2008年1月2日水曜日

民の上に雨ふりませ (Shower the People)



 2007年12月31日午後8時,共和国大統領サルコジは恒例大晦日テレビ演説でこう言いました。
 J'ai la conviction que dans l'époque où nous sommes, nous avons besoin de ce que j'appelle une politique de civilisation.
 (われわれが生きる現在時に応じた,私が呼ぶところの「文明政策」が必要である,と私は確信している)
 Notre vieux monde a besoin d'une nouvelle Renaissance.
 (われわれの老いた世界は新たなルネッサンスを必要としている)

 2008年にはフランスに新文明が誕生するらしいです。それを大統領は約束したわけですね。古い文明にしがみついこの旧大陸に,21世紀に対応した新しい町づくりをしよう,新しい学校を作ろうと大統領は訴えました。旧文明の世界に新しいルネッサンス運動が始まるそうです。その運動の中心的な担い手を果たすのがフランスである,と大統領は誇らしげに言いました。では,その「文明政策」というのを爺は注意ぶかく見守るようにしますが,い っ た い 何 を 夢 見 て い る の で す か , こ の 人 は ?

 明けて2008年1月1日,3人と1匹で穏やかに新年を迎え,午後には新年準備で疲れてしまったタカコバー・ママは午睡してしまうし,娘は友だちの家の新年会に行ってしまったので,しかたなく爺はドミノ師と向かいのサン・クルーの森に散策しながら,新しい文明のことをあれこれ考えていました。新しい文明政策は爺たちの考えているフランスとは違うフランスを作ろうとしているのだろうな,と。サルコジは中国にも行ったし,新恋人とエジプトで休暇も過ごしたし,その少し前には砂漠文明の権化の大佐もフランスに招いたし。この数ヶ月でサルコジは旧文明からインスパイアされたものがたくさんあったのでしょう。ある種の本物志向と言いましょうか。時計はローレックスでないといかん,みたいな。恋人はトップモデルでないといかん,というのもそうでしょうね。
 もう一度フランスを一流の国に,もう一度フランスに栄光を,という言説はド・ゴールのものでした。戦後,フランスというのはちっとも一流の国ではなかったのです。爺たちが子供の頃も,フランスって全然目立った国ではなくて,インドやソ連の方がずっとえらい国に見えていました。爺の世代の男の子たちは自動車やら戦闘機に夢中になったものですが,フランス製というのは稀でした。その点で言ってもフランスは目立たなかったし,あんまりがんばっているような国には見えなかった。それでも「お芸術」みたいなものは得意そうだし,ファッションは知られていたし,長いバゲットパンを食べているし,がんばってなくてもある種存在感のある変わった国だったわけです。それがド・ゴールの栄光志向で,NATO脱退したり,原水爆持っちゃったり,というのが始まってしまうのです。
 その後も超音速旅客機コンコルドが飛んだり,日本新幹線よりも早いTGVが走ったり,なんだか,えらくがんばってる国フランスが目立ってくるんですね。インターネットの元祖みたいなミニテルが家庭に普及したり,とか。このがんばりが顕著なセブンティーズからエイティーズの時代に爺はフランスに移住しているのです。変わったものもありましたよ。圧縮空気システムをつかった地下管を通って書簡を瞬時にして町の端から端まで届けてしまう「プヌーマティック」なんてね。ほんとびっくりしました。
 私が初めてフランスの地を踏んだのは1976年6月のことで,まだ学生で,ノルマンディーの大学で外人向け夏期語学講座を受講するためにやってきたのでした。その夏は200日雨が降らないという記録的大干ばつがあり,日本にいた時から情報通から給水制限があるぞとか,シャワーが出ないぞとか脅かされたものでした。たしかに町に着いた時,芝生は茶色に枯れていて,人たちも犬たちもへたばり気味の様子でした。しかし町の中心の歩行者広場には大きな噴水があり,勢い良く大量の水を噴き出していましたし,周りの花壇には水をたっぷりすった花々が咲き乱れていて,その泉の周りや木陰で市民たちが涼を取っているのが見えた時,若い私は「すんげえ国に来たもんだ」と実感したのでした。大干ばつの時に噴水の水を出すことはたいへんな無駄だと思いますか? 私はそうは思わない。市民たちはこの噴水を必要としているのだ,と私は思いました。
 ちょうどその年,フランスにサマータイムが導入され,6月末から7月には22時まで明るいという夏の夕を楽しめるようになったのです。暑く乾いた夏の夕に,私たちは噴水のある歩行者広場に集まってビールを飲むというのが日課になりました。
 語学講座には外国人しかいないのですが,アメリカ人,カナダ人,豪州人はやっぱり生ギター持ってきて,件の歩行者広場やキャンパス学食前はにわかにフーテナニーと化してしまうのでした。「ホテル・カリフォルニア」の1年前のことですから,あの頃英語圏新大陸人たちが一緒に歌う歌というのは,「テーク・イット・イージー」(ジャクソン・ブラウン)とか「うつろな愛」(カーリー・サイモン)とか「ハート・オブ・ゴールド」(ニール・ヤング)とかそういう歌が多かったですね。
 そんな時に,日本から私の友人がいろいろカセットテープを送ってくれて(あの頃はラジカセしか持っていなかったのです),その中にミスターJTのアルバム「イン・ザ・ポケット」のコピーもあったんですね。高校生の頃にジェームス・テイラーをコピーしていたという隠された過去を持つ私は,さっそく豪州人たちのところに行って,このカセットを聞かせたら,これは雨なしの夏を生きるわれわれの歌だねえ,と "SHOWER THE PEOPLE" をすぐに覚えてくれて,歌うようになったのでした。

Just shower the people you love with love
Show them the way that you feel
Things are gonna work out fine if you only will
Shower the people you love with love
Show them the way that you feel
Things are gonna be much better if you only will
(....you'll feel better right away, Don't take much to do, Sell you pride, They say in every life, They say the rain must fall, Just like pouring rain, Make it rain, Make it rain, Love love love is sunshine....)

 あれから31年,ミスターJTの最新ライヴアルバム『ワン・マン・バンド』(CD+DVD)を12月に買って何度も何度も聞きました。一種の過剰なノスタルジー病に陥いりました。他のライヴアルバムでもみんな同じで,ミスターJTは何年経とうが同じギター,同じ声で歌える不思議なアーチストであります。最初期からノスタルジーしか歌っていない(「思い出のキャロライナ」,「ファイア&レイン」...)人なので,DVDではノスタルジーの大納言のようなお姿でありました。MCも昔ばなしばかりですし。慈愛の歌「シャワー・ザ・ピープル」は,やっぱり,いかに陳腐な言葉のように聞こえようが,「愛」って大事にしないといけないもんなんだ,と思わせてくれます。 Shower the people you love with love... あなたの愛する民の上に愛の雨を降らせましょう。
 われわれの世界に必要なものはルネッサンスや栄光ある新文明ではなく,民の上に降る雨ではないのか,民の上に降り注ぐ太陽ではないのか。フランスはそんなにがんばってくれなくてもいい。ただ,日照り続きの夏にも噴水の水を絶やさず,民のために咲く花を大事にする国であってほしい。爺はそういう国に長いこと住んでいたという記憶があったのです。

 年の初めです。同志の皆さん,今年もよろしく。
 同志の皆さんの上にも雨ふりませ。

 
 

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こんにちは。二度目の書き込みをさせて頂きます(^^)。

JT・・・私は"Close your eyes"のギターのコピーをしたこ事がありました。この曲はあの今をときめくハワイの大スター、ケアリィ・レイシェルの歌唱指導先生的存在のJamie Lawrenceのアルバムでもひときわ優しく歌われていたりします(^^)。

私の敬愛するDavid Gates(元BREAD)はJTに"Thankin' You Sweet Baby James"という曲を捧げていたりしました。今日はスタバのコーヒーでも飲みながら、再度JTにはまってみようかと思っております。

ところで大変僭越ではございますが、私のBlogにて「ポップフランセーズ」の本を取り上げさせて頂きましたm( )m。

http://blog.goo.ne.jp/we_miss_omura/

となっております。私の個人的な感想ゆえ、もしかしましたらご本人様の意図と異なる点もあるかと思いますが、その際にはどうぞお許し頂ければありがたく存じます。

いつも心より楽しみに拝読させて頂いております。これからも頑張ってくださいませm( )m