ブログ『カストール爺の生活と意見』が2019年に掲載した54件の記事から、ビュー数統計の上位10件を紹介する「レトロスペクティヴ2019」です。2019年の年間ビュー数は46000ほどで、2017-2018年のおおいに疑わしい連続10万越えの2年間から打って変わって、落ち着いたわがブログらしい数字でした。つまり、ちゃんと「人間」(ロボットビジターではなく)が読んでいる数字だと思います。2019年発表の記事で1000ビューを超えたものはありません。これがわがブログの実力だと思っています。
音楽記事はかなり少なくなりました。音楽業界から身を引いて3年、2019年は音楽に関する雑誌記事依頼が1件だけでした。「音楽ライター」(笑)としてはもう過去の人です。私は音楽ではダウンロード/ストリーミングを一切しない、頑迷なフィジカル派ですが、2019年に購入したアルバム(CD/LP)はたったの48枚でした。これではもはや「音楽通」を名乗るわけにはいかないでしょう。最も聞いたアルバムはネクフー『レ・ゼトワール・ヴァガボンド』(とその続編『エクスパンシオン』)でした。これは娘の影響です。ベストアルバムはと聞かれたら、やはりフィリップ・カトリーヌ『コンフェッシオン』であると断言します。
映画はかなりの本数を見たように思ってますが、残念なことに私にはこれという一本が出てこないです。小説はこのブログではなくラティーナ誌2019年11月号で紹介したアメリー・ノトンブの『渇き(Soif)』が最も印象に残っています。ノトンブを絶賛するようになるとは(!)、月日の流れだけでなく、私も変わってきたのでしょう。しかしゴンクール賞がノトンブには行かず、ジャン=ポール・デュボワ『すべての人間が同じように世界に生きているのではない』であったというのもとても納得できるのです(爺ブログ記事に書いてあります)。パトリック・モディアノの新作『不可視インク』も素晴らしかった。2019年はわが読書は近年になく充実していたと思います。
さて、2020年、闘病生活4年目に入りました。仕事していた頃の対人ストレスがなくなったことがどれだけメンタルを楽にしているか、顔も言葉も良い方に変わってきてるんじゃないか、と自覚できるようになっています。身体は良い時もあれば良くない時もある、これは健康な人とて同じこと。時間がもっとゆっくりであってほしい。もっとゆっくり。人や世間の動きに追い越されるのはかまわないので。私もゆっくり行きますので、今年も爺ブログ、よろしくおつきあいください。
2019年記事では1000ビューに達したものは一件もありません。しかして2019年に最も読まれた記事はこれで、今現在で1800ビューに至っています。現在24歳のベルギーの女性シンガー・ソングライター、アンジェルは、おそらく2019年最も輝いていた人のひとりですし、長〜い休息中のストロマエを凌駕する天晴れなベルジチュードでフェミニズムや新世代エコロジーを含蓄と諧謔のポップ・ミュージックで表現するスーパーアーチストになりました。11月23日、パリで10万人を動員した「女性への暴力撲滅」デモで、アンジェルの "Balance ton quoi"がスミレ色のプラカードを持って行進する何万という女性たちに唱和された時、この歌は全女性に共有されアンジェルは運動のシンボルになったのでした。この"器の違い”を知ろうとしないから、日本の業界はいつまでも「フレンチのキュートな新星」としか紹介できないのです。いつになったら(日本の)"フレンチ"は真剣な音楽として紹介されるようになるのでしょう?
1. 『必殺セロト人』(2019年1月29日掲載)
全国的な”黄色いチョッキ"運動の大高揚のさなかに発表されたミッシェル・ウーエルベックの小説『セロトニン』。日本語訳(詩人関口涼子訳)が驚異的な早さで2019年9月に刊行されたので、読んだ方も多いでしょう。ネット上での日本の評価の多くが「恋愛小説」寄りなんですね。この小説の主人公は恋愛のために死ぬのではなく、"悲しみ"のために死ぬのです。死に至る"悲しみ”は、ヨーロッパの死、文明の死、農業の死とシンクロしてやってくるのです。そこのところわかってやってください。挿入曲ディープ・パープル「チャイルド・イン・タイム」はそういう悲しみの音楽だったのですね、聴き直しましょう。そしてこの作家の"現世界"の読み方はいよいよ的を射抜いたものになっています。注目し続けましょう。
2. 『ボワット(ノワール)生きてんじゃ... 』 (2019年5月14日掲載)
12月18日の伊藤詩織の民事裁判勝訴は、おそらく2019年で最もうれしかったニュースのひとつでしょう。2017年刊行の伊藤詩織著『ブラックボックス』のフランス語訳本『ラ・ボワット・ノワール(La Boîte Noire)』(2019年4月)を読んでの記事でした。その中でフランス人(およびすべての非日本語人)には理解不能な「準強姦」なる日本語について、その罪状を軽減するかのようなニュアンスに関して苦言を述べました。レイプに"準”などはないのです。2019年も女性たちの闘いに心動かされること多かったです。一番上のアンジェルの歌も含めて。
3. 『Happy End』 (2019年9月20日掲載)
ラシッド・タハ(1958-2018)の遺作アルバム『アフリカン(Je suis Africain)』の紹介記事でした。1987年に「アーノルド・キアリ病」と診断され、それ以来さまざまな障害と闘っていたが、このアルバムを作った頃はボールペンも持つことができず、相棒のトマ・フェテルマン(ラ・キャラヴァン・パス)が聞き取りでその作詞を書き取った、と。そういうよく知られていないことを、爺ブログは少しでも多くの人に知らせたい。そんな状態で、なんでこんなすごいアルバムができるのか、それがこの傷ついた天使の創造力でしょう。本当に悼ましい。合掌。
4. 『聖アニェスのために』 (2019年12月6日掲載)
ラティーナ誌2020年1月号のアニェス・Bに関する記事のために、最新著『アニェス・Bとのそぞろ歩き(Je chemine avec Agnès B.』などから断片的に訳して、向風三郎のFBタイムラインに載せていたものをまとめた記事。ヴェルサイユのブルジョワ家庭に生まれ、父母との不和、叔父からの性的虐待から逃れるように17歳で結婚、19歳で双子の母、21歳で離婚... 33歳でレ・アールに"Agnès b."第一号店。その生き方、その服づくり、その社会的/政治的なポジションと行動、すべてに頭が下がるスーパー・アニェス。ファッショナブルな言語一切なしで彼女を知ることができた、自分でも今年一番の記事(ラティーナ連載「それでもセーヌは流れる」)だったと思っています。一度お会いしてみたいと切に願っています。
5. 『シュヴァルしい人生さ』(2019年1月22日掲載)
道に落ちている小石を拾い集めて建造した「理想宮」の作者、"配達夫シュヴァル"の生涯を描いた伝記映画『配達夫シュヴァルの信じがたい物語』(ニルス・タヴェルニエ監督、ジャック・ガンブラン主演)のとても短い紹介記事で、あまり好意的な評価はしていなかったのですが、なぜかビュー数が多く...。2019年8月、わが家族は南仏ヴァカンスの帰路途中で、「郵便配達夫シュヴァルの理想宮」のあるオートリーヴで一泊して、もうずいぶん前からの念願だった「理想宮」を訪れることができました。その夕刻に、愛犬ウィンキーが神隠し的に蒸発してしまうという事件がありましたが、そのことも爺ブログで記事(「ウィンキーの消えた12時間」)にしています。
6. 『アバターもえくぼ』 (2019年3月1日掲載)
50歳の女性大学教授(演ジュリエット・ビノッシュ)が、ネット上で24歳にアバター変身することで起こる心理ミステリー・ドラマ、サフィー・ネブー監督映画『あなたがそう信じている女(Celle que vous croyez)』(2020年1月日本公開『私の知らないわたしの素顔』)の紹介記事。日本公開が決まってから急にビュー数が増えました。背景はネット的21世紀ですが、根底はダリダの「18歳の彼」のようなある種古典的な女性の"老い”への恐怖。強がりがどんどん削がれていくジュリエット・ビノッシュの迫真の演技と、イブラヒム・マールーフの音楽が印象的な作品。クリストフ・オノレの『212号室』と並んで、私にはちょっとにっこり2019年の「佳作」でした。
7. 『Carry that weight a long time』(2019年4月5日掲載)
爺ブログでほぼ全作品紹介しているアキ・シマザキの最新作で、五連作サイクル《アザミの影( L'Ombre du chardon)》を閉じる小説『マイマイ』。この五連作は現代日本の家族、性、ビジネス、地方、貧富、外国人など様々なテーマがショーウィンドウのように"非日本人”にわかりやすいように展示されたような作品群でしたが、どれも深さがなく残念な思いで読み終えました。次の五連作は盛り返してください。次作はフランスでの刊行が2020年4月予定(ケベックでは2019年9月に発表済み)の『スズラン』という小説です。女性陶芸家(あれま!)が主人公です。また、必ず爺ブログで紹介します。
8. 『プリティー・シングスとサン・トロペ』 (2019年7月4日掲載)
ラティーナ誌2019年8月号に、サン・トロペの超セレクトなビーチ・クラブ「エピ・プラージュ」の栄枯盛衰記事を書いた時にぶつかった、「エピ・プラージュ」オーナーの”バカ息子”のロック・スターでっち上げのストーリー。コート・ダジュール金満接待と高純度ドラッグに拐かされて、その手助けをする英国サイケデリック・バンド、ザ・プリティー・シングス。その音楽よりも"バカ息子”のあの手この手の方がずっと面白い、虚飾のサン・トロペの光と影。2019年8月、私たち家族は夏ヴァカンスでサン・トロペ、パンプロンヌ・ビーチ「エピ・プラージュ」も見てきましたが、貧乏人には縁のない世界でして。
9. 『モン・デュー、モン・デュー... 』(2019年2月22日掲載)
世界のカトリック教会内で多数起こっている聖職者によるペドフィリア事件は、来日してにわかファンを増やしている法皇フランシコにはたいへんな頭痛の種でありましょう。フランソワ・オゾン監督(ほぼ)初の社会派映画は、80年代にリヨン司教区で多くの子供たち(百件を超える)を被害者にしたブレナ司祭による児童性虐待に関して、タブーを破って長い年月をかけて告発、裁判に訴えた人たちの闘いを描いたもの。争点はブレナ司祭を配下に置く教区責任者のバルバラン枢機卿が、信者たちの告発を無視してブレナを庇護していることであり、ひいてはそれを認めているバチカン法王庁の責任でもあります。ノートル・ダムはその天の怒りで燃えたのかもしれません。
10. 『ジェーンBと東日本大震災』(2019年11月3日掲載)
ジェーン・バーキンの極私的日記の下巻『ポスト・スクリプトム(1982-2013)』の記事(ラティーナ2019年12月号)に関連して、ジェーンが2011年3月の東日本大震災の直後、いてもたってもいられなくなって日本に来て、ほぼ即興で被災者支援コンサートを開いていった経緯を記した部分を日本語訳した爺ブログ記事。日本との縁を大切にしている人であり、人道問題や社会的事件になると躊躇なく行動してしまう人。 2019年はジェーン・Bとアニェス・Bという二人の行動人Bにおおいに敬服し、教えられたものが多かったと思っています。トータル・リスペクト!
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