MC★ソラール『ジェオポエティック』
近年のフランスの音楽アーチストで、メジャーレコード会社"U"と喧嘩別れ(訴訟込み)した大物ふたり:ジョニー・アリディとMC★ソラール。12月6日にジョニーHが他界して、"U"社はその歴史的な旧譜でこの年末大いに稼いでいるだろう。それに引き替え、MC★ソラールの”歴史的”初期4枚のアルバムは"U"が凍結したままで、中古コレクター市場を除いてどこにもなく、若い人たちにはもう「聞いたこともないもの」になりつつある。
クロード・MC★ソラールの10年ぶり、8枚めのアルバムである。48歳。 なりゆき上過去の人になったが、過去の人になることは消え方によっては神話化になる。前作から意図的に4年間消えることを選んだが、実際には8年間休んでしまって、2年間で音楽、スタジオ、ミュージシャン仲間、ライムのようなものを取り戻したらしい。自分を失わずに取り戻す、それは鏡を見ることのように、輪郭やシワや肌の張りを確かめることだろう。すると、どうだ、こいつはフランスのラップシーンの最重要パイオニアで、フランス語の革命すら起こしてしまった偉人だった、ということに気がつくのだ。「それはおまえだったのか」と。アルバムの序曲的なファーストトラック "Intronisation"(王の即位と Introをかけているのね)はクロード・MC★ソラールの神話を自らなぞっている。そして人生の秋を迎えたという自覚と自虐である「秋の歌」である "Sonotone"(ソノトーヌ。son音とautomne 秋を合成した「秋の音」)へと続く。
このみなぎる自信、一体なんなのだろうか。
小さい頃クロードはパン屋かジャーナリストになりたいと思っていたという。大きくなって機会が巡ってこういう言葉の職人になったが、ラッパーやソングライターは言わばジャーナリストに近い立場で自分に映る世界像を言葉にしているのであった。ところが2000年代がやってくる。世界の Google 化。それで検索すれば誰もがジャーナリストになれるようになったのである。情報は寸時のうちにほぼ無限に入手でき、フォーラム、ブログ、SNSは誰でも無数の大衆に向かって情報を伝えたり、オピニオンを表明したりすることができるようになった。ラッパー、ソングライター、ジャーナリストはこのインターネットが支配的な世界の登場に、居場所のぐらつきを覚えたに違いない。
クロードMCの10年間の沈黙とは、Google化された世界を前に、俺に何が言えるのか、何を表現できるのか、という内省の時間だったのかもしれない。で、ラッパーのクロードMC★ソラールがこの世に放てるものはポエジー=詩であると改めて悟ったのではないか。彼は地球を政治的に捉える地政学 Géopolitique(ジェオポリティック) の視点は捨て、詩的インスピレーションで地球を見る「地詩学 = Géopoétique ジェオポエティック」を展開してみようと思った。そこでクロードMCは、世界を股にかけたG.O.(ジェ・オ。日本語読みではジーオー。Gentil Organisateur クラブ・メッドなどのヴァカンス村の何でもする従業員)になって大サービス。
シンガポール(サンガプール)でのヴァカンスについて
アンケート調査をかけ
挙手投票させたら、5人の女が反対
5人の男が賛成(サンガプール)
エストニア(エストニー)でのヒッチハイクについては
一票足りなかったが、それはアリアンヌだったか
トニーなのか(エストニー)
一人のアジア娘の車が寄ってきて
ねえ黒い人、乗りなよ(モンテネグロ)
俺は茶を一気飲みしちまった
まるでモンテネグロのシュナップス飲みみたいに
小柄体型(タイ)、痩せ体型(タイ)、あの娘はタイかな
タイワンかな?
その娘のジーンズはディーゼル製じゃなくて
ガゾール製、サイズは1(タイワン)
(リフレイン)
南回帰線、アフリカの角 Cancer du tropique, corne de l'Afrique
アジア・ヨーロッパ大西洋条約 Traité Atlantique euro-asiatique
天使の風景、自動小銃 Paysage angélique, arme automatique
俺のボールペンよ、問題点を書き出せ Mon bic, note les tics
詩人のG.O. G.O poétique
詩人のジェ・オ、そらぁ、あんたぁ、ねえじぇよ。
< トラックリスト >
1. INTRONISATION
2. SONOTONE
3. L'ATTRAPE-NIGAUD
4. FROZEN FIRE (featuring JULIA BRITE)
5. JANE & TARZAN
6. EKSASSAUTE
7. LA CLE
8. LES MIRABELLES
9. MEPHISTO IBLIS
10. J.A.Z.Z. (KIFFEZ L'AME) (featuring MAUREEN ANGOT)
11. SUPER GAINSBARRE (featuring MAUREEN ANGOT)
12. I NEED GLOVES
13. ADAM & EVE
14. ON SE LEVE
15. ZONME DES ZOMBIES (featuring BAMBI CRUZ)
16. AIWA
17. GEOPOETIQUE
18. PILI-PILI
19. LA VENUE DU MC
CD/LP PWAY TWO/WARNER FRANCE
フランスでのリリース:2017年11月3日
カストール爺の採点: ★★★★★
(↓) "L'ATTRAPE-NIGAUD"オフィシャルクリップ。
***** ***** *****
追記(2018年2月3日)
アルバム6曲め「エクサソート! Eksassaute」のクリップが公開になった。グサグサ迫るエモーショナルな出来。巨匠の仕事。シャポー。この人が健在であることはとても励みになる。以下、訳詞を試みました。
勉強して学位も取って試験もパスした
俺は大人でもうガキじゃない
ゆっくりと企業で出世していき
そして独立して会社を作った
俺の「約束の地」を目指して
もっと生産性を向上させなければ
俺のちっぽけな企業活動は
よその市場を探さなければ
俺は袖をまくり上げて
昼夜の別なく働いた
俺は教会が日曜に開くことさえ反対だった
だが、俺はダンピングの犠牲者
メイド・イン・チャイナの競合にはかなわない
わが愛しきトランポリン製造会社、ここに眠る
今になって俺は気づいた
俺は目を開くべきだった、って
リジューの聖女テレーズのように
時と光を見出すべきだった、って
きみの時間を、きみの生活の一部を
きみ自身ときみの友だちに差し出すんだ
忘れちゃいけない
こうべを高く上げて、
これまでの常識から自分を解放するんだ
定説なんぞ消えてなくなれ(エクサソート!)
ある女性コンサルタントが一人の画家に出会った
彼女は彼の耳元で
豪奢な世界とアプサント酒の話を囁いた
彼はわかったような顔をしたが、
パステルでしか絵を描かなかった
そこで彼女は「蛍光マーカー」「デジャヴ」「幻日」を彼に強要した
そしたら彼の評価はうなぎ上り
広告業者たちから引っ張りだこ
彼は今やバイリンガルのようにおしゃべりになったが
語るのはアートのことではなく数字のことだけ
しかし絵筆は反逆し、創造が導いてくれる
地球上で時は止まり、宇宙では
星たちが凝結してしまう
きみたちは月が
潮の満ち干を左右しているのを知っているか?
月は魂の揺れを生じさせ
彼女の心を動かし、彼女を救ったということを?
今になって彼女は気がついた
彼女は目を見開くべきだった、って
時と光を見出すべきだった、って
きみの時間を、きみの生活の一部を
きみ自身ときみの友だちに差し出すんだ
忘れちゃいけない
こうべを高く上げて、
これまでの常識から自分を解放するんだ
定説なんぞ消えてなくなれ(エクサソート!)
俺はマイクロフォンをつかみ、そして声を上げ(↓)"Eksassaute" オフィシャル・クリップ
地下抵抗運動(マキ)に飛び込んだ
俺はパック入りのクナキ(ソーセージ)みたいに
窮屈さを感じたので
カキ色の野戦服を着たんだ
タムール人かパキ(スタン人)みたいにね
そしたら俺には人間たちの生活が見えたんだ
人間たちの生活って誰のものなんだってことが
小休止:俺はランドヨットの中で軍隊生活を送った
その中には爆弾と裸の女たちがいたんだ
間違いでも間違いでなくても、こうべを高く上げていることだ
鎌を持った死の女神が来るまで、生きなくてはいけない
エクサソート!
そんなもの爆発してしまえ!
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