2017年12月16日土曜日

2017年のアルバム その2

ゴーヴァン・セール『だといいな』
Gauvain Sers "Pourvu"

 ール天カスケット、Gシャツ、ボーダー、ボロンボロンとなる3コードギター、 パリゴ訛り... 。2016年10月からルノーの復活「フェニックス・ツアー」(75回公演)の前座で回っていたそう。ギター弾き語りシンガーソングライター。リモージュ生まれ28歳。2016年、拙ブログに4つも記事を書いて応援したクリオが1曲でデュエットしている。ああ、クリオと名前を書いただけで、アルバム全曲が脳内をぐるぐる回る、それほど愛聴していた2016年アルバムだったが、それはそれ。クリオと違って、メジャーレーベル(Mercury France)から出て、ルノーの前座だけではなく、ガッチリとプロモーションされてメディア露出度も高かったゴーヴァン・セールのファーストアルバム。7月のリリース時点で5万枚売ったという。メディアのはやし立て方は、ジュリエット・アルマネが「まんまヴェロニク・サンソン」だったように、ゴーヴァン・セールは「まんまルノー」だった。
 この「まんま」という表現、フランス語では copie conforme(コピー・コンフォルム)と言い、公文書の原本と同一の写しである、という法律用語系の堅い言い方。これ言われたら、どうしようもないんですよ。オリジナリティーゼロと言われたに等しい。
 それからアルバムリリース前に最初に出たプロモーション・ヴィデオの "Pourvu"(アルバムタイトル曲)、誰が見ても大家作で、ミッシェル・ゴンドリーかな、ジャン=バチスト・モンディーノかな、と思ったら、モロにジャン=ピエール・ジューネその人だった(↓。featuring アメリー・プーラン、ジャン=ピエール・ダルーサン、ジェラール・ダルモン)

 「金のかかってるやっちゃなぁ」というある種のいや〜な予感。つくりもの感。
 アルバムを手にして、いろいろな先入観が消えていくには、クリオとのデュエット曲が必要だったし、アラン・ルプレストへのオマージュ曲"Comme chez Leprest"も、極右FN市政にめげず生きる人々を歌う"Hénin-Beaumont"も、地下鉄構内を住処とする誇り高き乞食の歌”Un clodo sur toute la ligne"も、すべて嬉しい「意外」であった。アルバムを閉じる6分の「大曲」”Mon fils est parti au djihad"(私の息子はジハードに行った)という、イラクで死んだフランス人ジハード戦士を思う母のバラード、こんな重いテーマを淡々と平易な言葉(優しい母の言葉)で、飾りなくも頼りない音程の地声直情の歌唱で歌い上げる。このフォークは二重にも三重にもデリケートである。シャポー。
 パリ生まれでないのに、ガヴロッシュ(パリ小僧)を気取る。このポーズは今日びかなり難しいことだと思う。ガヴロッシュはヴィクトール・ユゴー作『レ・ミゼラブル』の登場人物であり、それが「パリ小僧かたぎ」の代名詞になる。往時のパリ下町風なスカーフやカスケット帽のような身なりの真似だけではガヴロッシュになれない。
 この「ガヴロッシュ」がキーワードになっている歌 "DANS MES POCHES"(俺のポケット)(↓)

ズボンの奥底を探る考古学者さんよ
俺のポケットをひっくり返したら
いろんな素敵なものが出てくるぞ
ブリオッシュのパンくずにまみれて
どっかをほっつき歩いていた鍵束と一緒に
ほったらかしておいた何枚かの小銭
そして何かいいメロディーが浮かんだら
俺は音符を殴り書きするんだ
ポケットの中でね

小銭入れの中には
日本レストランの電話番号
古い映画の入場券
ガキの写真はまだないけど
使ってないメトロのチケット
ヴェリブ(貸し自転車)の利用カード
俺が本物のガヴロッシュになってからというもの
テレビは消しっぱなしだよ
ポケットの中でね

その日のジーンズにもよるけどね
俺はいつも両手をつっこむんだ
特に秋で天気が悪くなるとね
冬が近づいてきても両手は暖かいんだ
俺はポケットの中に俺の理想や
信念も入れておくんだ、高く突き上げた指とか
岩のように硬い拳
厄介ごとはポケット袋に
吊るしておくのさ

ちょっと訳してもしかたがない。これは全部 "oche"(オッシュ)という韻踏みで、poche, croches, mioches, téloche, moche, roche, sacoche.... gavroche(ガヴロッシュ)と連鎖しているもの。結構な芸達者。叩いてみるたび、味のあるアーチストになっていきそう。

<<< トラックリスト >>>
1. POURVU
2. DANS LA BAGNOLE DE MON PERE
3. MON RAMEAU (en duo avec CLIO)
4. DANS MES POCHES
5. HENIN-BEAUMONT
6. UN CLODO SUR TOUTE LA LIGNE
7. LE VENTRE DU BUS 96
8. QUAND ELLE APPELLE SA MERE
9. SUR TON TRACTEUR
10. ENTRE REPUBLIQUE ET NATION
11. COMME CHEZ LEPREST
12. LE POULET DU DIMANCHE
13. COMME SI C'ETAIT HIER
14. MON FILS EST PARTI AU DJIHAD

CD MERCURY FRANCE 5763240
フランスでのリリース:2017年6月7日

カストール爺の採点:★★★☆☆

(↓)"MON RAMEAU" (ライヴ)クリオとのデュエット



3 件のコメント:

UBUPERE さんのコメント...

ご無沙汰しています。UBUPEREです。9月にSanglierを読んだとき、あまりの内容に言葉を失いました。今月に入り矢継ぎ早にブログが更新されていることや、「メランコリック」ではあるものの散歩もなさっていることを知り、コメントを書く勇気が出てきました。
さて、ゴーヴァン・セールの歌を聴いて思わず笑ってしまいました。本当に「そのまんまルノー」ですね!しかもアルバムジャケットもルノーのファーストアルバムとそっくり!これはやり過ぎ...ルノーの前座を務めていたからこうなったのか、レコード会社の戦略なのか...金のかかったビデオクリップを見ると後者ですね。それにしても、物まねと一蹴されないでそれなりの支持を集めているということは、フランス社会が70年代を懐かしがっているということでしょうか。いずれにせよ、ルノーが取り上げるようなテーマを引き継いでいることはうれしい限りです。
毎回機知に富んで刺激的なブログを楽しみにしています。どうぞお元気で。

Pere Castor さんのコメント...

Ubu Pèreさん、コメントありがとうございます。
今、日本(郷里の青森)におります。ジョニー・アリディに関する雑誌原稿の仕事も持ってきていますが、ブログ、あと一つか二つ記事アップしたいです。今年もお世話になりました。良いお年をお迎えください。

UBUPERE さんのコメント...

ああ良かった。一時帰国できるまで体力も回復しているのですね。ふるさとで良いお年をお迎えください。