オリジナル・サウンドトラック『ゲンズブール その英雄的生涯』
Bande originale du film "Gainsbourg - Vie Héroique"
映画については1月23日の拙ブログで長々と書きました。監督のジョアン・スファールは自らミュージシャン(特にウクレレ奏者)でもあり、ディオニゾスやトマ・フェルセンなどとも親交があり、映画メイキング・オブ・ヴィデオでもその音楽録りにかなりうるさそうな印象がありました。
サントラは音楽監督のオリヴィエ・ダヴィオー(ディオニゾス、オリヴィア・ルイーズ、ベナバール等の編曲者)によるオリジナル・スコア盤と、ゲンズブール楽曲を映画用に新再録した盤の2枚があり、一般には後者の方が市販盤として出回っています。オリヴィエ・ダヴィオーには悪いのだけれど、私の興味はもっぱら後者の方で、映画で使われたゲンズブール曲で聞いたこともないようなヴァージョンのものが俄然耳を引くわけですね。
エリック・エルモスニノにはゲンズブールの声は出ませんし、いくら物真似しようにもその領域に達することはできません。にもかかわらず、このサントラは「ジュ・テーム、モワ・ノン・プリュ」を除いて、ゲンズブールの声はエルモスニノが本人なりきりの声帯模写パフォーマンスです。たぶん録音時には、自然とあごがぐっと前に出て上下にぴくぴく揺れるゲンズブール・ポーズになっていたのでしょうね。
この映画はほとんど往年のハリウッドもののように、歌が物語を形成する重要な要素となっています。ボリズ・ヴィアン(フィリップ・カトリーヌ)がゲンズブール(エルモスニノ)とお互いの自作曲をミックスしてデュエットするという、絶対にありっこないシーンは映画では非常に刺激的なのだけれど、サントラで音だけで聞くとずいぶん薄まります。
これもハリウッド仕立ての演出で,初対面のジュリエット・グレコ(アンナ・ムーグラリス)とゲンズブールが,グレコ邸で「ラ・ジャヴァネーズ」をデュエットするというこれまた絶対にあり得ないシーンがあります。これは「ラ・ジャヴァネーズ」の歌詞とシンクロして,「歌一曲の時間だけ愛し合う」男女の図になってしまうんですね。映画ではこの場面で,ゲンズブール妻(当時)が途中で割って入って「おむかえでごんす」と無理矢理ゲンズブールを連れ去り,残されたグレコが去り行く男を窓から目で追いながら,ひとりで涙ながらに「ラ・ジャヴァネーズ」を歌い終わる,というドラマティックな展開です。これもサントラだけで聞く人には何が何やらわからないでしょうね。
頭の悪い人形アイドル歌手というステロタイプ化されたイメージで描かれたフランス・ギャル(サラ・フォレスティエ)のでたらめにシャウトする「ベビー・ポップ」は,意図的とは言え,もうちょっとリスペクトがあってもいいんではないか,と思ってしまいますがね。
画面にはちょっとだけバンドギタリストで顔を出す,ディオニゾスのマチアス・マルジウのディストーション・ギターで数倍にガレージ・パンク化した「ナズィ・ロック」は,エルモスニノの酔漢ヴォーカルもいい感じです。『ロック・アラウンド・ザ・バンカー』という目立たないアルバム(私はとても好きなアルバムなのです)を,この子ら(ディオニゾスのことですが)はこんな風に聞いていたのか,とちょっとうれしくなったりして。
映画ではよく聞こえないのに,サントラではめちゃくちゃに良い,という曲もあります。映画に出演していないセーヌ・フランセーズの大物女性アーチストふたり,ジャンヌ・シェラルとエミリー・ロワゾーが歌う「キ・エ・イン,キ・エ・アウト」はあっと驚くデストロイ・イエイエで,ぶったまげました。レ・フレール・ジャック役で出演しているコミック弦楽四重奏団のル・カチュオールによる「リラの門の切符切り」もさすがの芸です。そしてセルジュ・テッソ=ゲイ(ノワール・デジール)のギターがフィーチャーされた「ロテル・パルティキュリエ」(アルバム『メロディー・ネルソン』の中の曲です)は,映画では使われたんだろうかと疑うほど全く気がつきませんでしたが,サントラではエルモスニノのヴォーカルもテッソ=ゲイのギターも高テンションのパフォーマンスで圧倒されます(この曲はリタ・ミツコのヴァージョンもあるので聞き比べてみてください)。
反面,「コミック・ストリップ」や「オ・ザルム・エトセテラ」(レゲエ版ラ・マルセイエーズ)などは,カラオケ芸的ものまねにしか聞こえません。こうしかやりようがないのでしょうね。
<<< トラックリスト >>>
1. TAXI 69 ("69 année érotique")
2. NAZI ROCK (feat. Eric Elmosnino and Dionysos)
3. JE BOIS / INTOXICATED MAN (feat. Eric Elmosnino and Philippe Katerine)
4. LA JAVANAISE (feat. Eric Elmosnino and Anna Mouglalis)
5. ELAEUDANLA TEITEIA (feat. Eric Elmosnino and Gonzales)
6. JE T'AIME... MOI NON PLUS (Jane Birkin/Serge Gainsbourg version)
7. CHEZ DALI ("L'eat à la bouche")
8. PARCE QUE (feat. Eric Elmosnino and Gonzales)
9. QUI EST "IN" QUI EST "OUT"(feat. Jeanne Cherhal and Emily Loizeau)
10. BABY POP (feat. Sara Forestier)
11. LE POINCONNEUR DES LILAS (feat. Le Quatuor)
12. LE CANARI EST SUR LE BALCON (feat. Eric Elmosnino and Lucy Gordon)
13. L'HOTEL PARTICULIER (feat. Eric Elmosnino and Serge Teyssot-Gay)
14. LE SALON DE COIFFURE ("Flash Forward")
15. INITIALS B.B.
16. BONNIE AND CLYDE (feat. Eric Elmosnino and Laetitia Casta)
17. COMIC STRIP (feat. Eric Elmosnino and Laetitia Casta)
18. GAINSBOURG CHERCHE "JE T'AIME... MOI NON PLUS"
19. AUX ARMES ET CAETERA (feat. Eric Elmosnino)
20. LOVE ON THE BEAT (feat. Eric Elmosnino, Philippe Almosnino, Nosfell...)
21. LA VALSE DE VON PAULUS (Olivier Daviaud)
OST "GAINSBOURG (VIE HEROIQUE)"
CD UNIVERSAL FRANCE 5324432
フランスでのリリース:2010年1月4日
(↓ Eric Elmosnino & Dionysos "NAZI ROCK" Clip)
1 件のコメント:
先週はFacebookでもフランスの友達の書き込みで
「これからゲンズブールの映画に行くわ。」なんてのが
多かったです。しかし,観た後の感想を語る人たちは
いません。爺くらいです。しかも日本語で読めるありがたさ。
ゲンズブールのトリビュート作品、最後に聞いたのが
「Monsieur Gainsbourg」あれをまだ30代前半の友達に
聞かせたら「かっこいいですね」と言っておりました。
このサントラもきっとそんな感覚で若い子たちは聞くのかな。
しかしカトリーヌがヴィアン役って。私は納得しないなあ。
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