Nicole Croisille "Téléphone-moi"
今思い返しても、私は60年代〜70年代(事情を存じ上げない方たちに注記しますと、私がまだ日本にいた頃ということです)は日本の歌謡曲とりわけ歌謡ポップスが好きだったんですねぇ。フランスに来たての頃は、フランスかぶれでしたから、音楽は英米ものよりもフランスのヴァリエテばかり聞いてました。ですが、それは結局、日本の歌謡ポップスに近い音楽だったからじゃないか、と今になって思う部分があります。
歴史はフランスの70年代の大衆音楽に対してあまり良い評価をしません。それはポンピドゥー〜ジスカール時代にフランスが本格的なテレビ時代に入って、大衆歌謡が視覚的なヒット曲 を目指すようになり、シャンソンというアートが潜んでしまったからなんでしょうが、テレビが生むヒットって日本ではそのままメインストリームでしたよね。
私は90年代になって、年齢的には遅〜い転職で音楽業界(独立系のレコード会社)に入りました。そこで職業的に音楽通たちと交流するようになったのですが、この世界では70年代のフランスのヴァリエテは、そのテレビ口パク歌番組のイメージと共に、サイテーに蔑まれた音楽だったのです。その中で、ポルナレフやヴェロニク・サンソンは例外だったか、というと... 例外だったかなぁ...。いろいろな機会に「フランスのアーチストで最も評価しているのは誰?」と聞かれたら臆面もなく「ヴェロニク・サンソン」と答えていた私は、結構あきれ顔されましたよ。
70年代には当時ポルナレフを日本で大ブレイクさせた高久光雄さんのおかげで、フランスと日本の大衆音楽がとても近くて、沢田研二もフランスでかなりの人気があったものでした。ミッシェル・デルペッシュ、アラン・シャンフォール、クリストフ、ヴェロニク・サンソンらもちゃんと日本で紹介されてましたし。あとはイージーリスニングのオケやピアニストは軒並み日本で大スターでしたし、映画音楽と言えばフランシス・レイでしたし。この最後の人たちのせいで、日本ではフレンチと言えば、哀愁系やおセンチ系がめっぽう強いというイメージがあったようです。
1976年、私が22歳で初めてフランスに渡った年、音楽的には私はなによりもまずヴェロニク・サンソンのアルバム『ヴァンクーヴァー』の年なのですが、 この年になんて日本の歌謡ポップスっぽい歌なんだろう、と思って聞いていた曲があります。日本の歌謡ポップスをカヴァーしたんじゃないか、と思ったほどです。歌い手さんは(フランスでは珍しい)熱唱型だし、のびのある歌唱力はたいへんなものだし、おばさんだし...。
ニコル・クロワジールは1936年生れなので、この時40歳。私たちはクロード・ルルーシュ監督の『男と女』 (1966年)のサントラでピエール・バルーと歌っている女性として記憶してますけど、バイオグラフィー見るとすごく苦労した人なんですね。私の知る限りでは大ヒット曲は2曲しかありません。1975年の "Une femme avec toi"(日本題「あなたとともに」1975年第4回東京音楽祭の銀賞)とこの1976年の"Téléphone-moi"です。前者は日本でもシングル盤になった、終盤のクレッシェンドに悶絶する大熱唱で、キャロル・キング作の「ナチュラル・ウーマン」の歌詞をフランス風にしたような感じ。私はちょっとあっぷあっぷしちゃいますけど。それに引きかえ「テレフォヌ・モワ」は、詞も曲も歌謡ポップス風で、歌はほどよい熱唱で、私は大好きですね。
この詞、今の男と別れて、違う男のもとに行こうとする、その断ち切れない心を断ち切って欲しい、勇気が欲しい、あなたの声さえ聞けばそれができるのに、っていうほとんど阿久悠ワールドですよね。
決めたわ、今夜私は出ていく
彼は何も知らずに新聞を読んでいる
彼に声なんかかけられない
別れるなんて言えっこない
私の視線は落ち着かない
私の思い出はあなたの心を追うの
私はあなたの声を聞きたい
勇気が足りないの、助けておねがい
私に電話して、私を呼んで、そして私に言って
私を愛してる、私を愛してる、私を愛してるって
私に電話して、私を安心させて、そして私に言って
私を愛してる、私を愛してる、私を愛してるって
彼は私を見つめ、私に微笑む
彼はずっと私と人生を分かち合ってきた
来年の春には
私と子供を作らなければ、って言ってた
私は空しさを感じ、もう底まで落ちたと思った
彼と別れて、あなたのもとに駈けていくために
私はあなたの声が必要なの
勇気が足りないの、助けておねがい
私に電話して、私を呼んで、そして私に言って
私を愛してる、私を愛してる、私を愛してるって
私に電話して、私を安心させて、そして私に言って
私を愛してる、私を愛してる、私を愛してるって
(ニコル・クロワジール"Téléphone-moi" 曲:クリスチアン・ゴーベール / 詞:ピエール・アンドレ・ドゥーセ)
↓ニコル・クロワジール「テレフォヌ・モワ」
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