2026年3月8日日曜日

そ、そ、そ、ソリダリテ!

"La Maison des Femmes"
『女たちの家』

2025年フランス映画
監督:メリッサ・ゴデ(初長編映画)
主演:カリン・ヴィアール、レティシア・ドッシュ、エイエ・アイダラ、ウーラヤ・アマムラ、ジュリエット・アルマネ
フランス公開:2026年3月4日


ラ・メゾン・デ・ファム La Maison des Femmes」はフランスに実在する医療機関である。パリ北郊外サン・ドニにある公立総合病院施設ホピタル・ドラフォンテーヌ(サン・ドニ医療センター)の産科主任だった産婦人科医ガーダ・ハテム=ガンツェールが、臨床経験から多くの女性たちが性暴力および暴力によって心身に大きな影響を被っているにも関わらず、患者たちがそのことを訴えるのは稀で、その被害を訴えてもそれに対応できる医療機関が存在しない、という現実に抵抗して、同病院内に独立した施設として性暴力/暴力やハラスメントの被害者女性専用の医療・心神医療センターを2016年に開設したことが始まり。
 このフィクション映画は、その「ラ・メゾン・デ・ファム」の実際の活動をベースに展開するメゾンの医師たちスタッフたちの奮闘を描くものである。メゾン創設者ガーダ・ハテム=ガンツェールをモデルにしたこのメゾンの責任者であるディアーヌ(演カリン・ヴィアール)は産婦人科医であり、このメゾンの重要な活動のひとつである(主にアフリカ諸国のFGM=女性器切除慣習の被害者たちへの)クリトリス再生手術の執刀医でもある。この病院がそのクリトリス再生手術のパイオニアであることも大きな理由であろうが、このメゾンの門を叩く女性たちにはアフリカ出身者たちが少なくない。北郊外サン・ドニという土地柄もあって、エキゾチックな女性たちが多く見えるが、それだけではない。女性への暴力には人種も国籍もない。映画の重要なエピソードのひとつで、カトリーヌという名の65歳のフランス(白人)女性が裕福な環境にあるが、数十年もの間(社会的に地位も高いとされる)夫にひどい暴力を受け続けていて、このメゾンの門を叩いている。
 傷ついた女性たちを迎えるメゾンの個性的なスタッフたちがみな素晴らしい。医師、理学療養士、心療カウンセラー、ソーシャルヘルパー、セラピーアトリエのアニメーター...。演じるのはレティシア・ドッシュ、エイエ・アイダラ、ウーラヤ・アマムラ、ジュリエット・アルマネ、そしてこの”女性世界”の中でひとり”白人男性医師”ということだけでともすれば敵視白眼視を避けられない運命にある心療医チームのチーフという役でピエール・ドラドンシャン(これが度量の広い人徳者的立ち回りで信頼を勝ち得ていて、好演)。みなこのメゾンの仕事に誇りを持っていて、女性たちへの世の理不尽に熱血的に立ち向かっていく姿勢は揺るぎない。が、実は揺るぎはあり、この激務をこなす上での施設の予算も人員も少なく、患者=女性被害者たちの数は増加の一途だがその来訪をメゾンは拒んではいけない、ゆえにスタッフへの負担は増大していく...。院長ディアーヌはそのストレスを軽減するために、毎日プールで泳ぐことを忘れない。映画は何度かその水泳シーンを映し出すが、これ本当にカリーヌ・ヴィアールが泳いでいるのだろうか、実に見事なクロール泳法で観る者のストレスも運び去ってくれるような美しさ。

 さてこの種の社会的な理不尽さと(人知れず)闘う人々の連帯を描いたフランス映画を、当ブログでは既に3本紹介している。マイウェン監督の『ポリス(Polisse)』(2011年 = 未成年児童が被害者および加害者となる事件すべてを担当するパリ警察・未成年保護部隊BPM、カリン・ヴィアールも隊員のひとりとして出演している)、トレダノ&ナカッシュ監督の『規格はずれ (Hors Norme)』(2019年 = 自閉症児たちを迎える民間NGO施設の責任者=ヴァンサン・カセル、郊外でそのケアヘルパーを養育するエデュケーター=レダ・カテブ)、ルイ=ジュリアン・プチ監督『見えない女たち (Les Invisibles)』(2019年 = ホームレス、長期失業無収入者、元セックスワーカー、元刑務者などの困窮女性たちを日中のみ迎え各種サービスを提供する公立の収容施設)。いずれも卓抜な社会派映画である。しかしこの3本に共通しているのは、この弱者を守るために奮闘する女たち男たちに立ちはだかる壁となるのは、その敵たる社会的な理不尽さよりも、その上で監視する行政だったり役所だったり組織上部だったり、なのである。日常の奮闘激務に疲れながら、勇敢なヒーロー/ヒロインたちはこの”役所”の攻撃にも疲弊していく。悲劇はここにあるのだ。
 この『メゾン・デ・ファム』にも監査が入り、資金の運用などについていろいろ難癖がつけられ、監督官が常駐するようになり、その報告次第では閉鎖もやむなし、という方向に。毎日これだけ多くの患者/被害者/困窮者が門を叩き、人員も時間も施設も足りないのに。”余分な”セラピーアトリエやリハビリジム活動など削ってしまえ、と求められたり。やり甲斐と誇りを持ってこの仕事に従事しているスタッフたちの前でディアーヌは絶対にこのメゾンは存続させる、と息巻くのであるが。
 だがメゾンの現状というのは、そのままの(現予算のままの)”存続”というのは何らの解決ではなく、不十分な施設環境でスタッフたちの過酷な労働条件の悪化は止められない。国や公共機関の施し予算に頼りっぱなしではいられない。ディアーヌはこの危機を、”禍転じて福”とすべく、性暴力やDVなどの女性の問題に理解あるメディア/市民/大企業の協力を訴え、メゾンの拡張化/増設化のプランを立てる。マスコミに露出し、大企業を巡回訪問し、Tシャツなどのグッズを販売し...。行動する産婦人科長、こういう姿のカリン・ヴィアールは堂に入っている。
 映画はメインにこのメゾンの日常的な活動を映し出す。やってくる女性たちは性暴力被害者、DV被害者、性器切除や強制結婚から逃れて難民となってフランスに辿り着いた女性、”事故的”に妊娠してしまった未成年女性、ハラスメントで精神を病んでしまった女性、極端な家父長制因習に耐えられず家庭を飛び出した女性...。長い間タブー視されていたアフリカの女性器切除慣習の被害者が、失われた”女性”を求めてクリトリス再生手術を願い出る者もいる(この”再生”のドラマがこの映画の最重要シーンの一つでもある)。反面(北アフリカ系の家父長制因習の影響と思われるが)家族親族や同じ共同体の人々に指弾されない、真っ当な結婚をしたいので、”処女膜再生手術”をして欲しいと嘆願する娘もいる。← これに対してスタッフは世の”ヒーメン神話”のウソを説明し、それを理由に結婚できない社会にあなたは生きていないと説き、もしもあなたがその時点その種のハラスメントを受けたら、もう一度ここに来なさい、解決策はある、と。
 同時にこのスタッフたちも生身の人間であるから、それぞれ個人的な事情も悩みもある。ディアーヌの右腕のような立場の現場チーフであるマノン(演レティシア・ドッシュ)は、仕事はめっぽうできるしこのメゾンを愛する気持ちは誰よりも強いのだが、往々にして家庭(独立心の強いやり手の夫+幼い息子)との兼ね合いが難しく、メゾンの仕事を優先させてしまう傾向があり、それが夫婦の危機にまで達してしまいそうになる。ディアーヌはマノンと徹夜で飲み、その悩みを解消しようとする。仕事が好きか夫が好きか、その両方が好きだったら、両方ともものにしてしまえばいい(←ごもっともな意見)。
 心療内科医のたまごとして、パリ6区の”高級”病院のポストを断って、この郊外病院の”女性専科”メゾンに研修スタッフとなって仲間入りしたイネス(演ウーラヤ・アマムラ)は、傷ついた女性たちがこのメゾンで少しずつ治癒し再生していくさまざまなドラマを目の当たりで見ることで、この仕事こそ自分が探していたこと、と目覚めていく。しかし彼女に好環境で安定した医師コースを用意していた母はイネスの選択が全く理解できず、二人の関係は悪化する(←まあ、円満なエンディングはあるのだが)。イネスは悩みを上司同僚に告白する。
 そういったスタッフたちの悩みやストレスを一挙に解消してしまうのが、一緒に飲み、一緒に踊り、一緒に歌い、一緒に騒ぐ、というクラブやディスコまがいの場所でのお祭り騒ぎなのである。この戦士たちの羽目はずしシーンというのは、上に紹介した3本の映画『ポリス』、『規格はずれ』、『見えない女たち』にも共通して登場するし、これが観る者を本当に幸せにするし、映画を見事に救ってくれるのである。
 しかしこの映画にも暗部はあり、本文の最初の方で紹介した(DV被害でカウンセリングを受けていた)65歳のブルジョワ白人女性カトリーヌが、夫の暴力によって殺されてしまうのである。なぜメゾンはカトリーヌを救えなかったのか。このショックこそ、今日のフランスで1日に2人の女性が殺されている(2025年の数字で年間782人の被害者)というフェミサイドの現実なのである。だからこそ、このようなメゾンはもっともっと増えなければならない。

 映画の結末部は、晴れて監査報告がこのメゾンの存続を認めただけでなく、ディアーヌのメゾンの拡大と増設のプランも多くの寄付賛同が得られて具体的に進行するようになる、という朗報をバックに、ディアーヌをはじめ傷ついた女性たちを守り治癒再生させる現場で働くスタッフたちが全員街頭に出て、「フェミサイド糾弾デモ」の最前列で(バトゥカーダのリズムに乗って)踊りながら行進していく、という素晴らしいエンディング!こういうヒロイン/ヒーローたちは映画の中だけでなく、実際に現場にたくさんいるのだ、ということを私は知っている。多くの人に知ってもらいたい。

カストール爺の採点:★★★★☆

(↓)『女たちの家 La Maison des Femmes 』予告編