2026年2月6日金曜日

Ils ont changé ma chanson, ma...

Michel Delpech "La maison est en ruine"
ミッシェル・デルペッシュ「哀しみの終わりに」

作詞:ジャン=ミッシェル・リヴァ、ミッシェル・デルペッシュ
作曲:クロード・モルガン
1974年 アルバム"Le Chasseur"所収

2026年1月から2月、わが娘の住むブルターニュ地方は3つの海洋ハリケーンに襲われ、それに伴う局地的集中豪雨で、海岸地帯から内陸深くまで大洪水に見舞われ、長期にわたる波状降雨のため水が引かず、私たちは毎日のようにブルターニュの洪水惨状をテレビで見ていた。気候変動による甚大な自然災害に、私たちの目は慣れっこになってしまったようだが、壊滅的な被害で家屋を失った人たちの悲痛な姿を見るにつけ、わが身にいつ起こっても不思議ではない病んだ地球の現状に気が重くなる。
 今から10年前の2016年1月、ボウイーと同じ正月に、ボウイーと同じ歳(69歳)で、ボウイーと同じガンでこの世を去ったミッシェル・デルペッシュ。この歌が出た1974年頃は、日本でもそこそこ知られていて、ポルナレフ、ジュリアン・クレールなど共に(おシャンソンから脱皮した新しめの)”フレンチ・ポップス”のアーチストとして紹介されていて、「青春に乾杯 (Pour un flirt)」、「ワイト・イズ・ワイト (Wight is Wight)」の2曲は1972年当時、青森のAM局でもよく聞こえてきたものだ。その人気を裏づけるように、この1974年の"La Maison est en ruine"は本国フランスでシングルカットされなかったのに、日本では「悲しみの終わりに」とムード的な日本題がついてキングレコードからシングル化されたのだった。この人の場合、フランスでは都会性よりも土の香りに近いような、ずっと後年にオーガニックとかエコロジックと言われるようになる自然/田舎情緒がつきまとうのであるが、1974年のアルバム "Le Chasseur (狩人)”はまさにその傾向の曲が多く...。で、この曲はその田園牧歌調の良い例で、リンゴ農家が大災害(洪水)で家も果樹園も壊滅的打撃を受け、悲嘆に暮れてないで夫婦で別の土地でやり直そうと、自らに言い聞かせる歌なのね。「哀しみの終りに」という日本語題はまんざら当たってないというわけではないのね。
Avant l'inondation, c'était notre maison
洪水の前はそこが僕たちの家だった
C'était notre jardin
僕たちの庭だった
On avait réussi à se faire une vie
ここで生活を築き上げられたんだが
Et nous n'avons plus rien
今僕たちには何も残っていない
Regarde nos pommiers, ils n'ont pas résistés
このリンゴ畑を見てごらん、洪水の勢いに
Aux forces du torrent
耐えられなかった
On ne voit plus d'oiseaux, il n'y a que de l'eau
鳥の姿も見えない、あるのは風と
Et puis du vent
水だけだ

Allez viens mon amour
おいでモナムール
Là-haut sur la colline
あの丘の上に行こう
Regarde, la maison est en ruine
見てごらん、僕たちの家は廃墟と化した
Il faut l'abandonner
放棄しなければならない
Et tu te fais du mal à pleurer
きみは泣いて自分を傷つけるけれど
Nous avons des amis là-haut sur la colline
あの丘の上で僕たちには友だちができるさ
On en a dans les villes voisines
隣町でも友だちができるさ
On est sûr de trouver quelqu'un qui voudra bien
きっと僕たちを助けてくれる人が
Nous aider
見つかるよ

On a vu bien des gens comme nous maintenant
僕たちのような人たちもたくさんいた
Qui avaient tout perdu, ils vont bien quelque part
すべてを失ってしまい、どこかに行ってしまった
Je voudrais bien savoir ce qu'ils sont devenus
あの人たちがどうなったのか僕は知りたい
Tu sais je n'ai pas peur, il y a peut-être ailleurs
僕は怖くないよ、たぶんよその地にも
Des coins plus beaux qu'ici
ここよりも美しいところがあるかもしれない
Regarde la vallée, le village est noyé
あの谷を見てごらん、村は水に沈んでしまった
Tout est fini
すべてはおしまいさ

Allez viens mon amour
おいでモナムール
Là-haut sur la colline
あの丘の上に行こう
Regarde, la maison est en ruine
見てごらん、僕たちの家は廃墟と化した
Il faut l'abandonner
放棄しなければならない
Et tu te fais du mal à pleurer
きみは泣いて自分を傷つけるけれど
Nous avons des amis là-haut sur la colline
あの丘の上で僕たちには友だちができるさ
On en a dans les villes voisines
隣町でも友だちができるさ
On est sûr de trouver quelqu'un qui voudra bien
きっと僕たちを助けてくれる人が
Nous aider
見つかるよ

Allez viens mon amour
おいでモナムール
On recommencera
もう一度やり直すんだ
Il me reste mon coeur et mes bras
僕にはまだ心と両腕がある
La maison mon amour, on la rebâtira
モナムール、僕たちの家をもう一度建てよう
Toi et moi
きみと僕とで
Allez viens mon amour
おいでモナムール
Là-haut sur la colline
あの丘の上に行こう
Regarde, la maison est en ruine
見てごらん、僕たちの家は廃墟と化した



名唱ではありませんか。大災害ですべてを失った夫婦の、絶望からの立ち上がりを歌い上げる。傍らで泣いてばかりいる妻に「おいでモナムール (Allez viens mon amour)」と声をかけ、あの丘の上に行こう Running up that hill と一歩を踏み出す。エモーショナル。だが... この「モナムール」という呼びかけに、執拗に注目してしまった日本人がいたのだね。

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Look what they've done to my song, ma...

2026年2月4日18時頃、フランス国営ラジオFIPで、私はこの日本語カヴァーヴァージョンを初めて聴いた。わが最愛のラジオFIPは、開局55年の歴史を持つ世界的に定評あるオールラウンド選曲の音楽FMであるが、日本の楽曲はかなり重要な頻度でオンエアされ、ここ5年ほどは70/80年代のいわゆる「シティーポップ」が驚くほどハバを利かせている。こんな選曲はフランスではここしかないだろうが、私が日本からフランスに移住した後の時期の日本産ポップスなので私も知らない曲がほとんどだ。
このデルペッシュ”La maison est en ruine"の日本語カヴァー(シティーポップ)ヴァージョンは、1983年日本コロンピアからリリースされていて、タイトルは「いってモナムール」、アーチスト名は清野由美(せいの・ゆみ)。80年代に3種のレコードを出していて、この曲は1983年のLP”Continental"のB面1曲めに収められている。アーチスト自身は80年代で第一線を退いていたようだが、昨今のシティーポップ再評価のおかげで再び脚光を浴びているような話もあるらしい。この人に関して私には全く情報がない。ただ2月4日のFIPでのオンエアの際に、FIPのアニマトリス嬢が「デルペッシュのあの曲がシティーポップとして魔法のような変身」とベタ褒めの紹介をしていた。そりゃあ、一聴して大変身ですとも。
恋人より情婦がいい
歯止めもなく溺れて行く
そんな時が私は好き
薄い絹の灯りの中
爪を噛めばやがて浅く
やがて深く泡立つ
男は風 女は空
揺れてきしむ愛よ
いってモナムール いってモナムール
好きと
いってモナムール いってモナムール
ただひと言好きと
いってモナムール いってモナムール
好きと


 これをかなりハイランクな(複雑にオシャレで都会的で洗練された)シティーポップとして持ち上げるFIPリスナーたちのことがわからないわけではない。レコード会社がフランスの権利者からちゃんと許諾をとった上でのカヴァー・ヴァージョン制作だったであろうから、文句つける筋合いはないのではあるが、この日本語詞、かなり問題あると私は思うのだよ。”訳詞”としていないから、どんな歌詞になろうが知ったこっちゃないのかな。日本語詞を書いたのは杉山政美という作詞家。”官能”ものである。「いってモナムール」というキメは、どうにも下卑て聞こえる。これ、原曲へのリスペクトという観点が大きく欠落している。デルペッシュは一度でもこのヴァージョン聞いたのかな?

(↓)古賀力のカヴァー。これはおシャンソンになってしまう。これもなぁ...。