パトリック・ジュヴェ「アイ・ラヴ・アメリカ」
(1978年6月リリース)
2025年1月20日、ドナルド・J・トランプが合衆国の第47代大統領に就任した。その2024年の大統領選挙戦でも、昨日今日の就任祝賀イヴェントでも、トランプが自らのテーマソングのように多用されていた歌が、ヴィレッジ・ピープル「YMCA」(1978年リリース)であった。言うまでもなく世界で最もポピュラーなゲイ讃歌であり、1970年代ゲイカルチャーのオーバーグラウンドでの台頭を象徴するディスコヒットであった。その歌の意図を無視して「アメリカには二つのジェンダーしかない、それは男と女である」とトランプは就任演説で名言した。ゲイ讃歌で嬉しそうに踊る大統領によって、私たちがこれまで築いてきたレインボー世界は破壊されようとしている。祝賀イヴェントに嬉々として花の舞台に立ったヴィレッジ・ピープルには、可哀想な奴らよ、と憐憫の情まで湧いてくる。
ヴィレッジ・ピープルを1977年に世に出したのは、フランス人ふたりアンリ・ブロロ(Henri Belolo 1936 - 2019)とジャック・モラリ(Jacques Morali 1947 - 1991)のプロデューサーチームだった。ニューヨークのゲイのメッカ、グリニッジ・ヴィレッジの多様に奇抜なゲイカルチャーにインスパイアされ、ミュージカル歌手のヴィクター・ウィリス(提督、警官、Victor Willis 1951 - )を抜擢、他のメンバーは「ダンスができて、口ひげのある男」という新聞広告募集で集め、道路工夫、カウボーイ、GI、インディアンの扮装をさせた(以下略)。
スイス人パトリック・ジュヴェ(Patrick Juvet 1950 - 2021)は1971年にフランスのバークレイレコードからデビュー、王子様タイプのアイドル歌手からグラムロック顔メイクさらにシンガーソングライターと変容し、1975年に当時作詞家(クリストフの一連の名曲)だったジャン=ミッシェル・ジャールと邂逅、ジャール/ジュヴェの作詞作曲コンビでちょっと音楽性高めの作品群を。そのコンビの最後の作品がフレンチ・ディスコの金字塔 "Où sont les femmes?"(1977年、LA録音)であり、これを機にLAに移住する。ところが相方のジャールが自らのシンセアルバム(1976年)の地球規模での大ヒットを生んでしまい、ジュヴェどころではなくなってしまい、コンビが解消される。(他の説では、ゲイのジュヴェが75年の出会いからジャールに狂熱的な片思いを抱いていて、それが一方的に拒絶されたのだ、と)。そんなで次の予定が立たなくなってしまったジュヴェはLAからニューヨークに移り、あてもなく当時最もハイプだったブロードウェイのナイトクラブ STUDIO 54にたむろしていたところ、アンリ・ブロロとジャック・モラリに声をかけられる...。
時は1978年、ディスコ界で既に破竹の勢いのあったブロロ/モラリはジュヴェに英語で歌えばいいやんけ、あとのことはわしらにまかしとけばええがな、と。簡単な英語詞はヴィレッジ・ピープルのヴィクター・ウィリスが書いた。
When I first came to Manhattan
I was not surprised
The stories people had told me
Turned out to be no lies
All the different people
From all over the world they're living
A magic fills the air
There's music everywhere
I love America
I love America
I love America
America
作詞ヴィクター・ウィリス、作曲パトリック・ジュヴェ&ジャック・モラリ、プロデュースがアンリ・ブロロ、フル・ヴァージョンが14分のディスコ曲 "I Love America"は1978年6月にリリースされた。これは「YMCA 」に先立つ。
これが世界15カ国のディスコチャートのトップにランクされる。仏語ウィキペディアにはジュヴェのこんな談話が紹介されている「そこで俺の頭はどうかしてしまったんだ。でも後悔はしていない。2年間もの高級リムジンとファーストクラスとボディガードつきの生活は重要なことだったんだ。俺は莫大な金を手に入れたが、すべてをダメにした」。アルコールとドラッグ。90年代/00年代に何度かカムバックをトライするのだが、果たせていない。ま、芸能界ですから、ときどきは話題になるのだが。
ヴィレッジ・ピープルのヴィクター・ウィリスが書いた歌詞の中に「All the different people / From all over the world they're living 」とある。 ”アメリカン・ファースト”とは真逆のアメリカ讃歌である。 ファンキー・ミュージックがいたるところから立ち上がるアメリカ。このマジックがアメリカだったら、夢見てもいいんじゃないか。半世紀以上前のスコット・マッケンジーの「花のサンフランシスコ」(1967年)のアメリカみたいな People in motion。そんなものは2025年1月、トランプの大統領就任演説でトータルに否定されてしまった感。 I loved America。
(↓)パトリック・ジュヴェ「アイ・ラヴ・アメリカ」、14分フルヴァージョン。
0 件のコメント:
コメントを投稿