フランソワーズ・ファビアン『フランソワーズ・ファビアン』
Françoise Fabian "Françoise Fabian"
フランソワーズ・ファビアンはフランスの大女優です。1933年アルジェリア生まれで、1954年から映画女優として活躍していて、代表作は1969年エリック・ローメール監督作品『モード家の一夜(Ma nuit chez Maud)』です。現在まで映画(ジャック・ベッケル、ルイ・マル、エリック・ローメール、クロード・ルルーシュ...)、テレビ、演劇でコンスタントに仕事されている現役さんです。生年を書いてしまったのでバラしますが、現在85歳です。この歳になってからの歌手デビューアルバムなんです。
このアルバムについては現在雑誌原稿を準備しています。
何度か一緒に仕事した(音楽のこと。つまり大女優にテレビや企画でワン・ショットで歌ってもらった時に編曲・伴奏した)アレックス・ボーパンが、深く深く惚れ込み、ちゃんとした録音作品として残すべきだと、彼女をぐいぐい引っ張って行ってできたアルバム。60年代からムールージやギ・ベアールとの交流の中で彼らのレパートリーを歌ったこともあり、一時はゲンズブールが曲提供してブリジット・バルドー(フランソワーズ・ファビアンよりも2歳年下)のように鬼才の毒牙によって歌手になりかけたこともあります。しかし時は過ぎ、歌手になることなくここまで来たのですが、アレックス・ボーパンによって忘れかけていた歌う喜びが蘇り、アルバムを作り、さらにステージで観客の前で歌のショーを(2018年秋から)やってしまうというところまで...。85歳のデビュー。人生歴、芸歴ともにずっしり重いこの大女優ですから、アレックス・ボーパンが声をかけたらすごい人たち、多彩な人たちが曲を提供してくれました。大御所シャルル・アズナヴール、巨匠ジュリアン・クレール、大劇作家・脚本家・作家ジャン=クロード・カリエール...。アレックス・ボーパンの世代ではドミニク・ア、ヴァンサン・ドレルム、ラ・グランド・ソフィー...。この大女優は作詞も作曲もしませんから、詞曲提供者はフランソワーズ・ファビアンがこの2018年に初めて歌うということを熟慮したんでしょうね(このことについては雑誌記事の方に詳しく書きますので、参照してください)。つまり人生の「今ここ」に来た(偉大な過去に富む)女性の吐露、述懐のような歌が殆どです。9歳年上のアズナヴールが書いた「この男という悪魔 Ce diable d'homme」など、アズナヴールやフランソワーズ・ファビアンのような重厚な人生経験なしには絶対歌えっこないようなアズナヴール節です。それからヴァンサン・ドレルムが書いた「会話 Conversation」は、まさにローメール映画『モード家の一夜』の中で堅物カトリック信者のジャン=ルイ(演ジャン=ルイ・トランティニャン)を一夜の親密会話に誘い込むモード(演フランソワーズ・ファビアン)を、49年後に(時は経てども)同じ濃さで再演するような歌。傑作です。
その中でやや異彩を放つ作者メンツが、この「こんなにもたくさんの愛するもの Tant de choses que j'aime」を提供したニコラ・ケール(詞)とローラン・バルデンヌ(曲)で、エレクトロ・パンク・ロックのバンド、ポニ・オアックス(Poni Hoax)の双頭リーダーの二人です。この曲がこのアルバムの第一弾シングルとして、アレックス・ボーパン制作のヴィデオ・クリップ(クロード・ルルーシュ他、ゲストいろいろ出演)と共に5月23日に発表されました。85歳人生の「今ここ」を見事に歌っています。詞曲もお見それしました。詞全訳とヴィデオ・クリップ以下に貼ります。
<<< トラックリスト >>>
1. APRES QUOI COURIONS-NOUS (詞曲ジュリアン・クレール)
2. PASSAGES (詞ジャン=クロード・カリエール/曲アレックス・ボーパン)
3. TANT DE CHOSES QUE J'AIME (詞ニコラ・ケール/曲ローラン・バルデンヌ)
4. CE DIABLE D'HOMME (詞曲シャルル・アズナヴール)
5. LA CONVERSATION(詞曲ヴァンサン・ドレルム)
6. CIGNER DES YEUX (詞曲ドミニク・ア)
7. MONSIEUR VOUS VOUS TROMPEZ D'EPAULE(詞アルチュール・ドレフュス/曲ロナン・マルタン)
8. LA VIE MODESTE (詞曲ラ・グランド・ソフィー)
9. AU BOUT DU COMPTE (詞アクセル・レイノー/曲ヴァランティーヌ・デュテイユ)
10. L'IDEE (詞曲アレックス・ボーパン)
11. BONSOIR (詞曲ヴァンサン・ドレルム)
12. JE NE REVE PLUS DE VOUS (詞曲アレックス・ボーパン)
FRANCOISE FABIAN "FRANCOISE FABIAN"
CD/LP TURENNE MUSIC - LABREA MUSIC - WAGRAM
フランスでのリリース:2018年5月18日
カストール爺の採点:★★★★★
(↓)2018年5月22日の国営TVフランス5 "ENTREE LIBRE"でのフランソワーズ・ファビアンのポートレート。
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追記(2018年6月3日)
L'Idée (詞曲アレックス・ボーパン)
Françoise Fabian "Françoise Fabian"
フランソワーズ・ファビアンはフランスの大女優です。1933年アルジェリア生まれで、1954年から映画女優として活躍していて、代表作は1969年エリック・ローメール監督作品『モード家の一夜(Ma nuit chez Maud)』です。現在まで映画(ジャック・ベッケル、ルイ・マル、エリック・ローメール、クロード・ルルーシュ...)、テレビ、演劇でコンスタントに仕事されている現役さんです。生年を書いてしまったのでバラしますが、現在85歳です。この歳になってからの歌手デビューアルバムなんです。
このアルバムについては現在雑誌原稿を準備しています。
何度か一緒に仕事した(音楽のこと。つまり大女優にテレビや企画でワン・ショットで歌ってもらった時に編曲・伴奏した)アレックス・ボーパンが、深く深く惚れ込み、ちゃんとした録音作品として残すべきだと、彼女をぐいぐい引っ張って行ってできたアルバム。60年代からムールージやギ・ベアールとの交流の中で彼らのレパートリーを歌ったこともあり、一時はゲンズブールが曲提供してブリジット・バルドー(フランソワーズ・ファビアンよりも2歳年下)のように鬼才の毒牙によって歌手になりかけたこともあります。しかし時は過ぎ、歌手になることなくここまで来たのですが、アレックス・ボーパンによって忘れかけていた歌う喜びが蘇り、アルバムを作り、さらにステージで観客の前で歌のショーを(2018年秋から)やってしまうというところまで...。85歳のデビュー。人生歴、芸歴ともにずっしり重いこの大女優ですから、アレックス・ボーパンが声をかけたらすごい人たち、多彩な人たちが曲を提供してくれました。大御所シャルル・アズナヴール、巨匠ジュリアン・クレール、大劇作家・脚本家・作家ジャン=クロード・カリエール...。アレックス・ボーパンの世代ではドミニク・ア、ヴァンサン・ドレルム、ラ・グランド・ソフィー...。この大女優は作詞も作曲もしませんから、詞曲提供者はフランソワーズ・ファビアンがこの2018年に初めて歌うということを熟慮したんでしょうね(このことについては雑誌記事の方に詳しく書きますので、参照してください)。つまり人生の「今ここ」に来た(偉大な過去に富む)女性の吐露、述懐のような歌が殆どです。9歳年上のアズナヴールが書いた「この男という悪魔 Ce diable d'homme」など、アズナヴールやフランソワーズ・ファビアンのような重厚な人生経験なしには絶対歌えっこないようなアズナヴール節です。それからヴァンサン・ドレルムが書いた「会話 Conversation」は、まさにローメール映画『モード家の一夜』の中で堅物カトリック信者のジャン=ルイ(演ジャン=ルイ・トランティニャン)を一夜の親密会話に誘い込むモード(演フランソワーズ・ファビアン)を、49年後に(時は経てども)同じ濃さで再演するような歌。傑作です。
その中でやや異彩を放つ作者メンツが、この「こんなにもたくさんの愛するもの Tant de choses que j'aime」を提供したニコラ・ケール(詞)とローラン・バルデンヌ(曲)で、エレクトロ・パンク・ロックのバンド、ポニ・オアックス(Poni Hoax)の双頭リーダーの二人です。この曲がこのアルバムの第一弾シングルとして、アレックス・ボーパン制作のヴィデオ・クリップ(クロード・ルルーシュ他、ゲストいろいろ出演)と共に5月23日に発表されました。85歳人生の「今ここ」を見事に歌っています。詞曲もお見それしました。詞全訳とヴィデオ・クリップ以下に貼ります。
言葉と記憶の間で
私は身構えてしまう、スタートラインに立つように、
私の愛するものすべてを前にして
こんなにもたくさんの愛するもの
私の個人史を隅から隅まで調べると
私は身構えてしまう、スタートラインに立つように、
私の愛するものすべてを前にして
こんなにもたくさんの愛するもの
私はもう探さない
あなたの中で、私の気にいるはずだったものなんて
もうどんな理由も超越されて
ただの甘い言葉しか残っていない
私はもう求めない
私にあなたを信じさせたものなんて
もうどんな疑問も超越されて
激流は静まってしまうでしょう
私の象牙の塔を壊して
今夜私は寝室を開放するわ
私の愛するものすべてのために
こんなにもたくさんの愛するもの
果てぬ希望から解放された魂
私は義務から自由にさせてやるわ
私の愛するすべてのものを
こんなにもたくさんの愛するもの
私はもう探さない
あなたの中で、私の気にいるはずだったものなんて
もうどんな理由も超越されて
ただの甘い言葉しか残っていない
私はもう求めない
私にあなたを信じさせたものなんて
みんな地平線の向こうに追いやってしまいましょう
そこから私たちは私たちに還っていくのよ
<<< トラックリスト >>>
1. APRES QUOI COURIONS-NOUS (詞曲ジュリアン・クレール)
2. PASSAGES (詞ジャン=クロード・カリエール/曲アレックス・ボーパン)
3. TANT DE CHOSES QUE J'AIME (詞ニコラ・ケール/曲ローラン・バルデンヌ)
4. CE DIABLE D'HOMME (詞曲シャルル・アズナヴール)
5. LA CONVERSATION(詞曲ヴァンサン・ドレルム)
6. CIGNER DES YEUX (詞曲ドミニク・ア)
7. MONSIEUR VOUS VOUS TROMPEZ D'EPAULE(詞アルチュール・ドレフュス/曲ロナン・マルタン)
8. LA VIE MODESTE (詞曲ラ・グランド・ソフィー)
9. AU BOUT DU COMPTE (詞アクセル・レイノー/曲ヴァランティーヌ・デュテイユ)
10. L'IDEE (詞曲アレックス・ボーパン)
11. BONSOIR (詞曲ヴァンサン・ドレルム)
12. JE NE REVE PLUS DE VOUS (詞曲アレックス・ボーパン)
FRANCOISE FABIAN "FRANCOISE FABIAN"
CD/LP TURENNE MUSIC - LABREA MUSIC - WAGRAM
フランスでのリリース:2018年5月18日
カストール爺の採点:★★★★★
(↓)2018年5月22日の国営TVフランス5 "ENTREE LIBRE"でのフランソワーズ・ファビアンのポートレート。
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追記(2018年6月3日)
L'Idée (詞曲アレックス・ボーパン)
いつか私は行ってしまう
その思いを
私はずっと温めていた
とても可愛がってきたので
この奇妙な思いを
私は飼いならしてしまった
実際には暗いこの思いを
私は小さな黒い猫に
変身させた
それは夜になると私の首の後ろや
両腕の中に身を滑り込ませ
喉をごろごろ鳴らす
いつか私は行ってしまう
その思いを
私はずっと温めていた
とても可愛がってきたので
この奇妙な思いを
私は飼いならしてしまった
それは滑稽な思いだけれど
悲しい思いでも
無念でも後悔でもない
それは私を前向きにさせる
私がこの世にある限り
その思いもあり続ける
私が向こうで
私を去っていったすべての人たちと再会する時
あなたたちを見舞う悲痛を
和らげるため
どうにかこうにか
あなたたちを慰めるため
この思いはあなたたちにもやってくる
あなたたちの番が来る
その時あなたたちは私を思うのよ
この思いはあなたたちにもやってくる
あなたたちの番が来る
その時あなたたちは私を思うのよ
そして私は永遠に生きるのよ
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追記(2018年6月19日)
月刊ラティーナ2018年7月号の「それでもセーヌは流れる」(→3ページ中の1ページ)。3分の2がローメール映画『モード家の一夜』(1969年)と哲人ブレーズ・パスカル(1623-1662)のいわゆる「パスカルの賭け」をわかりやすく解説。40年以上前仏文科学生時代に学んだことって結構頭に残ってるもんですね。
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