Joseph D'Anvers "Les Matins Blancs"
「白い夜」(nuit blanche)という表現は、北欧など緯度の高いところで見られる白夜現象のことですが、暗くならないから眠れない、ということで眠れぬ夜の意味にも使われます。複数形で nuits blanches になりますと、白土三平の赤目プロみたいに、何日も徹夜続きで作業している状態を思い描くかもしれませんが、むしろ比喩的に恋の悩みなどで苦悶して眠れない夜が続いていることを指すようです。ではこのタイトルの「白い朝」(Les Matins Blancs 複数形です)というのは、どういう仏語表現なのか、と言うと、まあ、いろいろ調べましたがわかりません。白い朝は白い夜の延長と思うのが自然でしょう。それから白い昼になって、白い午後を経過して、白い夕刻から白い夜に再突入、というパーフェクト不眠の円環が閉じます。目の前真っ白でしょう。
関連して言えば、久保田早紀の「異邦人」(1979年)の中に
祈りの声 ひずめの音 歌うようなざわめきという歌詞があります。 白い朝とは私を置き去りにして過ぎていくものなのだ、という無情さがおおいに気にかかります。また日本語版ウィキペディアによると、この久保田の歌は最初「白い朝」というタイトルだったが、「インパクトが弱い」という理由で「異邦人」に変えられたという記述があります。
私を置き去りに 過ぎてゆく白い朝
ジョゼフ・ダンヴェールはドミニク・アやミオセックなど90年代のシャンソン刷新派に触発されて出てきた00年代のシンガーソングライターで、プロ入りのきっかけとなったのはダニエル・ダルクとの邂逅、そしてレ・ザンロキュプティーブルの新人発掘公募に入選し、2005年にアトモスフェリック・レーベルからデビュー。アルバムはこれで4枚、ミオセック、バシュング、フランソワーズ・アルディ等に詞と曲を提供しており、小説(ロマン・ノワール)も発表している才人です。まあ、アレクシ・HK、バスチアン・ラルマン、ベルトラン・ブラン等に近い位置にいる、安定してるんだけど、なんか一味足りない、そういう人たちの一人と思って今まで聞いてました。
4枚目のアルバム『白い朝』 は、自分でもそう思っていたんでしょうね。もう若くないんだ、という自覚ですよ。「私を置き去りに過ぎてゆく白い朝」は、帰り来ぬ青春なんですよ。冒頭の「プティット(petite)」(これを「少女」と訳すと、五輪さんですか?という話になりましょうから、絶対にしません)はすごいですよ。このアルバムはこれに尽きますね。これさえ聞けば、オッケー。
俺は歩く、プティット
俺がどこに行き、どこに進んでいるのかなんてどうでもいい
プティット
俺はよろめく、プティット
だけど俺を支えたりしないでくれ
プティット
俺は呑む、プティット
ちくしょう、これはこれが大好きなんだ
プティット
俺は生きる、プティット
この一瞬一瞬が歴史なんだ
プティット
この美しい青春は長続きしないんだ
この美しい青春はおまえの手の指からこぼれていくんだ
この美しい青春は長続きしないんだ
だからこの美しい青春を抱きしめておくんだ
俺は知ってる、プティット
日は昇る、だかしかし
プティット
俺は踊る、プティット
俺がまた戻ってくるとは知りもしないが
プティット
この美しい青春は長続きしないんだ
この美しい青春はおまえの手の指からこぼれていくんだ
この美しい青春は長続きしないんだ
だからこの美しい青春を抱きしめておくんだ
俺は泣いている、プティット
明日という日はあまりにも俺たちに近い
プティット
おまえを愛している、プティット
俺たちが何だったのかを絶対に忘れないでくれ
プティット
この美しい青春は長続きしないんだ
この美しい青春はおまえの手の指からこぼれていくんだ
この美しい青春は長続きしないんだ
だからこの美しい青春を抱きしめておくんだ
<<< トラックリスト >>>
1. Petite
2. Surexposé
3. Avant les adieux
4. Tremble
5. Mon ange
6. La vie à présent
7. Sally
8. Les amours clandestines
9. Chaque nuit en son temps
10. Marie
11. Histoire de Johnny S
12. La nuit je t'aime quand même
13. Les jours incandescents
14. Regarde les hommes tomber
JOSEPH D'ANVERS "LES MATINS BLANCS"
CD AT(H)OME 3760068971519
フランスでのリリース : 2015年2月
カストール爺の採点:★★★★☆
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