2023年9月21日木曜日

枯れ葉の秋(かうりすまき)

"Kuolleet Lehdet (Les Feuilles Mortes)"
『枯れ葉』

2023年フィンランド映画
監督:アキ・カウリスマキ
主演:アルマ・プイスティ、ユッシ・ヴァテネン
フランスでの公開:2023年9月20日

2023年カンヌ映画祭審査員賞


La vie sépare ceux qui s'aiment, tout doucement, sans faire de bruit
人生は愛する者たちを別れさせる、いともゆっくりと、音も立てずに
(ジャック・プレヴェール/ジョゼフ・コスマ「枯れ葉」)

2017年『希望のかなた』(ベルリン映画祭銀熊賞)で引退宣言をしたアキ・カウリスマキの6年後の復帰作。ー 爺ブログには名優アンドレ・ウィルム(1947 - 2022)の最後の主演作となった『ル・アーヴル』(2011年)の紹介記事もあるので、それも読んでね ー

 これは極貧とアルコールの地獄を愛が救うプロレタリア映画。アキ・カウリスマキが例によって時代設定ごちゃごちゃにしてラジオだけがニュース源(+50年代の音楽が流れてくる)のレトロな世界のような環境に、ラジオニュースはひっきりなしにロシアのウクライナ侵攻の戦況ばかり。この絶えることのない戦争報道ニュースが、この(いつの時代ともわからないヘルシンキの)貧しい労働者たちの抵抗と連帯をそこはとなく鼓舞しているのだろう。ハードディスカウントのスーパーで働く女は賞味期限切れの食品商品を廃棄せずに家に持ち帰ろうとしただけで解雇されるネオリベラル資本主義社会で生き、一方、そんな社会だから男は仕事の過酷さをアルコールで紛らわすが、仕事中のアルコールがばれて解雇される。どれくらいの貧しさかと言うと、電気代の請求書を見たとたんに、反射的に電気製品のコンセントを抜いたり、ブレーカーを落としてしまうようなパニックに陥るほど。そんな女たちや男たちのささやかな楽しみが金曜日の夜のカラオケ。カラオケのレパートリーはフォルクロールだったり、カルロス・ガルデルのタンゴだったり、シューベルト歌曲だったり。

 アンサ(演アルマ・ポイスティ)とホラッパ(演ユッシ・ヴァタネン)はそんなところで出会うのだが、一目惚れというわけではなく、「この女は(他の女たちとは)違う」、「この男は違う」という意識なんだなぁ、なにかとてもわかるし、懐かしい感覚。電話番号を渡してもそのメモを無くしてしまう、そんなすれ違いで、なかなかストレートには進行しないが、男が映画をおごるよ、と二人で入った映画館ではジム・ジャームッシュのゾンビー映画『デッド・ドント・ダイ』(2019年)がかかっていたり(なんとも可笑しい)。
 しかし、アンサはホラッパの極度のアルコール依存症を知り、私の両親家族はアルコールのせいで死んだのよ、とホラッパを諭そうとするが、ホラッパは俺は誰にも指図されない、と二人の関係は一時的に壊れてしまう。しかし、愛は救うのだよ...。

 保健所員に保護されそうになる野良犬をアンサが引き取って飼うのだが、このいかにも貧相な雑種犬がすごくいい演技(アキ・カウリスマキに登場する犬たちはみな素敵)。それにチャップリンと名を与える。らしい名前だ。映画的リファレンスではゴダール、ブレッソン、ジャームッシュ、チャップリンなどとてもわかりやすく、映画愛だけでもとても心満たされる。
映画の初めの方で、貧乏ぐらしのアンサのラジオから「かたびらはなし、帯はなし」と竹田の子守唄が流れてくるのにはそのわびしさに苦笑してしまった。うまいなぁ。
それでもカウリスマキの世界では最後に愛(とプロレタリア)は勝つのである。異議なし。

カストール爺の採点:★★★★☆

(↓)『枯れ葉』予告編


(↓)エンドロールで流れる『枯葉』フィンランド語ヴァージョン、歌オラヴィ・ヴィルタ(1959年録音)


(↓)印象的な挿入歌。労働者たちの集まるバーでのライヴシーンで登場するフィンランドの女性デュオ Maustetytöt の”Syntynyt suruun ja puettu pettymyksin"
(このYouTube動画は映画のシーンではありまっせん。為念)

1 件のコメント:

かっち。 さんのコメント...

東京でも去年の暮れからやってたんですが、やっと見ました。それで安心してブログを読みました。ときどき見てから読もうと思うのです。独特の色彩にしびれ、映画と音楽と断捨離と酒と犬に負けました。