2020年2月14日金曜日

Hasta てんきになれ

Futuro Pelo "A Bigger Splash"
フュチュロ・ペロ『ア・ビガー・スプラッシュ』


2月4日から8日間入院した。2ヶ月で体重が13キロも激減して、ももとふくろはぎの筋肉が細くなり、入院時は歩くのもたいへんだったが、入院治療の甲斐あって今はずいぶん回復した。個人的な病難もそうだが、この2月前半は新型コロナウィルスの世界的な病禍もあり、ヨーロッパ大陸的には大暴風「キアラ」「イネス」「デニス」の連続的な襲来もあった。自分の体の弱まりだけでなく、伝染病と暴風のせいでも、外出がしづらかった時期であった。今季は暖冬で春の花々が早くもたくさん咲き始めているのに、外に出られない、そういうフラストレーションが鬱積した2月前半だった。
 バンジャマン・スポルテスのソロ・プロジェクト「フュチュロ・ペロ」 のファーストアルバムは2月7日にリリースされた。これが病院のベッドにいた私をどれだけ癒してくれたことか。若返りの水を点滴されているようなセンセーション。
バンジャマン・スポルテスはもういいおっさん(50歳台)である。80年代半ば、パリでロカビリー/ガレージ系のバンド、ザ・ワンダラーズのドラマーとしてデビュー。あの頃のオルタナティヴ・シーンで、ロス・カラヨスマノ・ネグラヴァンパスらと同じサーキットにいた。それから十数年の時を経て、ヴァンパスのベーシストだったニコラ・カントロヴィッツと組んでエレクトロ・デュオ、スポルト・カンテス(Sporto Kantes)(1998 - 2012)として、エレクトロ・シーンでそこそこの知名度を得る。特に"Lee"(2007年)と "Whistle"(↓のクリップ)(2008年)は、テレビCMやサントラに使われたので、スポルト・カンテスの名は知らずとも曲は誰でも聞いたことがあるというレベルのポピュラリティーを獲得するのである。

 それからまた十年ほどの月日を経て、ひとりになったバンジャマン・スポルテスは、 自分が歩んだ80-90年代オルタナ・ロックと00年代エレクトロの軌跡をていねいにまとめあげたような、カラフルで折衷的でダンサブルで(中年ダンディーな)洒脱さにあふれた「歌もの」アルバムを創ってくれた。言語はフランス語、英語、スペイン語。あの時代のオルタナ・ロックとスペイン語の融合がもたらした、マノ・ネグラ→マニュ・チャオやセルジャン・ガルシア(ex Ludwig Von 88)の祝祭的フレンチ・ラティーノのノリへのノスタルジーに波長が合ってしまう。中高年向きかな? だがスポルテスの2020年型フレンチ・ラティーノはテリトリーなど軽々と超越した多様なパッチワークによる快感追求サウンド。アルバム中のスペイン語曲2曲は群を抜いている。
(↓)"Terror"

(↓)"Don"


だがしかし、アルバムはまず第1曲めでガツンと来る。「ファースト・オブ・メイ」、5月1日、労働者の祭日、幸福を運ぶスズランの花を贈る日、ビージーズ「若葉のころ」(1969年)の原題、そんなことはどうでもいいのであるが、ロカビリー流儀のひずんだリヴァーブ・ヴォーカル、ラテン・パーカッション、クラップ・マシーン、せわしないサックス、女の甲高い"I hate you"の叫び... テンポのいいロック失恋コメディーのような佳曲。軽めポップの体裁をしながら、歌詞は5月のウキウキとは裏腹の、愛の足りない青年の嘆き節。
僕には個性が足りないが
それは他人にはわからない
タバコを取り出し 吸うでもなくもてあそび
予定外の行動をする
僕には愛が足りないだけなんだ
美しい5月に、これはないよな、という若者像が描かれる。ソングライティングの才もはっきり。


カラフルでダンスフロアー向きな楽曲群の中に、突然こんな断腸の別れの歌(8曲め "Urt")も入っている。
お互いに足りないものなどほとんどなかった
お互いに傷つけ合った
息切れがするまで
小さな炎は燃え続けた
二人の目に映っていた
無邪気さはもはやない
静寂が必要だ
きみに別れを告げるために

これ、マニュ・チャオ "Je ne t'aime plus"を想わずにはいられないではないか。それにかこつけるわけではないが、このフュチュロ・ペロのアルバムは、2020年型の『クランデスティーノ』(マニュ・チャオ 1998年)と聞くことができると思いますよ。
 そういうマノ・ネグラ/マニュ・チャオのカラーが濃く感じられるのが9曲めの"Grey"。リフレインのハモり方とか、特に。


 入院中、本当に元気づけられた。ポジティヴなパワーと若返りのセンセーションもらった。ありがっとう! Muchas Gracias !

<<< トラックリスト >>>
1. 1st of May
2. Swamp
3. Nefertiti (feat, Neysa May)
4. Terror (feat. La Flaca)
5. Come down (feat. La Flaca)

6. Gala (feat. Mila Stanly)
7. Don (feat. La Flaca)
8. Urt

9. Grey
10. Samba
11. Burrito (feat. Anna Majidson)
12. Deal (feat. Neysa May)
13. Yard
14. Muppet

FUTURO PELO "A BIGGER SPLASH"
CD/LP/Digital PAIN SURPRISES/DELICIEUSES MUSIQUE
フランスでのリリース:2020年2月7日

カストール爺の採点:★★★★☆ 

(↓)Futuro Pelo "Swamp"

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