Théodora "Ils me rient tous au nez" (Live version, feat. Chilly Gonzales) テオドラ「みんな私を鼻で笑う」(ライヴ・ヴァージョン、feat. チリー・ゴンザレス)
From mixtape "MEGA BBL" (Réédition) (2025年5月29日リリース)
テオドラは今22歳。コンゴ民主共和国(RDC)出身の両親のもと、ルッツェルン(スイス)生まれ、RDCコンゴとフランスの二重国籍、17歳の時から音楽アーチストとして活動しているが、大ブレイクは2024年、TikTokに端を発した"Kongolese Sous BBL"の大ヒット。この"BBL"とは3つの意味で使っているが、この歌では Brazilian Butt Liftという臀部のヴォリュームを大きくする整形手術の意味で、肉感セクシーを誇示する女性たちをあっけらかんと体現してしまっている。またテオドラの別源氏名でBig Boss Ladyを自称しているのだが、奇天烈エキセントリックなイデタチのアフロ黒人女性たちのリーダー格を自認している所以。そして初アルバムで連作として展開されるBad Boy Lovestory もBBLのひとつ。 この”Bad Boy Lovestory”をタイトルにした13曲33分のテオドラ初のアルバム(彼女はアルバムではなく Mixtape と呼んでいる)がリリースされたのが2024年11月1日。これに「みんな私を鼻で笑う Ils me rient tous au nez」のオリジナルヴァージョンが収められている。それはそれで悪くないのであるが。 その7ヶ月後、(フランス最高の人気を誇るマルセイユのラッパー)JUL、今や中堅大物女性SSWジュリエット・アルマネなどを招いて、12トラック31分を追加した増補版アルバム”MEGA BBL"(25トラック66分)を2025年5月29日にリリースしている。これがまた大ブレイクで、フランスのアーバンミュージック専門アワード”Les Flammes"賞で最優秀新人女性アーチストに選出され、さらに2026年4月の4日間のパリ・ゼニット(キャパ7千)のコンサートチケットを15分で完売した。世界的には(ビルボードによると)”フランス語”アーチストとしてアイヤ・ナカムラに次ぐ第二位のリスナー数を獲得している。いやはや、短期間で大変な出世を成し遂げたのである。 さてこの"MEGA BBL”の最終の25トラックめに収めされているのが、チリー・ゴンザレスによるピアノ+ストリングスアレンジ+プロデュースで録音された「みんな私を鼻で笑う Ils me rient tous au nez」のライヴヴァージョン(3分)なのである。
J'ai souvent trop donné 私はしょっちゅうやりすぎるのよ Ils me rient tous au nez みんな私を鼻で笑う Quand je les traite d'ingrats 彼らのことをつまらない奴らとあしらうと Ils disent qu'ils m'avaient pas sonné おまえのことなんか何とも思わないと言われる Pourtant, j'suis juste passionnelle でも私は激情的なのよ Au point d'en perdre sommeil 眠気を失ってしまうほどに Si j't'aime et que ça va pas あなたが好きで何かうまく行かないんだったら Sans demander, je te passe mon aide 頼まれなくても、私はあなたに助け舟を出すわ Mais comme moi, personne n'aime でも私と同じように、誰も好きじゃないの Toi non plus, rien de personnel あなたも同じ、全然個性的じゃない Tes messages donnent hyper sommeil あなたのメッセージは過剰に眠気を誘うのよ Donc j'ai le plaide et le bon sommier だから私にはブランケットとベッドが要るの Pourtant, j'suis juste passionnelle でも私は激情的なのよ Au point d'en perdre sommeil 眠気を失ってしまうほどに Si j't'aime et que ça va pas あなたが好きで何かうまく行かないんだったら Sans demander, je te passe mon aide 頼まれなくても、私はあなたに助け舟を出すわ
Les super vilains l'sont pour une raison 超タチ悪がそうなのは理由あってのこと Moi, j'suis une garce née, un peu trop garçonnée 私は生まれついてのあばずれ、ちょっと男勝りすぎた Méchante à cause de la pression qui me monte au nez むかつくプレッシャーのせいで意地悪になるのよ Trop gentille, tous me frappent 優しすぎると、みんなに叩かれる C'est moi qu'ai tendu le putain de bâtonnet 私がその忌々しい棒を差し出したのよ Stationne devant mon cœur, évite de sonner 私の心の真ん前に立って、音を出さないで Les problèmes m'ont déjà fait perdre sommeil 既にいろんな問題が私の眠気を失せてしまったの Mon cœur est resté seul plusieurs longues semaines 私の心はもう何週間も孤独のまま Pourtant, j'ai pleuré, personne m'a tendu sa main (mh-mh) でも私は泣いたのよ、それでも誰も手を差し伸べてくれなかった Mais comme moi, personne n'aime でも私と同じように、誰も好きじゃないの Toi non plus, rien de personnel あなたも同じ、全然個性的じゃない Tes messages donnent hyper sommeil あなたのメッセージは過剰に眠気を誘うのよ Donc j'ai le plaide et le bon sommier だから私にはブランケットとベッドが要るの Pourtant, j'suis juste passionnelle でも私は激情的なのよ Au point d'en perdre sommeil 眠気を失ってしまうほどに Si j't'aime et que ça va pas あなたが好きで何かうまく行かないんだったら Sans demander, je te passe mon aide 頼まれなくても、私はあなたに助け舟を出すわ
Pourtant, j'suis juste passionnelle でも私は激情的なだけなのよ Au point d'en perdre sommeil 眠気を失ってしまうほどに 何度聴いても、この2行のところで涙が迸り出る。これはこういう歌なのだ。ゴンザレスのピアノとストリングスもおおいに泣かせる。そしてテオドラの歌も泣いている。2025年、私はこの歌で何度泣いたことだろう。バス/地下鉄の中のヘッドフォンでやってしまったこともある。 (↓)YouTubeに載ってたゴンザレス+テオドラのアコースティック・ヴァージョン。
2024年3月、同年7月に開幕するパリ・オリンピックの開会セレモニーにアイヤ・ナカムラが出演するらしい、しかもフランスシャンソンの至宝エディット・ピアフの歌を歌うらしい、という”情報もれ”が一部メディアで報じられた。ここから悍ましいまでの囂々たるナカムラ・バッシングが始まる。ウルトラ極右グループがセーヌ河岸に「ここはパリでバマコの市場ではない」というレイシズム丸出しの横断幕を掲げる(→写真)。極右政党RN党首マリーヌ・ル・ペンはアイヤ・ナカムラがオリンピックで国を代表して歌うことは「フランス国民を侮辱すること」と断じた。RN党幹部がこぞってメディア上でそのオリンピック開会式出演中止を訴える。極右ルコンケート党、他保守政党の右派のメンメンも同じキャンペーンを張った。加えて今や極右系大メディアグループとなったヴァンサン・ボロレ傘下のテレビ・ラジオ・新聞・出版各社(CNEWS、 Europe 1、JDD、Fayard...)も総動員でナカムラ攻撃を展開する。曰くフランスを代表する”容姿”ではない、その歌詞は全く”フランス語”とは言えない、下品で低俗である...。その攻撃の根拠のひとつとなったのが、調査会社Odoxaによるアンケート調査(2024年4月発表)が挙げた「63%のフランス人がアイヤ・ナカムラ出演を良しとしない」「73%のフランス人はその歌を嫌っている」などの数字であった。その勢いはメディアもさることながらネット上でさらに輪をかけて凶暴になり、アイヤ・ナカムラとその家族親族は夥しい数のサイバーハラスメントに晒されている...。2024年春、「アイヤ・ナカムラ」は(当人が全く意図したわけではない)政治的事件であった。レイシズムを糾弾し、アイヤ・ナカムラを擁護する、ということは、轟々に盛り上がる極右勢力と真っ向から戦うことであった。そして当人アイヤ・ナカムラは一切表に出ることなく、五輪開会セレモニー総合監督のトマ・ジョリーと本番での”反撃”を秘密裡に準備していた...。
含みはいろいろある。まずフランス学士院、これは”フランス語の殿堂”であり、古くもあり新しくもあるフランス語を生きた言語として保護・監督・再創造する仏語学長老たちが集う場所である。極右からその”フランス語”を揶揄嘲笑されたアイヤが、フランス語の殿堂を後ろ盾にするように歩み出したのである。そしてシャンソン・フランセーズの巨匠にして巧みなフランス語達人であったシャルル・アズナヴールの英仏語ちゃんぽんの語呂合わせ遊び曲「For me formidable」(1963年)をナカムラ流に歌ってみせた。彼女がフランス語の伝統と、シャンソン・フランセーズの伝統をリスペクトし、それを継承するものである、という鮮やかなメッセージである。その前後に持ち歌(アイヤ・ナカムラの2大代表曲)”Pookie"と"Djadja"を披露する。後半の”Djadja"では、フランスの国家的セレモニーの(国歌演奏などの)公式音楽隊であるガルド・レピュブリケーヌ(共和国親衛軍楽隊)の吹奏楽団と合唱団が "Djadja"に合わせて踊りながら伴奏する、という(常識を覆す)演出がなされている。先入観を打ち破る新旧&硬軟の味のある調和、これがフランスの現在進行形の音楽、と世界に見せつけた瞬間だった。この時、この五輪開会セレモニーのテレビ視聴数は平均で2400万だったのが、アイヤ登場時に3100万に跳ね上がった。このアイヤ・ナカムラによる視聴ピークは、聖火台点火シーンよりも、エッフェル塔上のセリーヌ・ディオン「愛の讃歌」よりもはるかに高かったのである。
Je m'en fous des gens, maintenant, je fais ce que je veux 人のことなんかどうでもいいの、私はやりたいようにやる Je sais qui je suis, donc moi je fais ce que je veux 私は自分が誰かを知っている、だから私はやりたいようにやる On m'a fait des phases, mais avec eux j'ai avancé 人は私に言葉をかけた、そのおかげで私は前に進めた Mais avec eux j'étais sincère, ouais (j'étais sincère) あの人たちと私は本気の関係だった、そうよ私は本気だった Tellement mon cœur est pur, j'me remettais en question (en question) 私の心が純粋すぎたから、私はそれを疑うようになった Où sont passés certains amis à qui je me confiais 私が信頼していた友人たちはどこに行ってしまったの Je leur ferai plus confiance, même à des membres de la famille 私はもう信頼していない、家族たちも同じよ (Même à des membres de la famille) (家族たちも同じよ) Ils me comparent あの人たちは私を À la Madrina 「ラ・マドリーナ」(※)のようだと言った Mais j'suis pire que la Madrina (dure comme la Madrina) でも私はラ・マドリーナよりひどいのよ(ラ・マドリーナのように強いわ) J'suis devenue pire, pire, pire 私はどんどん悪くなっていった、もっともっと悪く J'ai les sentiments anesthésiés たくさんの感情が麻痺してしまった Plein de souvenirs à effacer さまざまな機会に私を傷つけてきた Par des moments qui m'ont traumatisée たくさんの思い出を消さなければ Donc j'ai les sentiments anesthésiés 私はたくさんの感情が麻痺してしまった Comment je pourrais oublier どうしたら忘れられるの? J'ai pardonné, mes douleurs coulent, coulent dans mes veines (dans mes veines) 私は罪を許したのに、私の苦痛は血管の中に流れている Moi, j'ai jamais cherché la guerre 私は戦争を起こそうとしたことなんかない J'suis plutôt cool, tu savais pas que j'étais la plus vorace (la plus vorace) 私はむしろクールな女、あんたは私が貪欲だってことを知らなかっただけ Son daddy? この子のダディー? Cherche pas la merde quand je te parle 厄介ごとを探さないで C'est ton daddy? あんたのダディー? Tu vois très bien c'que je veux dire, mais tu fais semblant (ouais, il fait ça) 私の言いたいことよくわかってるくせに、あんたはふりをする J'vais pas rentrer dans tes vieux jeux, parce que je m'y perds (parce que je m'y perds) あんたの古い手にはかからないわ、私は何が何だかわからない(何だかわからない) (J'y perds de l'énergie) (私は消耗してしまう) (Parce que j'y perds de l'énergie) (だって私は消耗してるんだから) Aïe, aïe, aïe, j'avoue avant j'étais naïve (j'étais naïve) 白状するわ、私はウブだったのよ Mais j'dois vous remercier, grâce à vous j'connais le vice (j'connais le vice) あんたたちに感謝するわ、あんたたちのおかげで私は悪を知ったのよ Je pratique le vice (je pratique le vice) 私は悪を行使する Je sais ce qui rend love 私はLoveになるものを知っている Tous les jours, je fais des victimes ça recommence 毎日私は犠牲者を出している、それがまた始まるの J'ai les sentiments anesthésiés たくさんの感情が麻痺してしまった Plein de souvenirs à effacer さまざまな機会に私を傷つけてきた Par des moments qui m'ont traumatisée たくさんの思い出を消さなければ Donc j'ai les sentiments anesthésiés 私はたくさんの感情が麻痺してしまった Tu disais que tu m'aimais
あんたは私が好きって言ってたわね (Tu disais que tu m'aimais fort) (あんたは私が好きって言ってたわね) Mais dans quelles conditions でもどんな条件で (Mais dans quelles conditions) (でもどんな条件で) J'suis sensible et rancunière 私は感じやすくて根に持つタイプなの (Pardon, pardon) (ごめんなさい) Mais dans quelles conditions でもどんな条件で (Mais dans quelles conditions) (でもどんな条件で)
とは言え17曲のアルバムは総じて「一皮剥けた」感はなく、95%が女性ファンだというその少女層から同世代層までを歌詞丸暗記させ唱和させ一晩中(ナカムラダンスで)踊らせるアフロ・ズーク(オラが国さのR&B)に満ちていて、このアネさんに一生ついていくわ感をひときわ高揚させてくれる。姐御(アネゴ)の顔もあれば女王(”わたしを女王様とお呼びっ”の方)の顔もある。それはゲームであり、官能と誘惑によって征服を勝ち取る”権力”(パワー、Pouvoir)競争である。こうすれば勝つのよ、と姐さんは子分(少女ファン)たちに実践教唆しているようなところがある。 ハイチ系の(コンパ)R&Bシンガー、ジョエ・ドウェット・フィレがフィーチャリング登場している「バディーズ Baddies」(16曲め)は、”バディー”(アメリカ英語訛りのbodyか)の効力について実践レッスンを。(※ ”Jacques a dit” とは幼児のする命令遊び、”ジャカディ”で始まる命令に従い、”ジャカディ”と言わない命令に従ったら負け)
Soit d'la magie, j'en fais des tonnes, avec mes atouts je matrixe (matrixe) 魔法なら、私にはいくらでもできるわ、私の手にかかれば人を術中にはめられる On parle des heures au téléphone, j'avoue, je le matrixe 何時間も電話で話すのは、実は私は彼を手玉に取っているのよ Il dit qu'j'suis chiante et capricieuse mais le voilà rebelotte 彼は私を腹立たしい気まぐれ女だと言うけれど、もっととねだるの Des câlins, des caresses, en vrai, il en redemande おさわり、なでなで、彼はもっととねだるの J'ai choqué, choqué, choqué, choqué, choqué le boug (j'ai choqué, choqué) 私はどんな男にもショックを与えてきたの、ショックをショックをショックを Choqué, choqué, choqué, choqué, choqué le boug (j'ai choqué, choqué) 男にショックをショックをショックをショックを T'aimes trop les folles comme moi, assume (t'aimes trop les folles comme moi, assume) あんたは私みたいな狂女が大好きよね、白状なさい Faut du cardio, j'te l'avais dit (faut du cardio, j'te l'avais dit) 心臓医が必要ね、忠告したでしょ Mon body style c'est sexy, sexy, sexy (sexy, sexy) 私のボディースタイル、セクシーセクシーセクシー Même quand je marche, les gens disent, "elle est sexy" (sexy) 歩いているだけでみんな言うわ「あの娘はセクシーセクシー」 J'veux minimum dix compliments c't après-midi 午後だけで最低10回のお世辞を言われたいわ Dès qu'il m'a vue, il a dit, "je veux cette fille" 私を一眼見ただけで、彼は「この女が欲しい」って言った Des attitudes de baddies (des attitudes de baddies, ah-ah) バディーアティチュード、バディーアティチュード、ああ、ああ、 Ça te dérange? Tu m'as pas dit (ça te dérange? Tu m'as pas dit, ah-ah) 気に触った?あんた私に言わなかった?ああ、ああ、 Je le contrôle, Jacques a dit (je le contrôle, Jacques a dit, ah-ah) 私が命令するの Jaques a dit(※) ああ、ああ、 C'est normal, j'suis sa gadji (mais c'est normal, j'suis sa gadji, ah-ah) 当然よ、私は彼のイイコなんだもの、ああ、ああ、 Je le domine, il donne tout, tout, tout (il donne tout, tout, tout) 私は彼を支配し、彼は捧げるのすべてをすべてをすべてを Avec moi, il est doux, doux, doux (il est doux, doux, doux) 私と一緒なら彼はやさしいやさしいやさしい Je le domine, il donne tout, tout, tout (il donne tout, tout, tout) 私は彼を支配し、彼は捧げるのすべてをすべてをすべてを Avec moi, il est doux, doux, doux (il est doux, doux, doux) 私と一緒なら彼はやさしいやさしいやさしい
私はこうやってアイヤのフランス語詞を訳すのが大好きだ。いろんな新しいアイヤ語彙に出会える。1行目の”Matrixer(マトリクセ)"という動詞、当然あの「マトリックス」に由来するのだが、何か(あるいは何者か)の呪縛の中に陥れることの意味のようだ。私はこれを「手玉に摂る」「術中にはめる」と訳したのだが、あっているかどうかはわからない。 5曲め「ノー・ストレス No stress」では、アイヤにとってはラヴ(love)と愛情(affection)は別物であることがわかる。この二つを捧げてくれる男がパーフェクトな恋人となるようだ。
Tout, tout, tombé love すべてはラヴに落ちる Il est tombé dans mes bras 彼は私の腕の中に落ちる Tout, tout, tombé love すべてはラヴに落ちる Il est tombé dans mes bras 彼は私の腕の中に落ちる Ah, automatique (automatique) ああ、自動的なことよ Je lui fais de l'effet automatique (automatique) 私は彼を自動効果をかけてやる Ah, téma ma shape ああ、私のボディーラインをこっそり見て Il fait que de me regarder, fait que me cheb 彼は私を見つめ、誘惑するばかり Tout est clean-clean, il aime bien le bling-bling みんなクリーンクリーン、彼は派手派手が好き Il aime bien les folles comme moi 彼は私みたいな狂った女が好き Dans sa te-tê, j'ai fait dring-dring, j'crois, je suis dans un délire 彼の頭の中で私は鐘をガンガン鳴らす、もう狂気の中ね Je veux qu'il s'habille comme moi 私みたいに彼が着飾って欲しい Tout en douceur mais ça sort comme ça sort ゆっくりだけど始まるものは始まっていくわ Émotions commencent à toucher mon cœur, yeah エモーションが私の心に触れ始めるわ、イエー No stress, no stress ノー・ストレス、ノー・ストレス En détente quand tu m'appelles 私を呼ぶならリラックスして Bébé, no stress, no stress べべ、ノー・ストレス、ノー・ストレス Même dans mes rêves ta voix m'apaise 夢の中でもあなたの声は私をリラックスさせる Affection (affection) 愛する心 J'veux que du love et de l'affection (et de l'affection) 私はラヴと愛情が欲しいのよ Donne-moi tout, donne-moi affection (donne-moi affection) 私にすべてをちょうだい、私に愛情をちょうだい Je veux que tu m'aimes à la perfection (à la perfection) 私はあなたにパーフェクトに愛されたいの
この歌でも 7行目に "téma ma shape"という一見わけのわからないアイヤ語に出会う。これは mater(覗き見する) ma shape(英語シェイプ、かっこう、体型)なのだろうが、私の訳は合ってるだろうか。それはそれとして、ラヴとアフェクシオン(affection 愛情、愛する心)という二つのものを欲しがっている歌である。ということはラヴは肉体のことなのだろうか。若い人たちには違いがわかるのだろうね。爺さんは愛情だけでとても満たされるけど。
そしてこういう別れの哀歌(ブルース)もある。
J'ai pas loupé, loupé l'appel, pas du tout (Pas du tout) あなたのコールをミスったんじゃない、全然そうじゃない Toi, tu me causes des soucis あなたは私に厄介ごとを起こすのよ J'pars en week-end aux Seychelles pour l'mois d'août 私は8月の週末にセイシェル島へ行く Mes douleurs sont sensibles 私は苦痛に敏感なの J'ai besoin d'sunshine loin de tout 私は遠く離れてサンシャシンに浸りたいの Tu fais l'intéressant, moi j'perds le goût あなたは気を引こうとするけど、私は興味を失ってるの Et si j'pense à moi, j'arrête tout (Tout, tout, tout) 自分のことを考えるなら、私はすべてをやめるわ Le seul chemin possible それが唯一可能な出口
Blues (J'ai le blues), j'ai le blues (J'ai le blues) 塞ぎの虫、私はブルースに見舞われている J'suis pas forte quand il s'agit de casser 別れることに関しては、私は得意じゃないわ D'autres, y'en a d'autres 他のことがあるのよ、他のことが J'espère bien qu'le message il est passé 私の言いたいことが伝わるといいな Comportement j'suis à bout (J'suis à bout) 私はもう身動きもやっとなの(私は限界)) J'le vois flou (J'le vois) 見えるものはぼんやり Je laisse mes doutes (Dou-dou-doutes) 疑いは全部 Foutre le camp (Foutre le camp) 消えてなくなって欲しい Attention (Attention), y'en a d'autres (Y'en a d'autres) でも聞いて、まだ他にもあるのよ J'espère qu'le message il est passé, oh 私の言いたいことが伝わるといいな、おお
アルバムは同じような流れだが、大きなテーマは4つある。ポップスターのバーンアウト、逃走/逃避、初めての子/父親になることへの恐怖、(妖怪との闘いの末の)人格分裂/オレルサマ("Sama")の出現。アルバムタイトルが示すように、最重要のテーマは逃避であり、どこまで逃げてもどこまでも追ってくるものとのエンドレスな闘いである。追ってくるもの、これを西洋人はデーモンと呼び、日本人は妖怪と呼ぶ、なんていうわかりやすい図式。 冒頭の「契約 Le Pacte」から、燃え尽き症候群で現実から逃避しようとする仏ラップのトップスター(おのれ自身)を厳しく追求する”世間さま”の罵りのような激しい駆け足ライムがたたみかける。
Tu l'as voulu, tu l'as eu, maintenant assume (おまえ自身が望んでそれを勝ち得たのだ、責任を全うしろ)
繰り返し連呼される自己責任論の嵐である。スターの座、リミットなく寄ってくるファンたち、全言全身インフルエンサーとなってあらゆる誤解が一人歩きする、責任を全うしろ。 そこから抜けると空虚が襲ってくる。2曲め「もはや何もない Plus rien 」は、フィーチャリングで幾田りら(Yoasobi)が参加しているのだが、この共演はたぶん幾田にも重要なことだったのかな、オレルサンのライムと幾田ヴォーカル部分詞を全日本語訳して、YouTube動画(Lylics video)化している(↓)
Si vous me cherchez, j'suis ailleurs 俺を探してるんだったら、俺はよその地にいて J'suis loin, loin, loin, loin, loin de vous あんたたちから遠い遠い遠い遠いところだから Oublie-moi 俺のことは忘れてくれ
この「よその地」とはとりもなおさず日本のことなんだが。
(↑)日本オタクのフランス若衆に夢見られた”日本”全開のクリップ。とても良くわかるし、多くの(フランスの)若衆にとって日本は間違いなく夢の国なのだが... 爺さんはそのままにしておこうと思うのだよ。 さて映画の方は妻ナナコの妊娠というのが重要なファクターとなっているのだが、アルバムの方は40歳過ぎで初めて父親になる男の期待と不安(5曲め「二人半 Deux et demi 」)と、さらに出産が近づくにつれて父親になることへの恐怖、父親になる準備ができていない自分の葛藤(9曲め「数ヶ月後 Dans quelques mois 」)と二度にわたってこのテーマを登場させている。
Dans quelques mois tout va changer あと数ヶ月ですべては変わるんだ D'ailleurs tout a déjà changé なにしろもうすべてはすべては変わってしまったんだ
J'regarde son ventre et j'me rappelle qu'c'est un mini miracle そのおなかを見ると、これは小さな奇跡なんだと改めて思う Maintenant un plus un font trois, on a fait mentir les maths 今や1+1=3なんだ、数学はうそっぱちだったのさ À l'échographie, je vois sa tête et je verse une petite larme 腹部エコーでその頭部が見えると涙が出てしまう C'est le plus beau film que j'ai vu 今まで見たうちで最も美しい映画みたいだ Et c'est que le début de l'histoire それは物語の始まりなんだ
Dans quelques mois, dans quelques mois, dans quelques mois 数ヶ月後に、数ヶ月後に、数ヶ月後に Il arrive bientôt, j'serai jamais prêt もうすぐそれはやってくる、俺は到底準備できていない Dans quelques mois, dans quelques mois 数ヶ月後までに、数ヶ月後までに J'vois même pas comment j'vais savoir l'élever 俺が子育てのしかたを覚えるなんてできっこない Dans quelques mois, dans quelques mois 数ヶ月後には、数ヶ月後には J'fais la liste des erreurs que j'pourrais faire 俺がやってしまうヘマの数々のリストができてるさ Dans quelques mois, dans quelques mois 数ヶ月後、数ヶ月後...
映画の方は富士山麓の田舎家の井戸に落ちたことを発端に、鎧を纏った男になってしまったオーレリアンが次から次に現れる(水木しげる様式の)妖怪たちに襲われ、果てしない闘いを強いられるのだが、音楽アルバムの方はその妖怪たちとは外在的に出現するものではなく、内在的に噴き出して来る不安や恐怖や強迫観念の化身のように捉えられる。職業(この場合ラップアーチスト)、家族(+来るべき子供)、友だち、ファンを含めた群衆、フランス、ソーシャルネットワーク... それらが自分の心を蝕み、食い尽くされそうになる、と思ってしまうんだね。これは俗に言われる(往々にして40歳頃に起こる)"La Crise Existencielle ラ・クリーズ・エグジスタンシエル=実存的危機”と言い換えていいと思うのですよ。43歳になって心が折れそうになっているオレルサン。 最も激烈にオレルサンを攻撃する曲が12曲め「小さな声 La petite voix 」である。
Regarde la vérité en vrai, c'que t'es devenu 真実を直視しろ、おまえがなってしまった今の姿を Vois c'que t'aurais pu être en vrai, tu t'es perdu おまえが本来なるはずだった姿を思い出せ、おまえは自分を見失ったんだ Arrête de faire le mec rangé, personne n'est dupe 真っ当な男のふりをするのはやめろ、誰も騙されない T'es devenu, en vrai, c'que tu détestais au début 真実は、おまえが自分が元々唾棄していたものになっちまったということだ T'es qu'une merde, mon p'tit Aurélien, en vrai, tu m'as déçu オーレリアンちゃんよ、おまえはクソ野郎だ、俺はおまえにがっかりした Comme t'as déçu tes parents quand tu ratais tes études お前が勉学に失敗しておまえの両親を落胆させたようにな Mais qu'ils aillent se faire foutre, en vrai, mon p'tit Aurélien だが親なんていなくなっちまえばいいんだ、オーレリアンちゃんよ J'suis l'seul qu'il faut qu't'écoutes, en vrai, mon p'tit Aurélien 俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだ、オーレリアンちゃん Regarde où ça t'mène à force de vouloir plaire à tout l'monde みんなに好かれようとした結果一体どうなったかよく見てみろ Ils volent ta part d'oxygène, t'as comme une barre dans les poumons 奴らはおまえの酸素を盗んでいるんだ、おまえの肺に鉄棒を押し付けて Boum-bou-bou-boum-boum, c'est ton cœur qui s'emballe ブン・ブーブー・ブン・ブン、おまえの心臓がバーストする音だ Boum-bou-bou-boum-boum, encore une crise d'angoisse ブン・ブーブー・ブン・ブン、ほらまた苦悶のパニックだ T'oses pas affronter tes p'tits problèmes, donc tu t'caches おまえは些細な問題だと逃げてきたんだ、おまえは身を隠す Et tu t'couches comme pendant les polémiques parce que t'es lâche おまえは臆病だから論争の間身を屈めて逃げ隠れる J'ai toujours su qu't'étais lâche, mais regarde c'que tu gâches 俺はずっとおまえが臆病だと知ってた、おまえが台無しにしたものを見てみろ T'as toutes les choses dont tu rêvais à la moitié d'ton âge mais おまえは若い頃に夢見ていたものすべてを手に入れた、だが Boum-bou-bou-boum-boum, petite biatch ブン・ブーブー・ブン・ブン、牝犬野郎め
自分を責め、自分を否定する自分は、人格分裂し、サイテー人間となった「オレルさん」に退場していただき、強靭な悪の化身となった「オレルさま」(13曲め「さま Sama 」)の登場を見る。
とまあ、こんな形而上学的ストーリーを孕んだアルバムとして仕上がっているのですよ。妖怪戦争の混沌という極端な自我葛藤で、ジキルとハイドのように分裂した「さん」と「さま」を再び統合させるという大団円に向かうのである。それは妖怪の弱点をポジティヴな何かに変容させる ー Turn the scary part of the Yôkaï into something positive ー ということなのだよ。よくわからんとは思うが。(16曲め「隠された真実 Epiphanie」)
Turn the scary part of the Yōkai into something positive
En regardant mes angoisses droit dans les yeux 俺の苦悶をしっかりと直視する Sans les lunettes de la peur 恐怖という色眼鏡を通さずに Sans m'dire qu'tout l'monde m'en veut みんなが俺を恨んでいると自分に言うことなく J'ai compris qu'l'habitude rend banals les trucs précieux 習慣が大切なものをつまらないものにしてしまうと俺はわかった Qu'certaines choses ne changent pas ある種のものは変わらない Mais qu'au final, c'est peut-être mieux だが最終的にはその方がいいのかもしれない Si j'peux pas changer les choses 俺はものごとを変えられないかもしれないけれど J'peux changer comment j'les vois 俺がどうやってそのものごとを見るのかは変えられる Qu'si j'peux pas changer les autres 俺は他の人たちを変えられないけれど J'peux changer leur influence sur moi 他の人たちの俺に及ぼす影響は変えられる
2. Plus rien (feat. 幾田りら) 3. Ailleurs 4. Boss 5. Deux et demi 6. Osaka 7. Encore une fois (feat, Yamê) 8. Internet 9. Dans quelques mois 10. Ou la la la la (feat. Fifty Fifty) 11. Tellement d'amis 12. La Petite Voix 13. Sama 14. Soleil Levant (feat. SDM) 15. Les Monstres
16. Epiphanie 17. Yoroï (feat. Thomas Bangalter)
ORELSAN "LA FUITE EN AVANT" LP/CD/Digital Sony Music フランスでのリリース:2025年11月7日
La notte 夜は Cela i ladri e cela anche un fiore 泥棒だけじゃなくて花も匿っている Sfuggito al giorno ma non a vento e pioggia 日の光から逃れられても、風と雨は防げない E tutti quanti ci fa innamorar そんなすべてのことが僕らを恋に落とすのさ E io vorrei tornare 僕は還りたい Al tempo della mia prima voglia 初めて欲望が目覚めた頃に Quando si godeva ancora まだ育ち盛りだった頃 Mi abbandonai a vivere il fiore 僕は心に花を育てていた Avaro della tua primavera きみの春を大事にしまっていた E ora sconvolto dal dolore 今は苦しみに打ちひしがれ Abbandonato nella mia sventura 不幸の中に投げ捨てられた Se c'è qualcuno che non ha paura もしも怖さ知らずの人がいたら Io prego mi soccorra お願いだから僕を助けに来てほしい Ma il tempo non si ferma でも時間は止めることができない Desiderata vita e trascurato amore 望んでいた生活となおざりにされた恋 Ma finché non si muore avremo sempre un cuore でも死なないでいる限りは人にはまだ心がある E che stringa giuste nozze o che non sappia amare 結婚だけに縛られ、愛することを知らないでいるのか Vorrò sempre tornarе 僕は今でも還りたい Al tempo della mia prima voglia 初めて欲望が目覚めた頃に Quando si godeva ancora まだ育ち盛りだった頃 Mi abbandonai a vivеre il fiore 僕は心に花を育てていた Avaro della tua primavera きみの春を大事にしまっていた E ora sconvolto dal dolore 今は苦しみに打ちひしがれ Abbandonato nella mia sventura 不幸の中に投げ捨てられた Se c'è qualcuno che non ha paura もしも怖さ知らずの人がいたら Io prego mi soccorra お願いだから僕を助けに来てほしい La notte, la notte 夜よ、夜よ La notte, la notte ラ・ノッテ、ラ・ノッテ
(Dieci, nove (vai), otto, sette, sei, cinque, quattro, tre, due, uno) 10、9(行け!)、8、7、6、5、4、3、2、1 Ho perso il cuore ed un amico vero 私は私の心とひとりの真の友を失った Ho perso tutti e non ho più nessuno 私はみんなを失い、もう私には誰もいない Ho dato amore, ma non son stato sincero 私は愛を与えたのだが、私は真剣ではなかった Ed ho mentito senza rimorso alcuno 私は何の後ろめたさもなく嘘をついた Ho avuto un padre e dico un padre vero 私には父がいた、それは真の父だった Che mi ha mostrato cosa vuol dire essere uomo 父は私に大人になるということはどういうことかを教えてくれた Ma ho scelto di voler restare bambino でも私は子供で居続けることを選んだ Di non seguir l'esempio di nessuno 誰のことも模範にしないと決めた Ho perso il cuore ed il mio amore vero 私は私の心と私の真の愛を失った L'ho perso, еd ora non so più chi sono 私は愛を失い、今私は自分が誰なのかもわからない Ho dato amore, ma non son stato maturo 私は愛を与えたが、私は成熟していなかった E senza amore dovrò vivеre そして愛を失ったまま、私は生きていかなければならない Le ho regalato tutto ciò che avevo 私は私の持っていたものすべてを捧げたのだが Ma quel che avevo, poi, non era molto 私の持っていたものなんかたいしたものではなかった E ho preso tutto, derubando il destino 私はすべてを奪い、運命を盗み取った Ma il destino non è preda facile でも運命は簡単な獲物じゃない Forse ho mentito sempre o forse son troppo sincero たぶん私はずっと嘘つきだったか、まじめすぎていたかのどちらかだ Ed ho una fragile mente, o sono solo immaturo 私の心は傷つきやすいものなのか、それとも単に未成熟なだけなのか O, più probabilmente, non voglio pensare al futuro 最も可能性があるのは、私が未来を考えようとしないということ Perché sono quasi sicuro che sbaglierò per sempre なぜなら、私はいつも間違った道を進むということをほぼ確信しているから Nessuno, nessuno 誰にも、誰にも、 Nessuno, nessuno 誰にも、誰にも、 Ha mai avuto un momento migliore より良い時など一度もやってこなかった Nessuno, nessuno 誰にも、誰にも、 Nessuno, nessuno 誰にも、誰にも、 Nessuno, nessuno 誰にも、誰にも、 Ha mai avuto un momento migliore より良い時など一度もやってこなかった Nessuno, nessuno mai 誰にも、誰にも、一度も Mai 一度も Mai 一度も Mai 一度も
それからテレラマ・インタヴューでもこだわっていた”リアル”との関わりというテーマでは16曲め”Non è reale"(それは真実ではない)で、こんな結語を出してしまう。
Noi 私たち Cosa sappiamo di noi 私たちが私たち自身について知っていること Cosa ci illumina 私たちを照らしているもの Cosa ci spinge 私たちを掻き立てるもの Cosa ci domina 私たちを支配するもの Non è reale それは真実じゃない Non è reale Non è reale Non è reale Non è reale....
J'sais pas pas pas pas pas pas pas j'sais pas pas pas
Alain Bashung "Résidents de la République" アラン・バシュング「共和国の住人たち」 2008年アルバム『ブルー・ペトロル』所収 詞曲:ガエタン・ルーセル 更新申請から8ヶ月待たされたが、2035年5月まで有効の Carte de résident(カルト・ド・レジダン=居住許可証)がやっと手に入った。この10年有効カードの更新はこれが5回め。フランス共和国のレジデントになって40有余年、その間に6人大統領が変わった。その間私のような外国人居住者には比較的寛容な時期もあったし冷ややかな時期もあったが、毎回このような居住許可更新のときはフランス共和国の役所は”おまえを住まわせてやっている”という態度をあからさまにする。ずっと納税者だし、犯罪歴ゼロだし、少額ながらチャリティー寄付はまあまあしてるし、事業者だった頃はフランス音楽の振興に(微力とは言え)いくらかは貢献していたという自負があるのだが、移民担当窓口はそんな個人プロフィールを考慮するわけがない。私は”移民A"であり、必要書類の不備がなければ、居住許可は延長できる ー とは言え...。多くのメディアのアンケート調査によると、2027年フランス大統領選挙では(アメリカやかなりの数の主要国がそうなったように)極右ポピュリスト候補が勝ってしまう可能性がかなり高い。その空気は私たちの日々の生活現場でも感じることができる。
アラン・バシュング(1947 - 2009)のこの「共和国の住人たち Résidents de la République 」はその死(2009年3月14日)のほぼ1年前の2008年3月24日にリリースされた最後のアルバム『ブルー・ペトロル』(20万枚、プラチナ・ディスク)のA面2曲め、すなわちアルバム代表曲として発表された。2009年2月28日(死の15日前)、ヴィクトワール賞セレモニー(3部門で受賞)のステージで歌われたのが、この歌(YouTubeリンク)で、その後2度と公の場に姿を現さなかったから、これが文字通り白鳥の歌となったのですよ。この時バシュング61歳、肺がん最末期。 この歌の作詞作曲はガエタン・ルーセル(1972 - )で、90年代の人気バンドルイーズ・アタックのフロントマン(ヴォーカル/作詞作曲)であったが、2009年からソロアーチストとしても活動している。骨のあるビートフォークロック系の人という印象はあるが、政治的なメッセージを歌う/書くことは稀だったと思う。時代背景を少し説明しておくと、2007年5月フランスの選挙民たちはニコラ・サルコジを新共和国大統領として選出している。このショックは後年に「トランプ2016」「トランプ2024」を体験した今となっては、たいしたものではなかったと思われようが、当時は私もずいぶん揺れたものだった。娘がまだローティーンだったから、この子はこのサルコジ治世下の共和国で生きていけるだろうか、と不安になっていた。私の業界はCD売上の落ち込みがいよいよ厳しく、運営していた会社を閉める覚悟もしていた頃だ。仕事の方はフランスのパートナーたちに支えられて(本当に感謝している)何とか続けられたが、今はあらゆる意味でレジスタンスの時期である、と念じてサルコジの諸政策にも耐えていた。
J'sais pas pas pas pas pas pas pas, j'sais pas pas pas... いつの日か、おまえへの愛が薄らいでいき おまえをまったく愛せなくなってしまう いつの日か、私は笑うことが少なくなり 全く笑えなくなってしまう いつの日か、私は走ることが稀になり 全く走れなくなってしまう
(↑)このヴィデオクリップに主演しているのはメルヴィル・プーポーである。 この歌の中で共和国は "Chérie"=最愛の女性である。昨日まで見つめ合うこともできた愛する人である。背伸びして耳に手をかざせばその言葉が聞き取れ、互いに近づけばその姿を認めて微笑み合うこともでき、愛する人のために走ることもできた。共和国は疲れ、姿を変え、バラ色(左派/社会党のシンボル)も青色(保守のシンボル)も曖昧になり、その建国原理(この歌では”元素たち”という言葉を使っている)も好き勝手に変えられてしまう。いつか私は共和国に愛想を尽かしてしまうかもしれないのですよ。共和国は病み、共和国は疲れ、私たちも疲れてしまう時があるのですよ。 J'sais pas pas pas pas pas pas pas, j'sais pas pas pas... これは聞いての通り、シェパパパパパパパ、シェパパパ... と言っているのです。"Je ne sais pas"(ジュ・ヌ・セ・パ = 私は知らない)のくだけた口語表現、と言うよりはほとんど幼児語であろう。知らねえよ、知るか、知ったこっちゃねえよ... ー そういうニュアンスなのだろうか。それよりも、”私にはまったくわからないのだよ”と年寄りが嘆いているようにも聞こえる。私たちの信じてきた共和国って何だったのか、とも聞こえる。嘆き節なのですよ。
Paul Gasnier "La Collision" Gallimard刊 2025年8月21日 161ページ 19ユーロ
カストール爺の採点:★★★★☆
(↓)国営ラジオFrance Inter 朝番ソニア・ドヴィレールのインタヴューに答えて、『衝突 La Collision』について語るポール・ガスニエ
(↓)2017年5月、マンチェスター・アリーナ/アリアナ・グランデのコンサートで起こった爆弾テロ(死者22人)の犠牲者に対するオマージュで、フランス対イングランドの試合(於スタッド・ド・フランス)の前にフランス共和国近衛軍楽隊(ガルド・レピュブリケーヌ)が(オアシス)”Don't look back in anger"を演奏。
Paolo Vallesi "La Forza Della Vita" パオロ・ヴェレージ「ラ・フォルツァ・デッラ・ヴィータ(生命の力)」
詞 : ベッペ・ダティ 曲:パオロ・ヴァレージ 1992年サンレモ音楽祭3位
ポール・ガスニエ作『衝突 La Collision』(2025年)の中で、公道曲乗りオートバイ(ロデオ・ユルバン)のウィリー走行に追突されて作者の母が50代の若さで死ぬのだが、収容された病院でもう助かる可能性がないと判断されるや、未来の遺族に臓器提供の許諾を求めてくるくだりがある。50代だからまだフル稼働の臓器がたくさんあっただろうから、それで”命”や”機能”が救われた人たちもあっただろう。私は2017年のガン再発以来、浅い時も深い時もあるが、死を考えることがままある。私の臓器はまだ使いものになるものがあるのだろうか。私の何かが、他の人の”命”や”身体機能”の助けになる可能性があるだろうか。若い時は献血も何度かしたことがある。2015年の初手術以来、大きな手術は3度しているが、その度に大量の血をいただいているので、私にはフランス人の血が多く混じっている(笑)はずだ。私が今生きているのは、この血だけでなく、10年もの間さまざまな治療で注入された薬や照射された放射線のおかげなのだけど、自分の体がどんどん変わっていって、”自力”で生きていない感覚は日々増大している。自分の体がどんなものにも頼らずに自力で生きてたこともあった。なつかしい。そんなことを言うと、いやいやあなたは自力で生きてますよ、あなたを守っているのは、あなた自身の免疫の力なのですよ、と言ってくれた人がいた(故・土屋早苗のことです)。私自身の命の力がまだあるからなのですよね。ラ・フォルツァ・デッラ・ヴィータ。
1992年、私はまだ再婚していないひとり身で、まだ30代で、フランスの独立系レコード会社メディア・セット(在ナンテール)の社員だった。かなりヘヴィーなスモーカーだったし、アルコールはもっとひどかった。仕事場に冷蔵庫を持ち込んで私設バー("Toshi's Bar"の始まり)を開設して、周囲に何もないナンテールでも深夜までToshi's Barで同僚たちと飲んで”フランスの大衆音楽の現在と未来”を口角泡飛ばして論じていた。ほぼ毎晩泥酔状態でナンテールからブーローニュまで車で帰ったものだ。あの時クルマはFIAT Unoだった。イタリア好き。ミラノにも取引先があって、個人的に好きなカンタウトーレの新譜なんかを送ってもらっていたし、日本の取引先に依頼されてミラノに新譜買い付けに行くこともあった。だから社内的にも「イタリアにも詳しい」変なヤツと思われていた。 パオロ・ヴァレージ、1964年フィレンツェ生れ、自作自演歌手(カンタウトーレ)、1991年サンレモ音楽祭新人セクションで優勝した「Le persone inutili (無用の人)」でブレイク。まあ、あえて言えば、リカルド・コッチャンテ/エロズ・ラマッツォッティ系の熱唱カンツォーネ・ロマンティカの人。私が当時好んでいたイタロポップロック系とは違うんだけど。1992年サンレモ音楽祭メジャーセクションで3位になり、イタリアのチャートNo.1、パオロ・ヴァレージの最大のヒット曲となったのがこの「La Forza Della Vita(生命の力)」。まあ一発屋と思っても差し支えないと思う。そのサンレモ本選ステージでの熱唱がこれ(↓)
では歌詞を紹介しましょう。
Anche quando ci buttiamo via 慰めようのない恋のために per rabbia o per vigliaccheria 怒りややるせなさで per un amore inconsolabile 自暴自棄になる時も anche quando in casa il posto è più invivibile 家に住めなくなって e piangi e non lo sai che cosa vuoi 泣いて、どうしていいのかわからなくなってしまう時も credi c'è una forza in noi amore mio 愛する人よ、僕たちには力があるんだ più forte dello scintillio この狂ってしまって無用になった世界の di questo mondo pazzo e inutile 偽りの光よりも強くて è più forte di una morte incomprensibile 不可解な死よりも e di questa nostalgia che non ci lascia mai. 僕たちを苛み続けるノスタルジーよりももっと強い力が
Quando toccherai il fondo con le dita きみの手の指が谷底に届いたとたん a un tratto sentirai la forza della vita きみは生命の力を感じとるんだ che ti trascinerà con sé そしてきみを連れ戻してくれる amore non lo sai 愛する人よ、わからないかい? vedrai una via d'uscita c'è. きみには見えるよ、出口はあるんだって
Anche quando mangi per dolore 辛苦を舐めさせられ e nel silenzio senti il cuore 静寂の中で聞こえるきみの心臓の音が come un rumore insopportabile 辛抱できない雑音のように響く e non vuoi più alzarti きみはもう起き上がれない e il mondo è irraggiungibile 世界は近づきがたいものになる e anche quando la speranza もはや希望でさえ oramai non basterà. 何の役にも立たない
C'è una volontà che questa morte sfida でもこの死に抗う意志が存在するんだ è la nostra dignità la forza della vita それが僕たちの尊さ、生命の力なんだ che non si chiede mai cos'è l'eternità それは永遠が何かなんて問わないものなんだ anche se c'è chi la offende ある種の人々がそれを傷つけようとしたり o chi le vende l'aldilà. それを売っ払おうとしたりしようとも
Quando sentirai che afferra le tue dita きみの指が触れて感じられたら la riconoscerai la forza della vita きみはそれが生命の力だとわかるんだ che ti trascinerà con se それがきみを連れ戻してくれる non lasciarti andare mai きみを決して去らせたりしない non lasciarmi senza te. 僕をきみから離さないものなんだ
Anche dentro alle prigioni 人々の偽善の della nostra ipocrisia 監獄の中にあっても anche in fondo agli ospedali 新しい病気に冒されて della nuova malattia 病院の奥の奥に隔離されても c'è una forza che ti guarda きみを見守ってくれる力があって e che riconoscerai きみにはそれがわかるんだ è la forza più testarda che c'è in noi それは夢を見、決して降伏しない che sogna e non si arrende mai. 私たちの内にあって最も頑強な力なんだ
(Coro:) E' la volontà それは意志なんだ più fragile e infinita 最も壊れやすいけれど、無限なんだ la nostra dignità それが僕たちの尊さ la forza della vita. 生命の力なんだ
Amore mio è la forza della vita 愛する人よ、それが生命の力なんだ che non si chiede mai 永遠が何かなんて cos'è l'eternità 絶対に問わないものなんだ ma che lotta tutti i giorni insieme a noi でもそれはいつも僕たちのそばにいて戦っている finché non finirà 終わりの日が来るまで
(Coro:) Quando sentirai きみが指先を握りしめられてる che afferra le tue dita と感じたら la riconoscerai きみにはわかるはず la forza della vita. それが生命の力なんだって
La forza è dentro di noi 力は僕たちの内にある amore mio prima o poi la sentirai 愛する人よ、きみも遅かれ早かれわかるはず la forza della vita 生命の力が che ti trascinerà con sé それがきみを引っ張っていくんだよ che sussurra intenerita: そしてきみにやさしくこう囁くんだ "guarda ancora quanta vita c'è!" 「ごらん、命はまだ確かにここにあるんだよ」