2010年6月23日水曜日
Do you believe in magic ?
『手品師』"L'ILLUSIONNISTE" 2006年制作フランス,アニメーション映画
監督シルヴァン・ショメ 原作ジャック・タチ
フランス封切:2010年6月16日
6月22日(火曜日)の夕方5時の回に見ました。付帯状況を説明しますと,W杯決勝リーグA組最終戦,フランス対南アフリカ共和国が開始されて前半で耐えられなくなって,映画館に飛び込んだというのが実情です。この映画の中でも,少女アリスが若い男と仲良く腕組みながら歩いてくるのを見た手品師が,たまらくなって通りにあった映画館に飛び込むとその中でジャック・タチの『ぼくの伯父さん』が上映されているというシーンがあります。耐えきれなくなったり,たまらなくなったりして飛び込んだ場所が映画館という経験,あなたありませんか?
"LES TRIPLETTES DE BELLEVILLE"(日本題『ベルヴィル・ランデブー』)のシルヴァン・ショメの大作アニメ,第2弾です。ジャック・タチの未発表シナリオが原作です。
1950年代,パリではミュージックホール全盛時代が終わり,そのスターであった手品師,腹話術師,軽業師,道化師などが喰えなくなり,地方へ外国に旅に出て出番を探すようになります。海峡を渡り,ロンドンに行くものの,劇場はロックンロール時代を迎え,手品がロックンロールに太刀打ちできるわけがありません。初老の手品師タチチェフ氏は仕事を求めてさらに北上し,スコットランドの離れ小島のたどり着きます。この離れ小島に初めて電気の灯がともる,という記念パーティーの余興ショーマンとして出演し,大喝采を受けます。泊まった島の宿屋で出会った貧しいメイドの少女アリスは,この初老の芸人に「魔法使い」を見ます。すべての夢を叶えてくれる魔法使いのように見えたのです。手品師はこの無垢な少女の前で,最初は手品はタネのあるごまかし(「passe-passe パスパス」,やがて少女は男を"パスパス"と呼ぶようになります)にすぎないと説明しようとするのですが,少女は魔法を信じていて,男は徐々に少女の魔法使いの役を演じるようになります。島を離れ,スコットランドの都会,エジンバラに移ってきた手品師は,彼についてきた少女を優しく保護し,その願い(服がほしい,靴がほしい...)を次々に叶えてやりますが,それは魔法ではなく,少女の見えないところでガレージで働いたり,ペンキ塗りをしたりして小銭を稼がねばならなかったのです。
売れなくなった手品師の仕事の惨めさや貧しさにも関わらず,少女と男の魔法のように美しい時間が,50年代スコットランドのすばらしい風景とエジンバラの美しい街並の中で展開します。ところが,時は経ち,少女は大人になっていくのです。優しい若者と出会い,少女は恋に落ちます。手品師の「魔法」が必要でなくなる時が来たのです...。
このアニメ映画は,セリフがほとんどなく進行します。手品師タチチェフ氏はフランス語を話し,スコットランドの人たちは英語を話し,少女アリスはゲール語しか話しません。言葉による理解を全く必要としない映画です。少女と手品師はコミュニケーションなしで,危うくも純粋な交感を成り立たせているように見えます。このアニメ映画のポエジーは,言葉がないゆえに絵だけで浮かび上がってくるポエジーなのです。
しかしこの絵...。最初から最後まで,どの絵を見ても,どの構図を見ても,あらゆる画面から詩情が直撃してくるような場面ばかりです。これは私たちの古いヨーロッパが持っている何かかもしれません。雨降る北ヨーロッパの灰色基調の薄暗い風景が持っている何かでもありましょう。蒸気機関車と煙草が画面を煙たくしています。そういう優しい濁りが,この映画の隠し味のように見ました。
(↓"L'Illusionniste" 予告編)
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