アメリー・レ・クレヨン『海にいたるまで』
Amélie-Les-Crayons "Jusqu'à la mer"
私の生のすべて,そのひとかけを
あなたは盗んだ,そのあとは?
いいわ,私はあなたにそれを預けておくわ,心配しないで
私は去り,あなたはここに残る
ふたりとも狂っていたのね,残念だわ
このほうがいいのね
このほうがいいのよ
川床は
決して消え去るものではないけれど
雨の場合はそんなふうにはいかない
水は私たちを結ぶのと同じように
水は私たちを離ればなれにさせる
大洋はここからあまりにも遠い
旅をして 私は歳をとり
欲が少なくなった
そしてほんの少しだけど私は大きくなった
でもそれだけじゃ十分じゃないの
私はまだ探しているの そして人は私に言う
大洋はここからまだまだ遠いって
雨のしずくから
川床の流れへ
それがすべて何度も繰り返されるのは明白
海にいたるまで
(Jusqu'à la mer)
アメリー・レ・クレヨンはリヨンの人です。パリと同様に海から遠い内陸にありますが,パリにセーヌ川があるように,リヨンにはローヌ川が あります。この水の上に小舟を浮かべ,それに乗って川の流れにまかせておけば,大きな海に行き着くはずです。ところがこの少女は,ローヌ川に運ばれて地中海に至ることを拒否して,雨水や小川や運河をつたって,大西洋に至ろうとしているようなのです。少女の目指すのは "l'Océan"(オセアン,大洋)であって,他の海(例えばメディテラネ)ではない。
川の流れにも,時代の流れにも逆らって... アメリー・レ・クレヨンの3枚めのスタジオアルバム『海にいたるまで』 はそんな海行きの旅の物語であり,私たちへの旅の誘いでもあります。ダルシマー,リラ,コルヌミューズ,グロッケンスピール,蘆笛,コンセルティーナ,マンドリン,トイピアノ... そういう楽器群が奏でる非21世紀的なアンサンブルは,歩くリズム,櫂を漕ぐリズム,円舞しながら移動するリズムに乗せて,アメリーの旅物語の喜びや辛さや出会いを綴り上げていきます。いつも詩的で(大人の)童話的な世界をつくってきたアメリーとその仲間たちにあって,このアルバムに特徴的なのは,近代性を排除して,中世的でケルト的で神話的なものを援用して,一夜に千里を進むようなスケールの大きい展開を可能にしていることです。
ウィキペディアの記述ではアメリーは1981年に生まれたことになっています。ミッテラン元年。演劇の勉強を終え,街頭劇などを経験したのちに,1999年から作詞作曲を始めました。「色えんぴつのアメリー = Amélie-les-Crayons」は彼女が創り上げたペルソナージュ(作中人物)。このペルソナージュの周りに3人の男性ミュージシャンたちが集ってきて,音楽劇一座「アメリー・レ・クレヨン」が結成されます。つまり,アメリー・レ・クレヨンとは4人の一座の名前でもあり,その中心人物たる女性歌手の芸名でもあるのです。
この一座のスタイルは,舞台装飾,大道具小道具,衣装といった演劇的な効果に重きを置いて,登場人物(アメリー+ミュージシャン)キャラクターを劇的に際立たせ,歌のショーであるよりも,音楽劇スペクタクルとして楽しまれることを本領としています。その最初に立ち上げたスペクタクル『ル・シャン・デ・コクリコ(ひなげしの歌)』 から,自主制作の6曲入り初ミニアルバム『ル・シャン・デ・コクリコ』(2002年。4000枚完売。現在入手不可能)は生まれました。
2年間にわたってリヨンとその周辺の地方でこのスペクタクルを巡演したのち,2004年アメリー一座は『エ・プルコワ・レ・クレヨン?(どうしてエンピツなの?)』と題するファーストフルアルバムと,同名のスペクタクルを創演します。アルバムはすぐさまチャートインし,売上枚数は2012年までで4万2千枚を記録しています。そして『エ・プルコワ・レ・クレヨン?』のショーはフランス全土だけでなく,スイス,ベルギー,ケベック,フィンナンドにも及び,3年間で200回におよぶ公演回数となりました。ここでアメリーは"Bête de scène"(ベート・ド・セーヌ,舞台アニマル,舞台狂)という評判がついてしまいます。
2006年から2007年,アメリー(+一座)は1年間舞台から離れて新アルバム&新スペクタクルを準備します。完成したのが『ラ・ポルト・プリュム(羽根の扉)』という作品で,このアルバムに関してはわがブログの『歌ってクレヨン』という記事で紹介しています。アルバムはアカデミー・シャルル・クロ・ディスク大賞を受賞,売上も3万2千枚という強さ。そしてそれに続く3年間の『ラ・ポルト・プリュム』ツアーは,2009年にDVD化され,"A l'Ouest je te plumerai la tête"というタイトルで発売されましたが,このDVDもわがブログは取り上げていて『やせっぽちのことを日本語で「えんぴつ」と言う』の記事になりました。
1枚のアルバム+3年のツアー,次いで1枚のアルバム+3年のツアーというサイクルでやってきたアメリー・レ・クレヨン一座は,同じように1年間の舞台から離れての準備期間をとって,この2012年『Jusqu'à la mer (海にいたるまで)』を完成させました。旅と詩とイマジナリー・フォークロアの13曲。より女性的で,より大人になったアメリーの曲と歌,それがどんなスペクタクルになるのか。
9月28日,私はサン・ジェルマン・アン・レイ(パリ西郊外)で,アメリー一座の『海にいたるまで』スペクタクルの初演を見ることができる,という幸運を得ました。またアメリーにインタヴューする,という幸運も。このことは音楽誌「ラティーナ」(2012年11月号)に書きます。ぜひ読んでみてください。
<<< トラックリスト >>>
1. Voyager léger
2. On n'est pas fatigués
3. Mon ami
4. Marie Morgane
5. Si tu veux
6. Les filles des forges
7. Jusqu'à la mer
8. Mes très chers
9. Les vents de brume
10. Les Saintes
11. La balançoire
12. La solution
13. Tout de nous
AMELIE-LES-CRAYONS "JUSQU'A LA MER"
CD L'Autre Distribution OP14AC3246
フランスでのリリース : 2012年10月8日
(↓ "Tout de nous" オフィシャル・クリップ)
3 件のコメント:
初めまして。東京に住む音楽ファンです。
このグループの事からたまたまこのブログに辿り着いたのですが、ここに紹介してあるものが面白くて面白くて、暫くは聴きあさってしまいそうです。なかなか日本に無い情報なので、また、是非!DIONYSOSなんて全然日本では知られていません(多分)。
ふじにぃさん、
コメントありがとうございました。コメントが極端に少ないブログページなので、大変励みになります。
ディオニゾスは今2月5日公開のアニメ映画"Jack et le mécanique du coeur"のプロモ中です。こちらも公開後にブログで紹介するつもりです。
ふじにぃさんのブログも見せていただきました。がんばっていらっしゃいますね。
またお越しください。Bien à vous.
またいろいろと参考にさせて頂きます。
あともし宜しければ、拙ブログでこちらの事を一言紹介させて下さい。僕も我が物顔で書きすぎたもので。
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