テレラマ誌2020年5月13日号に掲載された太陽劇団座長アリアーヌ・ムヌーシュキンのインタヴュー。新型コロナウイルス禍外出禁止令と文化界が被った甚大な被害、高齢者を切り捨てる社会、政策を自画自賛する政府... 怒りと連帯と希望へのメッセージが詰まった熱弁の7ページロングインタヴューから、主にフランス政府の虚偽政策(とりわけマスクの問題)、老人施設と高齢者の問題を語った部分をピックアップして(無断で)翻訳してみました。81歳の行動する演劇人の意見です。
アリアーヌ・ムヌーシュキン:私は悲嘆を感じている。毎夕テレビでひとりの男が政府の素晴らしい行動を自賛しながら次々に発表する数字(感染者、死者、重篤入院者、退院者...)の背後にある女たち男たちの死にまつわる人々の苦悩や孤独感を私は想像せずにはいられない。、どのような儀式の形式にせよ、これらの死者たちを愛した人々の弔いに欠かすことのできない愛情と温情の催し事を禁止するということへの当惑と理解不能な反応。これはどんな文明の下でも欠かせないことである。ほんの少しでも願いを聞き敬意を示し、為政者たちとそのモリエール喜劇的な科学者顧問たちの少しの同情心があれば、このあたふたと発表された規則(註:老人施設での家族面会禁止、臨終→埋葬の家族近親者立ち会い禁止など)は少しは緩和できたかもしれない。その規則のいくつかは理解できるものではあったが、それらは唖然とするほどの冷徹さで問答無用に厳守された。
テレラマ:あなたは怒っていますか?
A.M. : ええ、怒っていますとも。私が感じている怒り、とてもひどい怒りだけでなく、わが国の政権担当者たちの出来の悪さ、絶え間ない自画自賛、誤った情報による虚偽、頑なな横柄さに、ひとりのフランス市民として屈辱感も味わっている。この外出禁止令の間の数日間、私は病気でほとんど意識のない状態にまで陥っていた。目が覚めた時、私はおうむのように同じことを繰り返す政府の代理人の放送を見るという失敗を冒してしまった。メディアも全くおうむのように繰り返している。私はエマニュエル・マクロンが経済面で早々と対応したことを評価していた。あの有名な「たとえいくら金がかかっても quoi qu’il en coute」という号令で企業の解雇・人員整理を回避したことを。でも、私の病状回復の頃になって、四人の道化師が舞台に登場したのよ。保健担当官、厚生大臣、政府報道官、それに加えて、鞭打ち爺さん(悪い子供たちを鞭で懲らしめる伝説上の人物 père fouettard)の親玉である内務大臣、この四人の登場に私は激怒した。もう二度とこいつらを見たくないと思った。
テレラマ:彼らの何を非難しているのですか?
A.M. : これは犯罪よ。マスクのこと。私はマスクの不足について言いたいんじゃない。このスキャンダルは前政権と前々政権(ニコラ・サルコジとフランソワ・オランド)の頃から始まっている。しかし、3年前から政権についている今の政府も、わが国の保健厚生システムの悪化をさらに深めたということで、前任者たちと同じ責任がある。あらゆる良識に反して、彼らは毎晩のようにマスクは不要であり感染防止にならないと繰り返し言っていた。つまり彼らは毎晩のように私たちに嘘の情報を流し、文字通り武装解除させていたのだ。しかしひとたび中国で大規模感染が発生するやいなや、私たちもアジアの多くの国の例にならって規則的にマスクをしなければならなくなり、その時それがないものだから、自分自身で作らなければならなくなった。私たちはあの四人の道化師たちの度重なるウソに服従してきたのであり、そのうちのひとつがかの政府報道官(註:シベット・ンジャイエ)の忘れがたい発言であり、彼女は(彼女自身の意見として)彼女自身がマスクをつけるすべを知らないのだから、誰もマスクをつけるようにはならないだろうと言ってのけだのだ!多くの医学者たちがこのことを知っていたが、伝染病禍の初期には政府の言うことを繰り返す「おうむメディア」ではその意見が通らず、私たちはみんなしてマスク着用の教宣をして、私たちは人生において度々マスクをつけなければならないと言ってまわった、しかし政府が作ったコロナ予防キャンペーンのヴィデオクリップの”5つの予防行為”(註:Gestes barriers 1.自宅に留まる、2.くしゃみ/せきは肘の内側に、3.顔に触らない、4. ソーシャルディスタンス、5. 手洗い)の中にいまだにマスクは含まれていない。私は、伝染病流行の最初の警鐘があった時から、人が規則としてマスクを着用していたら、私たちが屈辱的に耐え凌いだこの外出禁止の期間を短縮できたはずだと思う人間のひとりである。
テレラマ : 屈従することは最悪のことですね?
A.M : 私たちはこの政府の虚偽の情報に屈従することをやめなければならない。私は「自宅にこもっていなさい」というスローガンには反対しない。しかし(マクロンが演説したように)わが国が戦争状態にあるのであれば、このスローガンだけでは十分ではない。国が戦争を宣言するのであれば、それと同時に国民総動員も必要だ。この総動員は、繰り返したっぷりと言われてはいたものの、本当のところでは全く望まれていなかった。私たちは動員されるよりも、直ちに猿ぐつわをはめさせられ、閉じ込められたのだ。ある人たちは他の人たちよりもひどいやり方でその仕打ちを受けた。私は老人たちと老人たちの扱われ方のことを言っているのよ。メディアに登場する偏執的反老人主義者たちが、私たち老人全てを、すべての老人と肥満者と糖尿病患者を来年2月まで閉じ込めておく必要があると公然と主張している、さもなければ、こんな人々で病院はパンクしてしまうだろう、と。こんな人々だって? 今や高齢者や病人をこんなふうに言うのですか?そうなると病院は健康で生産性のある人たちだけのためにあることになっていいのですか? すなわち2020年のフランスにあっては、私たちは65歳まで働き、その年齢に達したら、私たちは病院の廊下を混雑させないために病院に行く権利もなくなるというわけか? これはファシズム前期あるいはナチズム前期の計画ではないにしても。とても良く似ている。このことも私を激怒させるのよ。
テレラマ : この大病禍は同時に(何かを変える)ひとつの機会ではありませんか?
A.M.:おお! 機会ですって? 何十万という人が世界で亡くなっているのに? インドやブラジルでは飢えで人が死んでいる。わが国の大都市郊外のいくつかで同じリスクがあるのに? わが国のように充実した民主主義の環境にあっても、貧富格差の深刻化はさらに加速しているのに? ある人々はわれわれの古き良き世界大戦はよい機会だったと考えている…。私はそんな質問には答えられないわ。それはインドやエクアドルやその他の土地で地面に落ちている米粒やトウモロコシの実を拾い集めている人たちへの最低の敬意にすぎないことであっても。
テレラマ : フランス人は幼児退行していると思いますか?
A.M. : もっと悪い。子供たちには大抵の場合、子供たちに世に出る準備をさせることを知っている献身的で有能な非常に良い教師たちがついている。でも私たちは心理的に無防備にさせられたのよ。私を仰天させた話があるの。ボーヴェ(註:北フランス、オワーズ県の町)のある老人施設で看護師たちが施設収容者たちと一緒に館内監禁をすることに決めた。彼女たちは計画的に行動し、床にマットレスを敷いて、ひと月の間彼女たちが世話していた老人たちの傍らで眠った。コロナ感染は一切なかった。一件の感染もなし。彼女たちはこの体験を例外的に素晴らしいことのように語っていた。しかし労働管理局の監察官がやってきて、この労働条件は法に適合しないと判断した。床に直にマットレス、それはしてはならない、と。監察官はこの同居監禁の中止を命じた。看護師たちはその家族たちに感染するリスクを負いながら自宅に帰っていき、老人施設の収容者たちに感染するリスクを負いながら老人施設に出勤してきた。英国では20%の看護師たちが収容者たちと同居監禁をしている。ところがここでは、看護師たちの真の博愛的ボランティア精神から始まったこの同居監禁の実験を禁止してしまったのだ。杓子定規の規則厳守からか、イデオロギー的見地からか、あるいはその両者からか。
テレラマ : この高齢者たちの隔離政策はある文化的問題を浮き彫りにしているのではないでしょうか?
A.M. : まったくその通り。欧州委員会議長(註:ウルズラ・フォン・デア・ライエン、ドイツ人女性政治家)が高齢者はあと8ヶ月間自宅(あるいは収容施設内)監禁を続けることを推奨した時、彼女はこの言葉の残酷さをわかっていただろうか? 社会における高齢者の地位についての彼女の無知をわかっていただろうか? 私の含めたこれらの高齢者たちの多くが、私と同じように、働き、行動し、家族のために役立っているということをわかっているのだろうか? われわれ老人たちは死を避けられないものとして受け入れていることを彼女は知っているだろうか? そして望んだ時にその死を与えてもらえる権利(この権利は他の多くの国では認められているのに、フランスではまだ頑なに拒まれている)を要求している私たち老人たちは数知れないということを? なんという欺瞞! 私たち老人たちの中で平穏のうちに威厳をもって死の瞬間を選択したいと望む人たちの希望を叶えるよりも、私たちを人目につかないようにすることを望んでいる。エマニュエル・マクロンが「われわれはわれわれの年長者たちを保護する」とささやいた時、私は彼にこう叫びたかった:私はあなたに私を保護することを頼んだりしない。私があなたにお願いするのは私たちから私たちを保護する手段を奪わないでほしいということだけ! マスク、消毒ゲル、抗体テスト! 彼らはあらゆる老人たちを隠して忘れさせる老人施設の全国的普及を夢見ているようだから。若者たちよ、恐れ慄け、私たちはきみたちの未来なのよ!
(↓)2019年12月、マクロン政府が進めている年金法改正に反対してデモ行進する太陽劇団とアリアーヌ・ムシューキン
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