2010年2月14日日曜日
ピアノマンのいる情景
Pascal Sangla "Une petite pause"
パスカル・サングラ『小休止』
南西フランス・バスク地方のバイヨンヌ出身の俳優兼シンガーソングライターです。修行時代はさまざまな舞台に立って,俳優やったり,歌手やったり,ピアニストやったり,ということなんですが,そういう叩き上げみたいな舞台での存在感があります。そして彼がイニシアチヴを取ってスペクタクルを立ち上げようとした時,舞台の中心にピアノを置いたのです。
パスカル・サングラはピアノマンです。ピアノで笑わせたり泣かせたり,情景を描いたりするわけです。テクがどうのというのではなく,ピアノ使っていろんなことができる幸せなピアノ弾きです。フランスでは珍しいビリー・ジョエルやランディー・ニューマン型の音楽を作る人です。フランスにありがちなミッシェル・ベルジェやヴェロニク・サンソンのパターンよりもミッシェル・ルグランに近いとも言えます。すなわちメロディーやリズムパターンが豊富なのです。この辺で気に入ってくれる人もありましょう。
ステージではピアノトリオです。コントラバスとドラムス。どちらもピアノマンのよく働く手下で、コントラバス君はピアノマンの実の弟です。そしてどういう情景が展開するかと言うと、例えば雨です。雨音とピアノ、古今多くの例を見る常套的で月並みなピアノと雨とのハーモニーが、パスカル・サングラの手にかかると(2曲め"Il pleut" = 雨が降る)、雨は二人を家の中にとどめる愛の助っ人であり、雨音は街の音をかき消し二人の言葉さえかき消してしまい、二人の微笑みだけの時間を作ってくれるのだが、やがて別れの時に二人の目の中に降る雨となってしまうのです。こういうヴェルレーヌ的な起承転結をピアノマンは雨だれピアノで表現するのですね。
グランドピアノではないのです。たぶんクラヴィノーヴァ。ちょっと重いけれど、無理すれば背中にしょって旅をすることもできる。そういうピアノ背負ったロード・ムーヴィーのような11曲め"AVEC MON PIANO"は、若き日のエルトン・ジョンのようなピアノ・ホーボーを思わせます。
かと思うと、故ジャック・カネティの有名なシャンソン劇場「トロワ・ボーデ」の再オープン(2008年)の際のシャンソン・コンテストに応募したという曲(5曲め"Le plus beau des trois"ル・プリュ・ボー・デ・トロワ。題からしてトロワ・ボーデのもじり)は、荒唐無稽ながら「トロワ・ボーデ」という語音にかけたあらゆる地口/駄洒落を集めて構成された、戦略的な「コンテスト絶対入賞ねらい」の怪作。
というわけでいろいろできる人なのですが、アルバムタイトル曲(9曲め"Une Petite Pause"=小休止)は、文字通りピアノマン氏の休息の歌で、シンプルな言葉で、昼の喧噪から離れて夜更けにやってくる一人の静寂の時間をいつくしむという、聞く側もほっとするような美しい休息への誘い。ビル・マーレイなら Make it Suntory time...と言いそうな...。
<<< トラックリスト >>>
1. Comme ça
2. Il pleut
3. La dame pipi
4. Une voix...
5. Le plus beau des trois
6. Si elle a un problème
7. Le papillon blanc
8. L'air de pas y toucher
9. Une petite pause
10. Manèges
11. Avec mon piano
12. 141
13. De fil en aiguille
14. Assis par terre
PASCAL SANGLA "UNE PETITE PAUSE"
CD Autre Distribution AD1436C
フランスでのリリース:2010年2月8日
(↓)2007年のライヴ映像 "L'AIR DE PAS Y TOUCHER"
(↓)2007年のライヴ映像 "UNE PETITE PAUSE"
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