Tu parles, Charles !
なんとおっしゃるるアズナヴール!
10月23日、シャルル・アズナヴールの公式バイオピック『ムッシュー・アズナヴール』(メーディ・イディール&グラン・コール・マラード監督、タハール・ラヒム主演)が公開になるが、これは後日記事として当ブログで紹介できると思う。
そのほか今年2024年はアズナヴールの生誕100年に当たり、センチュリーボックスを銘打った100CD全録音集が出たり、100年記念のシンフォニック・コンサート(中島ノブユキさんの編曲/ピアノ)があったり、(←)こんな記念切手が発売されたり...。
そんな時、たまたま乗った地下鉄10号線の車内(→)にもこんな横長のアズナヴール「帰り来ぬ青春(Hier Encore)」の歌詞出だしを見つけたのだった。このアズナヴール初の世界規模ヒットはオリジナルが1964年の発表で、世界ヒットへの踏み台となるのがハーバート・クレッツマー(Herbert Kretzmer 1925 - 2020)によって英詞をつけられ"Yesterday When I was young"というタイトルとなって、まずカントリーバラード曲としてロイ・クラーク(1933 - 2018)が1969年に全米チャート6位にまで上る大ヒットとなった。以来この英詞"Yesterday When I was young"曲は英米有名アーチストたちによって再カヴァーされ、スタンダード化するのだったが、この英米カヴァーは例外なく4拍子バラードになっていて、原曲(アズナヴール詞/ジョルジュ・ガルヴァレンツ曲)”Hier Encore"の3拍子ワルツは踏襲されていない!おそらく日本で最も親しまれたのは英(007)歌手シャーリー・バッシー(1937 - )の1970年録音のヴァージョンであろうが、この熱唱に聴き慣れたであろう日本の歌手たちのカヴァー(尾崎紀世彦、弘田三枝子、和田アキ子...)はみな4拍子熱唱バラードになっている。これは1967年クロード・フランソワの"Comme d'habitude"(→1969年ポール・アンカ/シナトラ「マイ・ウェイ」)の現象と同じで、日本の歌手たちの手本はオリジナルではなく英米カヴァーなのである。それはそれ。
フランスでアズナヴールが初めて大成功を博したのは1960年12月12日パリ・アランブラ劇場で歌った"Je m'voyais déjà(俺には自分が見えていた)"であり、この時すでにアズナヴールは36歳だった。この1960年から数年の間に、アズナヴールの定番代表曲(”Les Comédiens", "La Mamma", "Et pourtant", "For me Formidable", "Emmenez-moi", "Désormais"... )のほとんどが大ヒットしていて、シャンソンクリエーターとして最も才気溢れていた時期と言える。その中でとりわけこの「帰り来ぬ青春(Hier Encore)」(1964年)と翌年1965年の「ラ・ボエーム(La bohème)」の2曲のメランコリック青春懐古シャンソンが群を抜いているように私には思える。二十歳の頃の回想と時の流れの無情を歌ったアズナヴール十八番には、もう1曲、1957年発表(つまり大歌手として認知される前の頃)の「青春という宝(Sa jeunesse)」というのがあり、これについては電子雑誌エリス2018年春の号に書いたアズナヴール追悼記事に詳しく触れてあり、この記事は当ブログに近日中に再録するので、そちらを読んでください。
では「帰り来ぬ青春(Hier Encore)」から歌詞対訳を見ながら聞いてみてください。
Hier encore, j'avais vingt ans
つい昨日まで私は二十歳だった
Je caressais le temps, et jouais de la vie
時を手玉に取り、人生をもてあそんでいた
Comme on joue de l'amour, et je vivais la nuit
恋のゲームをするように、私は夜を生きていた
Sans compter sur mes jours, qui fuyaient dans le temps
時の中に逃げ去っていく残された日々を数えることもなく
J'ai fait tant de projets, qui sont restés en l'air
たくさんの計画を立て、それは宙に浮いたまま
J'ai fondé tant d'espoirs, qui se sont envolés
たくさんの希望は生まれては飛び去っていき
Que je reste perdu, ne sachant où aller
私は自分を見失い、どこに行っていいのかもわからず
Les yeux cherchant le ciel, mais le cœur mis en terre
目は空を追っても、心は地を這っていた
Hier encore, j'avais vingt ans
つい昨日まで私は二十歳だった
Je gaspillais le temps, en croyant l'arrêter
私は時間を無駄に使い、時間を止められるんだと信じて
Et pour le retenir, même le devancer
時間をためておいたり、時間を追い越すこともできるんだと
Je n'ai fait que courir, et me suis essoufflé
私は走ってばかり、そして息を切らした
Ignorant le passé, conjuguant au futur
過去を無視して、未来にばかり話をくっつけ
Je précédais de moi toute conversation
私はあらゆる会話に出しゃばって自己主張した
Et donnais mon avis, que je voulais le bon
自分の意見を述べ、
Pour critiquer le monde, avec désinvolture
世界を批判した、厚かましくも
Hier encore, j'avais vingt ans
つい昨日まで私は二十歳だった
Mais j'ai perdu mon temps à faire des folies
私は愚かなことばかりして時間を失った
Qui ne me laissent au fond rien de vraiment précis
結局のところ私に確かなものなど何も残さなかった
Que quelques rides au front, et la peur de l'ennui
私に残っているのは額の皺と、厄介ごとへの恐れだけだ
Car mes amours sont mortes, avant que d'exister
私の数々の恋など芽生える前にすべて死に絶えた
Mes amis sont partis, et ne reviendront pas
友人たちは去っていき、もう戻っては来ない
Par ma faute j'ai fait le vide autour de moi
自分のせいで私は自分の周りを空っぽにしてしまった
Et j'ai gâché ma vie, et mes jeunes années
そして私は人生と若かった年月を台無しにした
Du meilleur et du pire, en jetant le meilleur
最良と最悪の選択に私は最良を捨て
J'ai figé mes sourires, et j'ai glacé mes pleurs
私は作り笑いをして、自分の涙を凍らせた
Où sont-ils à présent...
今どこにあるんだ?
À présent mes vingt ans ?
今、私の二十歳の日々は?
(↓)2023年に公開された新しい公式クリップ
若い時は愚かなことばかりして、もう取り返しがつかない現在がある、という無情の歌であるが、まあこういうわかりやすい悔恨抒情はそれまでの大衆的シャンソンではあまり歌われなかったのですよ。
「ラ・ボエーム」はオペレット劇『ムッシュー・カルナヴァル(Monsieur Carnaval)』(初演1965年12月、脚本フレデリック・ダール、作詞ジャック・プラント、音楽シャルル・アズナヴール)の劇中歌として作られ、舞台では主演のジョルジュ・ゲタリーが歌っている。しかしこのオペレットが上演される前にアズナヴールがシングル盤レコードとして発表してヒットさせてしまったものだから、同じくレコード化する予定でいたゲタリーとアズナヴール、そして双方のレコード会社の間で大揉めに揉めたというエピソードあり。まあ、一聴してヒット間違いなしと誰もが思ったであろうし。「帰り来ぬ青春」(アズナヴール詞)よりも、イメージが鮮明なジャック・プラント(+劇脚本のフレデリック・ダール)の書いたモンマルトルの丘の絵描きたちの青春像、二日に一度しか食事できない、貧しいけれど愛と芸術と夢があった20歳の頃、これは泣かせますわね。
Je vous parle d'un temps
20歳未満の子たちには
Que les moins de vingt ans
知るよしもない昔のことを
Ne peuvent pas connaître
話して聞かせよう
Montmartre en ce temps-là
その頃のモンマルトルは
Accrochait ses lilas
僕らの窓のすぐ下まで
Jusque sous nos fenêtres
リラの木々が伸びてきた
Et si l'humble garni
僕らが巣にして住んでいた
Qui nous servait de nid
つましい家具付き下宿は
Ne payait pas de mine
見てくれは悪かったが
C’est là qu'on s'est connu
そこで二人は知り合ったんだ
Moi qui criais famine
僕はいつも腹ペコだとぼやき
Et toi qui posais nue
きみはヌードモデルをしていた
La bohème, la bohème
ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
Ça voulait dire
その言葉の意味は
On est heureux
僕らは幸せだったということ
La bohème, la bohème
ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
Nous ne mangions qu'un jour sur deux.
二日に一日は食事抜きだった
Dans les cafés voisins
近くのカフェに行けば
Nous étions quelques-uns
僕らは栄光の日を待ちわびる
Qui attendions la gloire
無名の輩だった
Et bien que miséreux
みすぼらしく
Avec le ventre creux
腹を空かしていても
Nous ne cessions d'y croire
僕らは未来を信じることをやめなかった
Et quand quelques bistrots
そして某ビストロが
Contre un bon repas chaud
暖かい食事を代金に
Nous prenaient une toile
一枚の絵を買ってくれた時には
Nous récitions des vers
僕らはみんな竈の周りに集まり
Groupés autour du poële
詩を朗読したものだ
En oubliant l'hiver
冬の寒さを忘れて
La bohème, la bohème
ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
Ça voulait dire
その言葉の意味は
Tu es jolie
きみはきれいだ、ということ
La bohème, la bohème
ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
Et nous avions tous du génie.
そして僕らはみんな天才だった
Souvent il m'arrivait
画架を前にして
Devant mon chevalet
徹夜してしまうことも
De passer des nuits blanches
しょっちゅうあった
Retouchant le dessin
デッサンを手直し
De la ligne d'un sein
乳房のラインを
Du galbe d'une hanche
腰のふくらみを
Et ce n'est qu'au matin
そして朝になり
Qu'on s'asseyait enfin
一つカップのカフェ・クレームを前に
Devant un café crème
二人はやっと座り込んだ
Épuisés mais ravis
疲れ切っていたけど満足だった
Fallait-il que l'on s'aime
愛し合わなきゃだめだ
Et qu'on aime la vie
人生を愛さなければ
La bohème, la bohème
ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
Ça voulait dire
その言葉の意味は
On a vingt ans
僕らは二十歳だということ
La bohème, la bohème
ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
Et nous vivions de l'air du temps.
そして僕らは時代の先端を生きていた
Quand au hasard des jours
日々の気まぐれで
Je m'en vais faire un tour
僕の昔の住所を
A mon ancienne adresse
訪ねることもある
Je ne reconnais plus
かつて僕の若い日々を見ていたはずの
Ni les murs ni les rues
壁も通りも
Qui ont vu ma jeunesse
僕は全く覚えていない
En haut d'un escalier
階段を登っていき
Je cherche l'atelier
かつてのアトリエを探してみるが
Dont plus rien ne subsiste
まったく何も残っていない
Dans son nouveau décor
その新しい背景の中で
Montmartre semble triste
モンマルトルは悲しく見える
Et les lilas sont morts
リラの木々はみんな死んでしまったLa bohème, la bohème
僕たちは気狂いじみていた
ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
On était jeunes
僕たちは若かった
On était fous
La bohème, la bohème
ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
Ça ne veut plus rien dire du tout.
その言葉はもはや何の意味もない
(↓)「ラ・ボエーム」(1965年、ライヴ動画)
誰にでも自らの「ラ・ボエーム」体験がある。みんな若い頃(20歳の頃)はラ・ボエームだった。そう言われてみれば、それらしい体験がなかったわけではない、と振り返る中年/老年の遠い目がある。2024年公開のアズナヴール公式バイオピック『ムッシュー・アズナヴール』の共同監督のひとり、グラン・コール・マラードが「誰にでも自分のラ・ボエームがある(A chacun sa bohème)」というスラム曲を作った。これがなかなかいいので、いかに紹介して、この記事を閉じよう。
[Intro - Grand Corps Malade & Charles Aznavour]
Je vous parle d'un temps
それは昔のことさ
La bohème(ラ・ボエーム)
Je vous parle d'un temps
それは昔のことさ
La bohème
(ラ・ボエーム)
Je vous parle d'un temps
それは昔のことさ
Ça voulait dire
(その言葉の意味は)
La nostalgie comme emblème, entre galères et poèmes
ノスタルジー、生きる苦しみと詩情の間にあるシンボル
À chacun sa bohème
誰にでも自分のラ・ボエームがある
[Couplet 1 - Grand Corps Malade]
Je vous parle d'un temps que les moins de vingts ans ne peuvent pas connaitre
20歳未満の子たちが知らない昔のことを話して聞かせよう
Saint-Denis en ce temps là était mon seul décor et mon terrain de fête
その頃俺はサン・ドニは俺の唯一知ってるお楽しみの場所だった
Une terrasse de café, deux trois potos qui passent et le plan s'éternise
カフェのテラス、二、三人のガキが通り過ぎていく、話は尽きない
Et le clocher d'la mairie qui à dix-huit heures chante le temps des cerises
すると18時に市役所のチャイムが「サクランボの頃」のメロディーで鳴る
Je vous parle d'un temps que j'ai connu un temps comme une belle escale
素敵な寄り道だったような懐かしい昔のことを話して聞かせよう
On avait mille projets qu'on fantasmait devant une omelette frite à quatre balles
ポテトつきオムレツを囲んで俺たちは夢中で幾千もの計画を出し合った
On avait des idées et on refaisait le monde au pied des bâtiments
俺たちはアイデアに溢れ、建物の下に集まって世界を再創造したもんだ
Le monde a du nous voir il nous a offert l'espoir
世界は俺たちのことを見ていたに違いない、俺たちに希望を与えてくれた
C'est un bon commencement
それはいい出発点だった
[Refrain - Grand Corps Malade & Charles Aznavour]
La bohème
(ラ・ボエーム)
Je vous parle d'un temps
それは昔のことさ
La bohème
(ラ・ボエーム)
Je vous parle d'un temps
それは昔のことさ
Ça voulait dire
(その言葉の意味は)
On est heureux
俺たちは幸せだったってことさ
La bohème
(ラ・ボエーム)
Je vous parle d'un temps
それは昔のことさ
La bohème
(ラ・ボエーム)
Je vous parle d'un temps
それは昔のことさ
Ça voulait dire
(その言葉の意味は)
La nostalgie comme emblème, entre galères et poèmes
ノスタルジー、生きる苦しみと詩情の間に挟まれたしるし
À chacun sa bohème
誰にでも自分のラ・ボエームがある[Couplet 2 - Grand Corps Malade]
Souvent il m'arrivait devant mon cahier de passer des nuits blanches
ノートを前にして何晩も徹夜したこともしょっちゅうあった
Noircissant toutes ces pages avec excitation presque comme une revanche
まるで復讐劇のように興奮してノートの全ページを黒く埋めていった
Scander des poésies quelle jolie fantaisie face à des presque frères
まるで兄弟のような連中を前に詩を朗々と読み上げるなんて夢のようだ
Sans enjeux précis se sentir bien en vie et gagner quelques bières
それが何の足しにならなくても俺は気分良く、ビール代ぐらいは稼いだ
L'inspiration était partout je pouvais souvent la voir déborder
俺たちの無邪気さ、無頓着さ、奔放な生き方の中に
De notre innocence, de notre nonchalance, de notre vie débridée
インスピレーションはいくらでも溢れているように俺には見えたOn a laissé une trace en hurlant nos histoires à la gueule du monde
みんなの目の前で俺たちの話を喚き散らし、俺たちはその跡を残した
Je vous parle d'un temps dont je ne changerai pas une seule seconde
俺はその時代のことを言ってるが、俺は全く変わっていないんだ
[Refrain - Grand Corps Malade & Charles Aznavour]
La bohème(ラ・ボエーム)
Je vous parle d'un temps
それは昔のことさ
La bohème
(ラ・ボエーム)
Je vous parle d'un temps
それは昔のことさ
Ça voulait dire
(その言葉の意味は)
La nostalgie comme emblème, entre galères et poèmes
ノスタルジー、生きる苦労と詩情の間に挟まれたしるし
À chacun sa bohème
誰にでも自分のラ・ボエームがある
[Outro - Grand Corps Malade]
Quand au hasard des jours je m'en vais faire un tour à mon ancienne adresse
日によってたまたま俺の昔の住所を訪ねることもある
Je reconnais les rues mais l'esprit n'y est plus
その通りに見覚えはあるんだが、エスプリはもうそこにはない
Moins d'envies, moins de promesses
願望も約束も減ってしまっている
Reste alors le souvenir qui me donne le sourire
思い出だけが残っていて、俺は微笑むしかない
Et ce pincement extrême, la nostalgie comme emblème
この激しい心の痛さ、ノスタルジーは
Entre galères et poèmes
生きる苦しみと詩情の間に挟まれたしるしなんだ
À chacun sa bohème
誰にでも自分のラ・ボエームがある
(↓)グラン・コール・マラード 「誰にでも自分のラ・ボエームがある(A chacun sa bohème)」
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