スタンレー・キューブリック「アイズ・ワイド・シャット」
この最後のキューブリックの言葉いいですね。「結婚」と「失望」がつながりが,今日のフランスの大衆の状況感情とどんぴしゃですね。 Un des charmes du mariage est de causer des déceptions au peupleと変えてみれば(かの結婚の魅力のひとつは人民を失望させることである)...。
因みにライバル誌のル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール誌の2月7日の表紙はこうなってます。大見出しの文字は Le président qui fait pschitt... 「プシットする大統領」 --- こういう訳語では何が何だかわかりませんでしょうが,プシットという言葉は大修館新スタンダード仏和辞典には載っていません。これは2001年7月14日に当時の大統領シラクが,テレビインタヴューで,大統領の食費やら旅行費やらの金遣いのことや過去の隠し資金のことを問われた時に,そんなことは今大きく言われているが「pschitt....」(この時両手で風船玉の空気を抜くようなジェスチャー)と擬音語で答えたのでした。つまり大きく膨らんでいるものが,急激に空気が抜けてしぼんでいくさまを言うわけですね。よく表現されてます。さすがシラク。
ヌーヴェロプス誌はこのシラク表現で,急激にしぼんだ現大統領を評したというわけです。
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