2020年年頭にアンジェルに関するニュースがふたつ。ひとつはSNEP(仏レコード制作者協会)が発表した2019年フランス国内の年間アルバム売上の1位に、アンジェルのアルバム『ブロル』、その推定売上枚数は75万枚、と。もうひとつはテレラマ誌の新春第一号(2020年1月2日発売)の表紙(←)を飾り、その特集『2020年に20歳であること』のメイン記事として巻頭4ページインタヴューが掲載されたこと。
それにもうひとつ加えるとすれば、わがブログ『カストール爺の生活と意見』 の2019年の年間統計で、最もビュー数が多かったのが、アンジェル 『ブロル』の紹介記事(2018年11月17日掲載)だったこと。
この現在24歳のベルギーのお嬢さんは、あれよあれよと言う間に全仏語圏のポップ・アイコンになり、さらにヒット曲 "Balance Ton Quoi"がフェミニズム賛歌として女性たちの性差別反対運動/性暴力告発運動のデモでマニフェスト的に唱和され、加えて反ホモフォビア、(グレタ・トゥンベリ以降の新世代)環境破壊反対運動など、ためらうことなく多方面にメッセージを発する、全く新しいタイプの「女性たち」の鏡になっている。テレラマ誌のインタヴュー(私の最も信頼する音楽ジャーナリストのひとり、ヴァレリー・ルウーが行っている)は、この可憐な女性が背負ってしまった「2020年世代のモデル」の生身の姿にせまる。以下、その一部を(無断で)訳してみました。
(テレラマ)SNS上で大きく自分を晒すことは、あなたの有名性が捏造されてしまう危険もありますよね…
アンジェル 「往々にしてメディアのセンセーショナルな記事を読む人たちというのはわたしのインスタのフォロワーではないのよ。その人たちはわたしのことを遠目に見ているのね。多くの有名人女性のひとり、現実から距離のある人、好きなように想像してかまわない人。でもね、わたしはデビューの時から、わたしの音楽が好きな人たちにとって近づきやすく、リアルな存在であろうと努めてきたの。急性扁桃炎になった時は、わたしはみんなにそう言う。何も心配するようなことじゃない。生理のせいでおなかが痙攣するほど痛い時だって同じよ。」
(テレラマ)あなたはそこまで言いますか?
アンジェル「ええ言うわよ。わたしはそれはわたしたちの世代の典型的な発言の自由だってことを十分に意識してるわ!わたしの母はあきれてるけど。でもわたしはわたしのプライベートを守るべきと思うのと同じほど、わたしには女が生理のことを口にすることができるというのは自然なことだと思うの。あの日、わたしはステージの上で身をよじらせるほど痛くて、途中で楽屋に薬を飲みに行かなければならなかった。わたしは思ったの “わたしの身に今起こっていることを説明できないなんて、それこそ馬鹿げたことじゃない?” ー そしてとうとうわたしはステージでこう訴えた “これはふつう人前で言わないことかもしれない、でもね、わたし生理になっちゃったの、ものすごく痛いのよ!” ー わたしのショーの観客たちはほとんど若い女の子たちだからそれは大きなリスクではなかった。彼女たちはみんなそれを了解してくれて、それを大きな音を立ててわたしに表現してくれたのよ!母親世代の女性たちもあとで来てくれて、わたしに言ってくれてありがとう、って。5年前だったら、わたしはそんなこと絶対言わなかったと思う。象徴的なことに、月経に関するこのタブーはそこから女性に関する他のたくさんのことを暴き出していくのよ。」
(↓)テレラマ誌2020年新春号インタヴューの公開動画
(テレラマ)その件に関して今が大きな転換期であるとあなたは興奮しているのですか?
アンジェル 「まさに。わたしはこの夏13-14歳の若い女の子たちと話し合う機会があって、びっくりしたの。その子たちは”わたしはフェミニストよ”って言うの。わたしがその子たちの年代の時には、日記のノートを黒々と書き殴ったり、友だちとの会話やピアノのレッスンのことだけに気を取られていた。それ以外の外界ことは全く興味がなかったし、全然意識もしていなかった。でもこの子たちはそうじゃない。そのひとりの子なんか、学校でひとりの生徒がスカートが短すぎるという理由で放校処分になったとき、反対運動のポスターを貼りまくっていた。”その場合は男子生徒たちを教育すべきよ”とその子は言うのよ。わお〜っ! こういう考えが14歳であきるなんて、素晴らしいじゃない!そしてその子は続けて言ったの “これはあなたの歌 《Balance ton quoi》のおかげなのよ”って。わたしはもうびっくりだったわ。」
(テレラマ)その愉快で踊りやすいあなたのヒット曲はまさにフェミニスト賛歌になりましたね…。
アンジェル 「この曲を書く前、2017年の暮れの頃、わたしはこの問題についてわたしも当事者であるということを感じ始めていた。でもそれは感覚的なもので、理論的に練られたものではなく、単に自分が女性であり、たくさんのことがうまく行っていないと気づいたということだけだった。そしてある日、ブリュッセルのトラムウエイの中で、ひとりの男を見て猛烈に腹が立ったの。それへの直対応として、わたしはあの歌詞を書いた。だからとても基本的なことだったの。ちょうどそのちょっと前にハッシュタグ#Balancetonporc (あなたの豚を告発せよ = 仏語圏の #MeToo 運動)が始まっていた。その当時はまだ多くの男たちが、女性たちの反抗について真剣に考えてなどいなかった。この歌の最初のヴァージョンでは “でも結局、何も変わらないのよね”と言っていたのよ。わたしの母と友だちの写真家のシャルロット・アブラモフの二人がわたしにそれを書き換えなさいと説得したの “この歌でメッセージを伝えるのよ、あきらめることなんか絶対見せちゃいけない”って。2年後、わたしはたしかに社会は動きつつあると感じている。」
(↓)2019年6月、ニース、マセナ広場「音楽の日」での "Balance Ton Quoi"
(テレラマ)”Balance Ton Quoi”のフェミニズムに続いて、あなたはホモフォビア(同性愛嫌悪)に反対する闘争の旗手になるつもりですか?
アンジェル「ホモセクシュアリティーとバイセクシュアリティーは、全くもってプライベートな行為であるにもかかわらず、今日もなお多くの場合で場合タブーであり、政治的な領域に属するものだけど、非常に広く拡散されている。わたしがその運動の旗手になることはかまわないけれど、わたしひとりでは何もできない。わたしはすべての女性たちの名においてものごとを言うことはできない。そして同性愛関係に生きるすべての人たちの名においても。わたしはわたしの感じたことを言うことはできるということだけ。わたしは明日このテーマをめぐるインタヴューがあれば絶対拒否するわ。それはホモフォビアを後退させることにならないばかりか、逆に、毎回そのことについてしゃべらなければならないはめになったら、それってほんとはないんじゃないの?って思われかねない。ゲイとかホモフォビアとかアンガージュマン(政治的意思表示)といった言葉は、すぐにあなたをそのケースの中に閉じ込めてしまって、あとでそこからなかなか出られないようになってしまう。わたしはそんなふうには定義されたくない。わたしは何よりもまずミュージシャンよ。」
(テレラマ)それはまさにあなたが自分が望むように自分を定義できる世代に属しているということでしょう?
アンジェル 「全面的にそうですよ。ジェンダーに関して今起こっていることを見るだけでわかるでしょう。多くの若者たちがそのことを考え直している。何年か前、わたしの母が読んでいた新聞上でその問題に関する記事があって、その時はわたしには全く理解できなかったわ!今やそのことにわたしは熱心な興味があって、日々あたらしい知識を得ていっている。これらすべての概念はしまいには非常に重要なものになる。これは環境問題についても同じことが言えるわね。それについて何年も何年も語られてたことは知っているけれど、大きな問題として認知されるようになったのはつい最近のこと。インターネットは人心を動かすことに貢献している。流行現象を作り出す効果も。人々は温暖化問題や女性の地位のためにデモ行進に参加し、その場で自分たちの写真を撮りあってSNS上に載せ、他の人たちも”わたしたちも行かなくちゃ”と思い始める、そしてすべての人たちがこれは自分に関係した問題なんだと感じるようになる… いいことじゃない!?」
(テレラマ)あなたの職業は、環境に対してするべき責任を怠っているところがありますね…
アンジェル 「そうなんですよ。これはわたしにとっても真剣な問題なのよ。わたしはほぼ毎回都市の外側にある巨大なホールでコンサートをするから、何千人もの人たちがわたしを見に車でやってくることになる。毎回のコンサートでどれほどの電力を消費するのかなって想像もできないわ。少なくともわたしはスタッフと一緒にバスで移動している。わたしたちはプラスチックのボトルを使うのをやめたけど、1年半前まではめちゃくちゃだった。だって各人が自分のボトルを開けて、半分ほど残ったものをあたりに放置して、他人のものと混同しないように、バイ菌に感染しないように、って新しいボトルを開けてたんだから。今はステージの横に水の樽、移動バスの中にもひとつ、それからみんなが食事するケータリングの部屋にもひとつ、そして全員がその樽から自分の水筒に水を補給するの。食べ物に関しては各人が食後ゴミをきちんと分別しているか注意するようにしている。でもそれが環境問題を解決することではないわね。ただ、わたしはそのためにコンサート活動をやめるつもりは全くないの。その点でわたしは優等生でないことは認めるわ。わたしの社会的責任は、まず第一に問題意識を持つことだと思うの。例えば、わたしの特権として、わたしがヴィデオクリップの中などで、きれいに化粧されてキラキラなわたしを見せることが、若い女の子たちにコンプレックスを抱かせる恐れがあるんじゃないか? しばらく前からわたしはそのことを自分に問いかけてる。」
(テレラマ誌2020年1月1日号)
(↓)2019年11月23日、パリ「女性への暴力撲滅」デモ行進でアンジェル "Balance Ton Quoi"が大合唱される図。
(↓)ヴィデオクリップ "Balance Ton Quoi"のメイキング・オブ。
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