"LA VILLA"
『ラ・ヴィッラ』
2017年フランス映画
監督:ロベール・ゲディギアン
主演:アリアーヌ・アスカリード、ジェラール・メイラン、ジャン=ピエール・ダルーサン、アナイス・ドムースティエ
フランス公開:2017年11月29日
ゲディギアンだし、マルセイユ近くだし、プロヴァンスなんだから、なまって「ヴィッラ」とカタカナ化してみました。アナイス・ドムースティエを除いては、社会派映画の巨匠ロベール・ゲディギアンの幾多の映画のいつものメンツ、アスカリード+ダルーサン+メイランの主演作。だから同じ映画の続編の続編の続編といった印象。ずっと見ているわれわれもこの人たちと一緒に歳とってきたような。今回の新作の配役設定は3人兄弟。父の意志を継ぎ客がほとんど来なくなっても大衆レストランを続ける長兄のアルマン(ジェラール・メイラン)、(左派系)インテリで口が立つがそれが災いしてかエリート管理職を解雇され失業中の次男ジョゼフ(ジャン=ピエール・ダルーサン)、そしてテレビ・演劇・映画とすでに長いキャリアを持つ女優である末娘のアンジェル(アリアーヌ・アスカリード)。このずいぶんの間会っていない3人兄弟が、老いた父親の容態の急変(バルコンから夕日を見ながら、タバコに手が届かず椅子から転落、神経系をやられて全身不随に)の知らせで、プロヴァンス、マルセイユに近い小さな入り江の村の「実家」に参集する。
われわれの歳頃(60歳前後)にはいずこでもよくあることで、自由のきかなくなった親の面倒をどうするか、財産はどう分けるか、今ある家はどう処分するか、とかを子供たちで協議するのだが、こういうことはずっと避けてきたのに、いつかは避けられない事態になる。この映画では今がその時。国立公園にもなっているカランクと呼ばれる美しい断崖入り江の村ではあるが、 小さな漁港とヨットハーバーがあるものの、猫のひたいほどの平地に人家が集まった寒村で人口流出が続き、観光開発もされず、寂れる一方。その寒村にひときわ目立つ父の家はブルジョワの豪奢な別荘(ヴィラ)のように、断崖の上に建てられ、海にパノラマを臨むそのテラスから眺める地中海に沈む夕日が絶景。裕福とは縁遠い階級(大衆料理屋経営)の父が無理を承知で作った「一点豪華」。この「ヴィラ」の上を高架で地方沿線の電車がガタンガタンと音を立てて通っていく。映画はこの電車通過シーン何回も見せてくれるのだが、なんとも侘しさが...。それと、冷やかしなのか、不動産物件を海上から探しているのか、豪華クルーザーに乗ったサングラス&スーツ姿の男たちが、入り江から数枚写真を撮って、また去っていくというシーン、見るだけで腹が立つ。
この村、かつては子供たちも若者たちもいた。祭りもあった。その70年代の青春のような映像が、この3人兄妹の若き日の姿そのもので回顧されるパッセージあり。20代のアスカリード+ダルーサン+メイランの3人が海浜で若さを爆発させているシーン。ロベール・ゲディギアン監督のアーカイヴからモンタージュしたものであることは間違いないが、こんなに昔から一緒に映画作っていたのだ、としばし嬉しい驚き。
しかし今日、3人兄妹には3人の事情があり、問題は簡単ではない。長兄アルマンは一人でも大衆レストランを続けていくつもりはあるが、今や客はほとんどいない。次男ジョゼフはこの家族会合に目下の恋人である若いベランジェール(演アナイス・ドムースティエ。かなり中心的な役割になってしまう闖入者)を同行させている。都会派でジョゼフと同じほどインテリだが、どう見てもジョゼフとは不釣合いな若さと魅力に溢れたベランジェールに、ジョゼフはいつ彼女が他の男に取られてしまうか気が気ではない。そしてジョゼフは失業したとは言え、中央で活躍してきたエリート気質が邪魔して田舎になど戻れないと思っている。末娘アンジェルの事情はもっと複雑で、数年先までスケジュールが詰まっている第一線の女優。加えてアンジェルにはこの「家」には消すに消せない悲しい事件の記憶(女優仕事の間に預けておいた一人娘ブランシュが、父と兄が目を離した隙に海に落ちて水死する)が詰まっている。父親はせめてもの償いに、とアンジェルにだけ別額の遺産を用意するのだが、彼女は受け付けない。
映画はそれだけでなく、家族とずっと親しくしていた実家の隣人老夫婦が、長い間病気と闘ってきて先が長くないことを悟り、若く優秀な医者の息子の懸命の計らいを振り切って、夫婦で睡眠薬自殺してしまうというエピソードが、空気をさらに重くしてしまう。
そしてこの映画は2017年的今日が背景なのである。この冬のカランク入り江の小さな村に、物々しいフランス軍のジープが行き交い、自動小銃を抱えた兵士たちが徒歩で海岸線を監視して回っている。地中海の向こう側から難民たちを乗せたボートがやってきて、この沿岸近くで難破したという通報あり、生存者が漂着してくる可能性がある。フランスはそのような漂着難民を保護する立場にあるのではないのか? なぜこのような武装した兵士たちが警戒監視しているのか? その問いに兵士は「難民は危険である可能性もある」と日本の政治家のような答えをするのですよ! 3人兄妹はムッと来るのだが、それを抑えて「不審な者を見かけたらすぐに軍に通報するように」と言う兵士に、二つ返事でハイハイと。
映画ですからね。やっぱり。われらが期待する通り、われらが3人兄妹は、濡れた衣服のまま潅木の中を彷徨う幼い難民の子3人と出会ってしまうのである。少女の歳頃の姉と幼い弟2人。映画はここでラジカルにトーンを変えてしまう。ユートピアはここから始まっていく。3人兄妹は和解し、難民の子たちを秘密裡に保護し、ジョゼフもアンジェルもこの「ヴィラ」を動かないと決意するのです。付随的に若いベランジェールは、新しい(年相応の)恋人(自殺した隣人老夫婦の息子の医者)を見つけヴィラを離れ、これまた付随的に年増女優(おっと失礼)アンジェルは自分よりふた回りも若い村の演劇好きの漁師と恋に落ちるのである。60歳代の3人兄妹が、2017年的現実の事件をきっかけに、ふ〜っと和解し、ふ〜っとポジティヴな方向に歩き始める。これは奇跡のような映画でしょうに。
「ふ〜っと」、これはみんなが次第にタバコを「再び」吸い出す映画でもある。「一服」の幸福、この世から消されつつあるものだが、忘れなくてもいいものでしょうに。
カストール爺の採点:★★★★☆
(↓)『ラ・ヴィッラ』 予告編
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