2014年が終ろうとしています。
手前味噌です。ブログ『カストール爺の生活と意見』は今年40余りの記事をアップしましたが、7年目にして、こんなに充実した記事で埋まったのは初めてである、という自覚があります。いただいたメールやコメントも手応え十分で、このブログを続けてきてよかった、としみじみ思っている年の瀬です。ありがとうございました。この手応えに感謝すべく、このブログ始まって以来初めての年間レトロスペクティヴを作ってみました。
言わば爺ブログの年間記事のベスト10です。順位は純粋にページビュー数の多さに拠っています。今年掲載された40の記事から10をセレクトするわけですから、確率は4分の1という倍率低めのベストテンです。この順位で読者の皆さんに愛されたことはとても納得のいくものです。小さな世界ですよ。なにしろこの上位10位のページビュー数は600から300の間ですから。これからもこの規模の親密さで、文学・音楽・映画の私的体験をみなさんと共有できたら、と願っています。 Joyeuses Fêtes à tous !
1. 『生まれてきてすみませんと言う男』(2014年5月21日掲載)
当年85歳のミラン・クンデラの11年ぶりの新作小説『くだらなさの宴 (La fête de l'insignifiance)』 の紹介記事です。日本でいかにクンデラ小説愛好者が多いかを物語っています。私が上っ面をラフになぞっただけで、これだけ盛り沢山な記事になりました。早く邦訳が出て、多くの人たちがこの名人芸を堪能して欲しいと願ってやみません。
2. 『渇いていた男』 (2014年3月16日掲載)
これは意外。ユベール・マンガレリの小説『渇いていた男
(L'homme qui avait soif)』です。戦後の荒廃した日本が舞台で、太平洋戦争の玉砕戦(ベリリュー島)の生存帰還者が、災難と奇妙な出会いを繰り返しながら、花巻から許婚者のいる北海道まで至るロードムーヴィー形式の物語。無口で暗くて不条理な道中。私は知りませんでしたが、日本では知られている作家のようです(翻訳3冊あり)。
3. 『Zou! 真っ青やサウンド・システム』 (2014年10月26日掲載)
マッシリア・サウンド・システムの30周年記念アルバムで、オリジナルスタジオアルバムとしても7年ぶり。応援していますし、個人的にも厚い交友関係のあるバンドです。アルバムは日本盤も出ました。中央に楯突く地方の中高年のパワー。日本の地方の人たちにも刺激になってほしいです。東京がすべてを決めている日本、おかしいと思う人たちはマッシリアを聞いてください。
4. 『クロ・ペルガグの奇天烈な世界・1』 (2014年3月18日掲載)
今年の上半期は このケベック出身のお嬢さんに破格の賛辞を送っていて、この『クロ・ペルガグの奇天烈な世界』という記事は「1」「2」「3」と続きました。おかげでフランスでも日本でも評価はどんどん高くなっていってます。私はと言えば、根が浮気なので、2014年の下半期はクリスティーヌ&ザ・クイーンズがクロ・ペルガグの地位を奪ってしまいました。
5.『四季四季バンバン』(2014年6月22日掲載)
これも意外。アメリカ映画なんてめったに紹介しないブログですから。クリント・イーストウッド監督の映画『ジャージー・ボーイズ』 (ザ・フォー・シーズンズのバイオピック)はフランス封切が本国アメリカよりも早かった。日本はそれより3ヶ月以上遅れての9月27日公開。この3ヶ月間に日本のファンのためにこの爺ブログ記事がスジばれを含む好意的なプロモーションをしてしまった、ということなのでしょう。ジャック・ドミー仕立ての任侠映画みたいなところが好きでした。
6. 『旅立てジャック』(2014年2月1日掲載)
ディオニゾスのリーダー、マチアス・マルジウの小説『時計じかけの心臓』(2007年)を原作に、リュック・ベッソンが資金を出して、マチアス・マルジウとステファヌ・ペルラが5年がかりでCGアニメ映画にした『ジャックと時計じかけの心臓(Jack et la mécanique du coeur)』の記事。爺ブログでは小説もCDアルバムも2008年1月に紹介していて、その反応から日本に潜在的なディオニゾス愛好者たちがいることを知りました。先端のCGアニメ映画だと思うのですが、純粋に子供たち向けではないので、リュック・ベッソン印がついていても日本公開の予定はありません。
7. 『フランスに捧げるサンバ』(2014年8月18日掲載)
フランスではたいへんな鳴り物入りで10月に公開されたエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカッシュ監督の新作映画『サンバ』(日本公開2014年12月26日)の原作小説『フランスに捧げるサンバ(Samba pour la France)』(著者デルフィーヌ・クーラン)の紹介記事。南北問題、貧困、移民、アイデンティティーといった主題を、現場からの視線(著者はサンパピエ支援団体のボランティア)から描いたまっすぐで熱い「社会小説」。これが(『最強のふたり』のような)大衆娯楽映画の原作になりうるのか、という疑問はありました。映画『サンバ』に期待していたでしょう日本の人たちから多くのアクセスがありましたが。
8. 『空港とホテルとスズメ』(2014年6月9日掲載)
詩的という意味では私にとって最も響いた映画、パスカル・フェラン監督の『バード・ピープル (Bird people)』。ウーエルベック主演の『ニア・デス・エクペリエンス』 や、トレダノ&ナカッシュの『サンバ』など「バーンナウト症候群」を題材にした映画は多くなりましたが、われわれはそんなんじゃない、もともとから鳥になりたいんだ、ということを思い出させてくれる作品。幼くも年老いてからも、夢の中で自力で空を飛んだことがない人っているのでしょうか。映画のマジックはそれをちゃんと映像化してくれるんです。1982年から3年間CDG空港で仕事してました。仕事は全く面白いものではなかったけれど、毎朝空港に行くのが好きだった。そういう記憶って何だったのか、この映画ではっきりしました。
9. 『パリの日本人にとって"パリ的”なるもの』 (2014年2月9日掲載)
パリの日本語新聞オヴニーの代表者、小沢君江さんの本『四十年パリに生きる』の書評を雑誌記事に書いたときの補足のようにブログに書き留めたものです。長くフランスに住む日本人として小沢さんと私は共有する同じ歴史が多くあります。「二つの文化の狭間で」みたいなお題目はどうでもいいと私は思っています。興味深いのは小沢さんしか体験できなかった個人史の部分で、夫のこと、子供たちのこと、育てた会社のこと、日本語で書き続けるということ、私にとっては濃いものばかりでした。
10. 『記憶の取る捨てる(トルステル)』 (2014年10月25日掲載)
この最低な記事タイトルにも関わらず、多くの人たちが読んでくれました。10月にノーベル文学賞を受賞したパトリック・モディアノの最新小説『おまえが迷子にならないように(Pour que tu ne te perdes pas dans le quartier)』の紹介でした。いつものように記憶の濃霧の中を手探りで進んでいくようなモディアノ節です。記憶といういい加減なもの、何を書いてあるのか自分でも読み取れないようなメモ書き、地下鉄駅改装工事で偶然露になる数十年前の広告、モディアノ読みはこの不安な再会/再発見に心を揺さぶられるのです。忘れていないものは不安なことばかり。
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