2011年4月13日水曜日

ボーイ,リスン・トゥー・ミー ケアフリ〜...

La Talvera "Cançons Pebradas" ラ・タルヴェーロ 『カンソン・ペブラダ(みだ〜らな歌)』  天空の城ラピュータを想わせる町コルド・シュル・シエル(ミディ・ピレネー地方,タルン県)にあるオクシタニア文化振興団体コルダエは,35年前から南仏の民衆の間に消えずに残っているオック語民謡や民話を採譜/採録して,書物やレコード・CDとして発表しています。その代表のダニエル・ロッドーはオクシタニア・オリジンではなく,イタリアのサルデーニャ島から亡命してきた反ファシスト闘士の子で,自分たちを迎えてくれた優しいオクシタニアの地に文化的恩返しをしているような部分がありますが,ロッドーの地道な採譜活動などの成果である出版物に,それまでの学術的で権威的なオクシタニア文化のオーソリティーたちの中には,よそ者にかき回されてたまるか,と露骨にコルダエの活動を白眼視する者もいます。  ことは1994年にコルダエが出版した『ラコーヌ山地地方の民話選集』の中に挿入された一連のエロティックな艶笑民話に対して,某高名なるオクシタン文化研究家が,烈火のごとく激怒して,高貴なるオクシタニア文学の伝統を貶めるとは何ごとか,という内容の抗議文をロッドーに送ったことに始まります。その手紙には,問題の本が同封されて,その問題の部分の頁を研究家氏がハサミで切り取り,その代わりに彼の家族への手紙の写しが添えられ「われらが子孫がこのページを絶対に目にすることがないように」と書かれていました。この頑迷なる研究者氏の検閲・発禁要求をロッドーたちは大笑いして受取り,コルダエの建物の中にある小さなオクシタニア文化ミュージアムで,この手紙と切り刻まれた本をガラスケースの中に入れて展示してあります。  そういうことだったら,もっとやらにゃあいかんなあ,と思うのがロッドーでして,今度は十数年の時間をかけて,オクシタニアに伝承された民謡の中の春歌・艶歌,それをもとにロッドーが補作詞した歌,そしてロッドーの創作のエロティック民謡を全部で21曲入れたラ・タルヴェーロのアルバムを作りました。  いつもラ・タルヴェーロのアルバムでは,野生の小鳥のようなヴォーカルを聞かせるセリーヌ・リカール(ダニエル・ロッドー夫人)が、このアルバムではみだ〜らな声で歌っているかというと、そういうことはありまっせん。6曲めで、控えめに女性の恍惚スーハー呼吸が挿入されるのを唯一の例外としますと、ラ・タルヴェーロ独特の田舎アトモスフィア(動物や鳥の声、牧場、農場の音...)とフォークダンスビートに合わせて、セリーヌとダニエルがコミカルに田園的性風俗を歌っているものがほとんどです。というわけで、このオック語歌詞をだれかが逐一日本語にするという仕事をしないと、日本の人たちには一体このアルバムのどこが面白いのかはわかりっこない、というハンディキャップがあります。  古今東西、この種の歌というのは、人前で言えないような内容を露骨な言葉を避けて、誰にもわかる別の言葉を使ったり、誰にもわかる別の物をメタファーとして用いたりして、誰にでもわかる仕方で歌うものですから、聞く人たちの爆笑や下卑た笑いを誘うようにできています。フランスの田舎にはそういうメタファーになるものが、たくさんあるじゃないですか。腸詰、蜜壷、アスパラガス、鳥巣、イチジク、胡瓜、イガグリ、ふいご...。フランス深部では山と積まれた干し草の中、背の高い草むらの中、村の教会の告解室の中で何が起こっているのか子供たちはみんな知っているです。
 吊り橋を渡る途中で足を滑らせ  娘は川に落ちちゃって  ペチコートはべしょべしょ  小川に沿ってきた通りすがりの3人の猟師  野うさぎを射止めたと思ったら  射止めたのは小娘だった  その射ったタマは鉛の弾じゃない  その射ったタマは娘を小躍りさせる生の身  ズボンの前を膨らませる生の身  娘は母親に言う「大きなネズミだったよ」  私の脚の間に入ってきた大きなネズミは  なにか白いものを口から吐き出すのよ  その長いモノは3つの部分からなり  赤い頭、太い首、そして長いひげ  まるでりっぱな軍人さん       (11曲め「吊り橋」)  トゥーロンに行く途中  ボーケールの町を通っていったら  魚屋の娘に出会ったよ  おいらはしたいことさせてくれるかい?って聞いたら  娘は「父ちゃんと母ちゃんに聞いとくれ」と答える  父ちゃんは「ちゃんとできるんだったらね」と答える  母ちゃんは「少しだったらね」と答える  それでおいらは3回おさわりをしたんだが  娘はそんなもんじゃ足りないって言う  それでおいらはちゃんと靴を脱いで  もう一戦したんだ  「もしもそれでも足りないって言うんなら   店に取れ立てのボラがありまっせ!」        (4曲め「トゥーロンに行く途中」)
   こうやって全部訳してくれる人がいないと、日本の子供たちは楽しめないでしょうが、爺のブログでは「ほんのさわり」(いろんな意味でね)だけを。  なお9曲めに入っている「俺のベリンバウ」(草原で全裸で日光浴しているお嬢さんに、俺のベリンバウを出して弾いたら踊ってくれたんだけど、途中でベリンバウが折れてしまって、それをお嬢さんが手でいろいろしてくれて直してくれる、という意味深な歌。ダニエル・ロッドーのオリジナル)は、2007年のラ・タルヴェーロのアルバム『ブラマディス』の8曲めに入っている「俺のベリンバウ」と全く同じヴァージョンです。ちょっと手抜きじゃないですかね。 <<< トラックリスト >>> 1. LO CANARI カナリヤ 2. LO MENAL 手回し軸 3. LO FAUDAL DE CUER 革のエプロン 4. EN ANGUENT A TOLON トゥーロンへ行く途中 5. GARA GRA QUE LO TABAT タバコにご注意 6. LO CONILH 子猫 7. DIGA JOANTOL ジョアン坊や 8. QUAND ISABELETA VA AL JARDIN イザベレータが庭に行く時 9. MON BERIMBAU 俺のベリンバウ 10. AQUO FA BEN なんて気持ちいい 11. LA PLANQUETA 吊り橋 12. LA MARGOTON ラ・マルゴトン 13. LA SARRAMINGUETA サラマンゲータの城 14. LO BRAVE VESIN 健気な隣人 15. RAIMON レーモン 16. BATUCADA CALHOLA みだ〜らなバツカーダ 17. BORREIAS ブーレ 18. LO BARATIER PREN SA DALHA 鎌を取る小作人 19. LA VOLIAI BIQUI 俺は彼女をむしりたい 20. LA RASCLETA 熊手 21. LO PERDIGAL やまうずら 22. AQUESTE SER 今晩 LA TALVERA "CANÇONS PEBRADAS" CD CORDAE TAL16 / L'AUTRE DISTRIBUTION AD1865C フランスでのリリース 2011年5月25日 前作『ソパック・エ・パタック』(2009年)のレヴューはこちら (↓2009年ラ・タルヴェーロの30周年をルポルタージュするフランス国営テレビFRANCE3のオック語版ニュース。Oh la la...こんなヴィデオ知らなかったですよ。すごい、クロード・シクルやアンドレ・マンヴィエルとの共演シーンも入ってますね。タトゥー、マニュ・テロンも生身で登場してオック語でしゃべっています。セリーヌ・リカールはいつ見ても妊娠していそうな、大地のお母さん)

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