2017年2月7日火曜日

チョコレートを贈る理由は聞かないものだから

90歳おめでとうございます。
  2017年2月7日、ジュリエット・グレコは90歳になった。2015年1月、ジュリエットは歌手引退を宣言、そのさよなら公演「メルシー」ツアーは2015年春に始まり、2017年春に終るはずだったが、2016年3月に脳血管障害に倒れ、それ以降の日程はすべてキャンセルになっている。
 グレコの健康状態を伝えるニュースは2016年9月以降途絶えている。今日2月7日の90歳誕生日を報道する新聞系/芸能誌系のウェブ記事でも、その輝かしい芸歴を讃えることだけで、健康状態への言及はない。
 その芸能誌系のひとつ Gala のウェブ記事は、2013年10月18日の同誌のジュリエット・グレコへのインタヴューの編集再録で、ジュリエットが愛した男たち(ジャック・ブレル、ボリズ・ヴィアン、マイルス・デイヴィス、セルジュ・ゲンズブール、ジェラール・ジュアネスト)について語った回想をまとめている。その中のゲンズブールをめぐる回想を以下に訳してみる。
1963年にゲンズブールは私のために「ラ・ジャヴァネーズ」を書いてくれた。その中に彼の心のうちを "De vous à moi, vous m'avez eu..." (あなたから私への方向では、あなたは私を虜にしたのですよ)と明かして。私と彼は何度も二人だけで外出したし、私は彼と一緒にいて信じられないほど楽しかった。彼はとても教養があって、意外な面がたくさんあり、感受性の強い人だった。彼はその外見に関して受けるあらゆる侮辱を体で受け止めていた。彼は絶対的な天才。素晴らしい作詞作曲家にして映画人、そして画家でもあった。私は彼に残された数少ない絵のひとつを持っている。ある夜、彼が片手にある包みを持って家にやってきた。それは1枚の絵で、そこには幼い頃の彼とその妹が描かれていた。「セルジュ、なんて美しいの」と私が言うと、彼は「これはあんたのために取っておいたんだ。他の絵は昨日全部焼いてしまった」と答えた。私は何も彼に問わなかった。人がチョコレートをプレゼントしてくれるのに、私は理由を聞いてはいけないと思うから。
チョコレートを贈る人に理由は聞かないもの。
2017年2月14日、同志たち、よき聖バレンタインを。

(↓)ジョアン・スファール映画『ゲンズブール、その英雄的生涯』(2010年)の中のゲンズブール(エリック・エルモスニノ)とジュリエット・グレコ(アンナ・ムーグラリス)による「ラ・ジャヴァネーズ」誕生のシーン。


(↓)ジュリエット・グレコとイブラヒム・マールーフ「ラ・ジャヴァネーズ」(2014年パリ、オランピア劇場)




P.S. (追記 2017年2月8日)
ゲンズブールの絵がグレコ邸から盗まれる
民放ラジオRTLのウェブ版で2015年11月6日に掲載された報道によると、オワーズ県のジュリエット・グレコ邸の2階寝室に飾ってあったゲンズブールの描いた絵(子供時代のリュシアン・ギンズブルグと妹のリリアンヌが描かれていて、署名は "ginsburg"となっている)が盗まれていたことがわかりました。
「とても暗い色をしていたのでおかしいと思って近づいてみたら模造画だった」とグレコは証言している。つまり犯人はこの絵を盗んだのちに、模造画とすり替えていたのです。「この絵は私の命の一部」であり「セルジュとの出会い、私と彼の会話、一緒にした仕事のすべて」を証言するものとグレコは言い、ラジオ放送を通して犯人に対して「この事件に関する告訴はしない。ただこの絵があるべき場所に戻して欲しい。これは私のものであり、私の命の一部、私の大切な思い出なのだから」と訴えたのでした。
その後これに関する情報は見つからないので、どうなったことやら。

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