2022年1月11日火曜日

Requiem pour un twisteur ツイストびとのための鎮魂歌

"Twist à Bamako"
『ツイスト・ア・バマコ』

2021年フランス映画
監督:ロベール・ゲディギアン
主演:ステファヌ・バク、アリシア・ダ・ルス・ゴメス
フランスでの公開:2022年1月5日


マルセイユ人情映画のスペシャリスト、ロベール・ゲディギアン監督が初めてマルセイユを抜け出して撮った作品。舞台は1962年のバマコ。(撮影ロケは昨今のマリの政情では不可能なので、隣国セネガル、ダカール郊外で当時のバマコを再現して行われている)。フランスの100年以上にわたる植民地支配から独立してできたばかりのマリ共和国、初代大統領モディボ・ケイタはソ連と中国との関係を強化し、社会主義国家建設を強力に推進する。バマコの(ある種裕福な)繊維業者の息子で20歳のサンバ(演ステファヌ・バク)は優秀な学業成績と優れた弁舌の才能を持ち、社会主義的理想に燃える好青年で、新国家建設の前衛たる青年隊幹部として、積極的に地方に出向いて新社会づくりの実行班活動の毎日。明るい未来を一身に背負ったような、すがすがしい顔とさわやかで力強い演説で、行く先々での受けもよい。脱植民地革命は前途洋洋のように見える。
 この新しい時代を謳歌する若者たちは、日が沈むと"サップ”に着飾ってクラブに集まり、朝までツイスト/ロックンロールを踊って過ごすのである。この映画のクラブのシーンで流れる音楽は:「ツイスト・ア・サントロペ」(レ・シャ・ソヴァージュ)、「スーヴニール・スーヴニール」(ジョニー・アリデイ)、「シェイク」(オーティス・レディング)、「ビー・マイ・ベイビー」(ロネッツ)、「ハレルヤ、アイ・ラヴ・ハー・ソー」(レイ・チャールズ)、「サーフ&シャウト」(アイズレー・ブラザース)、「レッツ・ツイスト・アゲイン」(チャビー・チェッカー)などなど。すなわちフランスのイエイエとアメリカのR&Bなど1962年的欧米若者人気音楽とシンクロしたもの。オプティミスティックなサンバは脱植民地革命はロックンロールのリズムで進行すると豪語する。しかし「革命幹部」たちはそうは思わないのである。これは欧米帝国主義の退廃音楽であるからして、社会主義建設には悪影響しかない、という教条スターリン主義が徐々に。
 背景には「旧フランス領スーダン」から独立した二つの国、セネガルとマリが独立後の路線の違い(欧米寄りのセネガル、ソ連中国寄りのマリ)から対立し、マリの指導者たちが厳格な統制経済体制の確立を急ぐことになったことがある。結果的に民衆が独立の熱狂に沸いた恩寵の時代は非常に短いものとなる。
 映画はサンバとその青年革命支援隊のメンバーが地方に赴き、そこで社会主義建設の意義を住民に説き、教育や農業の支援を行うところから始まる。サンバは一貫して(公用語)フランス語で人々に話そうとするのだが、村によっては理解を得られないところがある。その村はバンバラ語しかわからない。サンバに代わって隊員のひとりがバンバラ語で教宣していると、村の首長が出てきて完璧なフランス語で村の宴に招待するから、今夜はここに残れ、と。村の長にふさわしい人格者であり碩学であり論客でもあるこの初老の男は、電気も通っていないこの村でこの社会を昔からつつがなく回しているのは伝統のおかげであるという論を言う。急速な変化を必要とせず、伝統を尊び守っていくことこそ肝要と。進歩派サンバらからすれば最も手強い保守反動論であり、乗り越えなければならないものであるが、古いアフリカはどっこい動かない。
 その村からバマコに戻る途中、彼らの乗ったピックアップバンにひとりの密航者が潜んでいることが発覚。娘の名はララ(演アリシア・ダ・ルス、素晴らしい!)、親同士の取り決めで強制結婚させられ、夫の家から逃げ出してきた、と。サンバは彼の目指す社会主義では強制結婚や一夫多妻制や陰核除去などの因習はすべて廃止されるべきと考える理想家であるがゆえに、この娘を棄てていくわけにはいかない。家族や党に隠して、ララをバマコに連れて行き、住むところと職を世話してやる。仲間たちの連帯に助けられ、この村から出てきた無一物の娘は、都会的に変身し、”サップ”に着飾り、メイクをほどこし、クラブに行ってツイストを踊るようになるのである。
 ロベール・ゲディギアンがこの映画を制作することになった最大のきっかけは、2017年パリのフォンダシオン・カルティエで催されたマリック・シディベの写真展『マリ・ツイスト』で受けた強烈なショックだった。同エキスポのトレーラー(↓)

このあまりに短かったバマコの「ツイストブーム」を記録した写真の数々に、ゲディギアンは自らのマルセイユの青春期と同じヴァイブレーションを感じたのだそうだ。このマリック・シディベに敬意を表して、この映画の中にもひとりの写真家が登場して、クラブやストリートやビーチに出現してこのまばゆいバマコの青春群像を写真に収めている。この美しい写真の数々が、映画のラストで非常に重要な役割を果たすのだが、それはバラさないでおく。
 さて爆発するバマコの青春は、サンバとララの恋の急速な盛り上がりを頂点(ララはサンバの子を妊娠する)に、美しいシーンをしばし続けるのだが、長続きはしない。ララが強制的に嫁がされたのは、あの村の首長の息子のひとりであり、首長は家の名誉を汚されたことで息子を強く責め、あらゆる手段を使ってもララを連れ戻すことを厳命する。きわめて暴力的な追っ手はほどなくバマコまでやってきてその魔手をララに延ばさんとしている。独立政府はさまざまな締め付け政策を打ち出し、禁酒令、音楽とダンスおよびクラブ営業の禁止を決め、ツイスト時代は終わる。また独立政府は経済統制を強化して、自由交易を極端に制限し、その影響をもろに受けて立ち行かなくなったサンバの父の繊維業をはじめ、商工界は自由経済を奪回すべく、政府への直接抗議活動として大規模なデモを組織する。デモは暴徒化し、独立政府はなんとか鎮圧することができたが、大統領モディボ・ケイタはこれをクーデター未遂と断定し、首謀者を重罰に処すると発表し、その首謀者のひとりにサンバの父がいた。サンバは反革命分子として党を除名され、かつての青年隊の仲間たちからも見放される。サンバもララもバマコで生きるのが困難になってくる。
 村の追っ手の魔手からララを逃すため、サンバはララを隣国セネガルのダカールに避難させるプランを立てる。そしてバマコの駅で、ララを乗せたダカール行きの電車が出発する前に、まさにウェストサイド・ストーリーのように、サンバは刺殺されてしまう...。

 たしかに描き方が戯画的であるところもある。アフリカの社会主義建設やサハラの封建的因習や、アメリカン・グラフィティー的な青春や...。100年以上もこの大陸を隷属してきたフランスの映画人がこんな描き方でいいのか、と思うところもないではない。だが、この映画の陽光のような短い青春の爆発は希望である。映画のラストは、どうにかこうにか生き残り、孫と共にマリ北部で生きている老婆ララの2015年の姿である。イスラム過激派に軍事的に制圧された頃のあの地区で、ララは(↑あの当時撮られた写真をいっぱい壁に貼り付けた)家の中で大きな音で音楽をかけて孫たちと踊っている。そして外に出て、カラシニコフ銃を構えた男たちに目もくれず、踊りながら頭からスカーフを外していく...。老婆はあの夢のようなバマコのツイストが忘れられないのだ。レッツ・ツイスト・アゲイン!

カストール爺の採点:★★★☆☆

(↓)『ツイスト・ア・バマコ』予告編


(↓)欧米ツイスト曲に混じって、1曲だけサントラに使われている当時のマリの楽曲で、ブーバカール・トラオレの「マリ・ツイスト」(1963年)


(↓)記事タイトルに拝借したゲンズブール「ツイストびとのための鎮魂歌」、オルガンはエディー・ルイス。(奇しくも1962年)

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