2012年1月18日水曜日

星は何でも知っている

ONEIRA "TALE YAD"
オネイラ『星々の記憶』


 例えば1000光年かなたの星が今命尽きて消滅します。その光は星が消滅してもその後千年間私たち地球の人間の目に届きます。その消えてしまった星の記憶は千年間,私たち地球人が保管することになります。いにしえの人々は,その星にさまざまな物語を付与し,その星と私たちとの強い結びつきがあたかも運命的なもののようにその物語を後世まで残してきました。ギリシャ,イラン,オクシタニア,そういう土地でそのような物語はさまざまなヴァリエーションとなって,死んだ星の記憶を伝えてきたのです。
 オネイラの6人のセカンドアルバムは,地中海と月の夜空だったファーストアルバム『もしも月が』 を飛び越えて,天文学的な広がりをもった文字通りの「スペース・オペラ」となりました。星の物語を人間の言葉に解き明かすのは,ギリシャ,イラン,オクシタニアで異なった言語と修辞法で語られるのですが,リーダー,ビージャン・シェミラニ(イラン,パーカッション)の意図はそれをごっちゃにして,なおかつ和声化することでした。マリヤム・シェミラニ(イラン、ヴォーカル)、マリア・シモグルー(ギリシャ、ヴォーカル)、ハリス・ランブラキス(ギリシャ、ネイ)、ケヴィン・セディッキ(フランス、ギター)、ピエール=ローラン・ベルトリーノ(オクシタニア、ヴィエル=ア=ルー)はビージャンの意図に応えて、そのアンサンブルは壮大なスケールのストーリーを未体験のハーモニーで綴っていきます。
 その図はさまざまな国からやってきた旅人たちが集まる野営地で、同じ火を囲みながら夜空を見上げ、ある星座を指して「私の国ではあの星にこういう古い言い伝えがある」と話し始めると、隣人が「いや、私の国では...」と話を続け、話者は次々に移り、さまざまな語り手によって語られるひとつの星の複数の物語になっていく、 というイメージです。分かちあわれた夢の星物語。オネイラとはギリシャ語で夢幻。その夢を6人で分かちあった音楽アンサンブル、というわけです。
 添えられたブックレット上のライナーノーツはモンドミックス誌  のバンジャマン・ミニモムの筆になるもので、「その最初の音楽夢物語選集である『もしも海が』で、海の数々の詩潮を探訪した2年後、オネイラは両腕にあふれんばかりの星のメッセージを抱えて還ってきた」というようなロマンティックな文体です。これを名調子の日本語で訳せる人がいたら、これは素晴らしい解説になると思いますよ。
 この星物語のアルバムにも、よそからの旅人たちが参加して物語に彩りを添えています。ブルターニュのギタリストのピエリック・アルディ、ギリシャのリラ奏者ストラティス・プサラデリス、サルデーニャのサックス奏者/喉唱 (ホーミー)歌手ガヴィーノ・ムルジア、そしてガルコーニュの超絶ヴォーカリスト、アンドレ・マンヴィエル(!)。
 伝承古謡に基づいた曲が4つ。トラキア(バルカン半島東部)(2曲め"Apopse Ta Mesanyhta"),フィンランド(4曲め"Sorcière"),ギリシャとトルコ(アレヴィ)にまたがる伝承曲(7曲め "Hassan - Chabi Majnoun"),黒海(14曲め "To Fileman")。
また古典詩にオネイラが曲をつけたものが3つ。11世紀ギリシャ詩人オマール・カヤム(1曲め"Ferdiws Dami"と11曲め"Moupe Mia Magissa'),13世紀ペルシャ詩人ジャラディン・ルミ(12曲め"Sanamâ")。 あるいは現代オック語作家のロラン・ペクーの詩に曲をつけたもの(15曲め "Dins Leis Auras"),そしてガスコーニュの言葉の錬金術師アンドレ・マンヴィエルが,ガスコーニュのジャズマン,リシャール・エルテルの曲に詞をつけたもの(6曲め"La Bourdique")....
 太古から未来までも包含したストーリーを,星座図を解くように賢者のミュージシャンたちが数分間に凝縮した曲ばかり。コスミック。この夏,星空の下で聞きたい15曲です。

<<<トラックリスト >>>
1.FERDOWS DAMI
2. APOPSE TA MESANYHTA
3. ON SE TEND
4. SORCIERE
5. RAH
6. LA BOURDIQUE
7. HASSAN - CHABI MAJNOUN
8. 21
9. FILOI MOU SA THA VRISKESTE
10. NEGAR
11. MOU'PE MIA MAGISSA
12. SANAMA
13. BRUMES
14. TO FILEMAN
15. DINS LEIS AURAS
+ DEEP BLUE

ONEIRA "TALE YAD"
CD Helico/l'autre distribution AD1903C
フランスでのリリース:2012年1月30日 


(↓オネイラ"TO FILEMAN" 新アルバムのティーザー)



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