2012年9月14日金曜日

J'aime le Japon moi non plus

Saint Michel "I love Japan"
サン・ミッシェル 『アイ・ラヴ・ジャパン』

 ダフト・パンク、エール、フェニックスを生んだ太陽王の城下町ヴェルサイユからの新しいエレ・ポップデュオです。
フィリップ・チュイリエ(ひげつき君。28歳。ヴォーカル、アナログ・シンセサイザー各種、ギター各種...)とエミール・ラロッシュ(ひげなし君。19歳。ベース、アナログ・シンセサイザー各種、ギター、ヴォーカル...)。微妙な年齢差ですね。これではガキの頃から聞いていた音楽もまるで違うでしょう。フィリップはヴェルサイユのイメージ通りの「カトリック系ブルジョワ」の家庭環境で、義務的にボーイスカウトに入れられたり、コンセルヴァトワールで楽器習わされたり。兄貴の影響でジャズとビートルズの洗礼を受けるのですが、最大の音楽的ショックはレイディオヘッドだったりします。エミールは国際舞台の演劇人の家庭に生まれ、ガキの時分からその世界各地の上演地に連れていかれて生来のコスモポリタンとして育つんですね。フィリップの最初のバンド、Milestone(マイルストーン。世界中どこにでもありそうなバンド名)はヴェルサイユとパリを除いては誰にも知られないロックバンドでしたが、エミールはその最初のファンのひとりでした。ファンとあこがれのバンドリーダーとの出会いというのが、この微妙な年齢差の理由かもしれません。
 サン・ミッシェル(聖ミカエル)という大天使の名前をバンド名にするのは、ブルジョワ・カトリックなヴェルサイユの雰囲気を良く伝えるものですが、ある種フランス的なるもの(たとえばフランス第二の観光客集客地モン・サン・ミッシェル、パリの学生街目抜き通りブールヴァール・サン・ミッシェル...)もおおいに喚起するすぐれたものです。この点はアルノー・フルーラン=ディディエ が最初のバンド名をノートル・ダムと名乗ったことに類似点があります。
 ディエーズ・プロダクションのローラン・マンガナス(バンジャマン・ビオレー、ドルヴァル、アンリ・サルヴァドールの『かくも長き時間』...)に発掘され、エールの元相棒でフェイダーの魔術師と呼ばれるフレンチ・タッチDJアレックス・ゴファーをミキサーに 迎えて自主制作されたのがこの5曲入りEP。音源ダウンロードのみの流通でしたが、サン・トノレ通りのセレクトショップのColetteなどで注目を集め、4月のディスケール・デイ(仏版レコードストア・デイ)や6月の音楽の日(フェット・ド・ラ・ミュージック)でのライヴパフォーマンスに登場したサン・ミッシェルはテレラマ誌から「ミネ」(minets。好ルックスの男子。beaux gosses ボ・ゴスが男性的なきれいな男であるのに対して、ミネは女性的に可愛い男子を指す)系新人バンドの筆頭と「評価」されます。このフレンチ・タッチ・ポップの「女性性」はエール、タヒチ80、フェニックス等のデビュー時にも言われたことですね。
 さてサン・ミッシェルはこの5曲入りEPの後に、メジャーのSony Music Franceと契約し、現在制作中の初フルアルバムは, 2013年2月リリース予定です。フレンチ・エレ・ポップのファンサイトなどで、<<『ムーン・サファリ』(エール、1998年)、『パズル』(タヒチ80、1998年)に匹敵するアルバム >>という期待が既に先行していますが、どうなることやら。
 その特徴はメロウな90年代風フレンチ・シンセ・ポップのサウンド環境で、 MGMTのような高音エアリアル&サイケデリックなヴォーカルが歌い、ダンスフロアーの魔手のミックスが快感ビートのメリハリを決めていく、というもののようです。フィリップのヴォーカル言語は英語です。余談ですが、フェースブック上でマルタン・メソニエが、この9月にアルバムデビューしたルー・ドワヨンに触れて、昨今の「英語で歌うフランスのアーチストたちはひとりとして自分が何を歌っているのかすらわかっていない」と手厳しい評価をしました。そう言われると、このサン・ミッシェルのフィリップの英語は「フンイキ語」でしかないようにも聞こえてきて、歌詞はあまり重要ではないと容易に判断できます。特に表題曲の"I LOVE JAPAN"(2曲め)は、多くの人たちがこのタイトルから想像する「大震災復興支援」みたいなものとは全く関係がありまっせん。(自分たちがお世話になっている)エレクトロニクス楽器の宝庫&原産地たる日本への目配せ、といった程度のことです。それでもこの曲が5曲中で最もうなずいて聞き込んでしまう、必殺の哀愁エレ・ポップの仕上がりです。
 「キャスリーン」ではなく「カッツリーヌ」と聞こえる1曲め "Katherine"、ダフト・パンク寄りのヴォコーダー遊びが冴える3曲め"Wastin' Tastin'"、タヒチ80風の流麗&軽妙酒脱なアップテンポ曲の4曲め "Crooner's Eyes"、そして冬景色風チル・アウトでセンチメンタルなエレ・ポップの5曲め "Noël Faded"。このデュオのさまざまな可能性をよく伝える好サンプラーの5曲です。(来年のフルアルバムには1.2.5.が別ミックスで収録予定)
 かつてタヒチ80が日本の女子高生たちのアイドルになってしまったように、「ミネ」であるサン・ミッシェルの仮想ターゲットは女子ティーンネイジャーとゲイ・コミュニティーだ、と制作会社代表のローラン・マンガナスは私に言いました。中高年のおじさん&おばさんたちにも受けると思いますがねぇ。

<<< トラックリスト  >>>
1. Katherine
2. I love Japan
3. Wastin' Tastin'
4. Crooner's eyes
5. Noël Fadded

SAINT MICHEL "I LOVE JAPAN  - EXTENDED PLAY No.1"
Diese Productions CDEP (no ref)
フランスでのリリース:2012年4月

(↓ "I Love Japan" Teaser 03#)

 

2 件のコメント:

kay さんのコメント...

コメントの続投です(笑)

「ミネ」な「サン・ミッシェル」、なかなか良いでは
ありませんか〜〜!
たしかにレディオヘッドっぽいサウンドですね。
(ちなみにダフト・パンクも好きです♪)

フレンチポップって日本ではあまり人気が出ないですが
『I LOVE JAPAN』などから注目されないかなぁ。
なんせ、minetsな彼らですし(笑)
(minetsとbeaux gossesの表現、とても勉強になりました)

そして、先日、念願の『Intouchables』を観てきました。
見終わったあと、大音響で『セプテンバー』を聴きたくなったのは
いうまでもありません(笑)

Pere Castor さんのコメント...

北海道のKayさん、連続コメントありがっとう!
ぜひFBの方でも近づいてみてください。私のアカウントは http://www.facebook.com/samboualam.caillecagee
にあります。

Beaux gossesは筋肉つき、Minetsは筋肉なし - というのがいちばんの分かれ目なので、日本のイケメンはほとんど minets になるのではないか、と思ってます。違うかな?

うちのブログの『Intouchables』紹介記事、今ページビュー数(ほとんど)8000で、わがブログ「最強のページ」になってます。あとで読んだら修正すべきところがたくさん出てきたんだけど(tutoiement, vouvoiementのところとか)、これだけ勢いのある見違え&読み違えの連続の方が、かえって「生々しい第一印象」のような迫力があっていいや、と放っておいています。誰も指摘してくれないのが、ちょっと残念ですけど、みんな私の勢いに押されて、何も言えなくなってるのか、気にならないほど映画のパワーを感じてくれたか、そんなふうに受け止めています。

昨日まで酷残暑の日本(青森&東京)に5日間おりました。その間にフィリップ・ジアンの新小説『おぉ...』を読み終えたので、近々ブログに記事アップしようと思ってます。お楽しみに。