2008年2月15日金曜日
アンリ・サルヴァドールの前にいた人
ジャン・サブロン『シャンソン百選』
Jean Sablon "100 Chansons"
2月14日聖ヴァレンタインの民放TVパリ・プルミエールのプライムタイムは、映画『風と共に去りぬ』でした。そしてバトラー(クラーク・ゲーブル)が出てきたとたん、わ、ジャン・サブロンだ、と思ってしまったのでした。この映画は1939年制作。ジャン・サブロンがアメリカに移住して「フレンチ・ラヴァー」と呼ばれてスターになったのが1937年のこと。この丁寧に手入れされた口髭は、流行っていたんでしょうね。しかしよく似た二人です。
ジャン・サブロン(1906-1994)の最初のレコード録音は1932年でしたが、伴奏ギタリストにジャンゴ・ラインハルトがいたりして、当時盛り上がりつつあった「スウィング」の歌い手として出てきた人です。しかし、サブロンが急激に人気が出たのは1935年のことで、それはパリで最高人気のミュージック・ホールのひとつ、ボビノ座に初めてヴォーカル・マイクが設置されたことに由来します。これは革命的な事件で、声量があるということがミュージックホール歌手の絶対必要条件であったそれまでの常識をくつがえし、魅惑のささやき歌手サブロンの声は、ホールの奥の奥で聞いているご婦人ファンの耳元に甘くやさしく届くようになったのです。ジャン・サブロンはフランスで初めてマイクロフォンを使って歌ったアーチストとして歴史に記録されています。魅惑のビロード・ヴォイス、クルーナーというスタイルはマイクロフォンの登場によって確立されたわけです。
こうして舞台の上のマイクを恋人の耳に見立てて愛の言葉をささやき、マイクスタンドを踊りのパートナーにしたり、マイクスタンドを抱擁したり...、そういうアクションが婦女子の皆さんを悩殺してしまったんですね。ところがこういう新しさを好まない封建的なシャンソン愛好者たちは、サブロンを機械仕掛けのインチキ歌手呼ばわりして毛嫌いします。その無理解がひどく、「ああ、俺はこの国では理解されない」と嘆くと、才能あるフランスのアーチスト諸氏は「おらあ、ステーツさ行くだ」という結論を出しますわね。40年後のポルナレフがそうしたように。かくしてわれらがジャン・サブロンは1937年に米国に移住し、英語でも歌うようになり、ブロードウェイではコール・ポーターやジョージ・ガーシュウィンと仕事する栄誉を得ます。モーリス・シュヴァリエに継ぐ「フレンチ・ラヴァー」は、ビング・クロスビーに比肩する魅惑のクルーナーとして国際的名声を勝ち得るのです。
ジャン・サブロンの新しさは最初からジャンゴ・ラインハルト等のスウィング・ジャズに接触していただけでなく、ビギン、カリプソ、キューバンなどのエキゾ風味をたくさん取り入れていたこともあります。この点ではアンリ・サルヴァドールやレイ・ヴァンチュラ楽団の先輩格と言えましょう。そのアンリ・サルヴァドールの代表曲のひとつ「シラキューズ」も、ジャン・サブロンは1962年に吹き込んで大ヒットさせていて、魅惑のビロード・ヴォイスということでサルヴァドール版とサブロン版を聞き比べると、甘美さのサブロン、哀愁のサルヴァドール、という違いがくっきりと浮き上がってきます。
甘さを抑えない男、ジャン・サブロンのCD4枚組・100曲選で、音源はEMI。CD1の第一曲めをかのサルヴァドール作「シラキューズ」(62年録音)にしてあり、CD1は60年代の録音、CD2は50年代、CD3は40年代、CD4が30年代、となっていて、過去にさかのぼっていく構成で、CD4には未発表録音が2トラック含まれています。
アメリカでのキャリアを感じさせる英語まじりの歌や、国際スターの風格がなせるスタンダード曲のわかりやすい展開はさすがです。コール・ポーター作「セ・マニフィック」(CD2/1曲め)の中で、アメリカ人の好きなフランス語感嘆詞「オーラララ」の説明をしている部分があり、「オーラララ」だけで何でも表現できるんですね。
ブロッサム・デアリーもレパートリーにしている"C'est le printemps"(CD1/18曲め)も、フランソワーズ・アルディ&ジャック・デュトロンがカヴァーした"Puisque vous partez en voyage"(CD4/1曲め。ミレイユとのデュエット)もうっとりです。マルセイユ訛りで歌われる"Bouillabaisse(ブイヤベース)"(CD2/16曲め)も、たいへんな美味な出来上がりで、にっこりです。
<<< トラックリスト >>>
CD1
1. Syracuse 2.Merci à vous 3. Qui vivra verra 4. Reviens 5. Vous qui passez sans me voir 6. Rien ne va 7. Le fils à son père 8. Pour deux 9. Jamais plus bel été 10. Reverie 11. Je tire ma révérence 12. Pour vous j'avais fait cette chanson 13. Laura 14. Ciel de Paris 15.La chanson des rues 16. Un seul couvert please James 17. Ces petites choses 18. C'est le printemps 19.Les voyages 20. Cigales 21. Toi si loin de moi 22. Monsieur Hans 23. La dame en gris 24. Pas bon travailler 25.En te quittant Tahiti 26. Manha de Carnaval
CD2
1. C'est magnifique 2. Sur le pavé de Paris 3. Song of Moulin Rouge 4. Les feuilles mortes 5. Favela 6. Preddy bride 7. Ave Maria No Morro 8. Come back 9. Le fiacre 10. My heart's at ease 11. Que le temps me dure 12. C'est la vraie de vraie 13. Mom'de mon coeur 14.Et nous 15. Praline 16. La bouillabaisse 17 Aimez comme je t'aime 18. La fille qui m'épousera 19. C'est si bon 20. Arbres de Paris 21. La chanson de Paris 22. Simple mélodie 23.Porqué 24.Don't take your love from me
CD3
1.Berceuse 2. Lilette 3. Si tu m'aimes 4. Tu sais 5. Rhum et Coca-cola 6. Son voile qui volait 7. Insensiblement 8. I'm misunderstood 9. Sur les quais du vieux Paris 10. Paris tu n'as pas changé 11. J'suis pas millionnaire 12.Rendez-vous time in Paree 13. We can live on love 14.Is it possible? 15. South American way 16. Un coussin deux têtes 17. Cette mélodie(stardust) 18. Blue nightfall 19. Le doux caboulot 20. Afraid to dream 21. Can I forget you 22. These foolish things 23. La petite ile 24. Rendez-vous sous la pluie 25. Il ne faut pas briser un rêve 26. Le moulin qui jase
CD4
1. Puisque vous partez en voyage 2. When I get you all alone(未発表) 3. Darling je vous aime beaucoup 4.Un amour comme le notre 15. Miss Otis regrets 16. Fermé jusqu'à lundi 7. Seul(alone) 8.Continental 9. Un baiser 10.Par correspondance 11.Ce petit chemin 12. Vous avez déménagé mon coeur 13. Je suis sex appeal 14. Quand on est au volant 15. Vingt et vingt 16. Le joli pharmacien 17. C'est un jardinier 18. Le petit bureau de poste 19. La partie de Bridge 20.Presque oui 21. Les pieds dans l'eau 22. Ma grand-mère était garde barrière 23.Depuis que je suis à Paris 24. Plus rien(未発表)
4CD BOX EMI FRANCE 5214412
フランスでのリリース:2008年2月4日
PS :
いかにYoutubeと言えど、この時代のものはやはり動画はないみたいですね。
スライドショーですけど、「去りゆく君 Vous qui passez sans me voir」(1936)を見つけたので下に貼付けておきます。作者はジョニー・エス+シャルル・トレネのコンビです。
この曲のパトリック・ブリュエルのカヴァーの方はちゃんとヴィデオクリップがあってYoutubeにも載ってますが、世紀のクルーナーとブリュエルを比べて何が楽しいものですかいな。
Vous qui passez sans me voir(Jean Sablon)
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