Les plus beaux matins 最も美しい朝 Les amoureux se lèvent 恋人たちは起き上がる S'embrassent et se protègent en riant 笑いながら口づけを交わしそして守り合う Je ne veux plus que vivire ça 僕はそうやって生きることしか望んでいない Me lever le matin dans tes bras 朝あなたの腕の中から起き上がること
それから40年後(1990年10月)仏テレビのグレコ特番の生放送にサープライズ・ゲストとして、グレコの代表曲のひとつ「枯葉」を吹きながら現れたスーパースターのマイルスは、司会の「なぜツアーを中断してパリまで来てくれたのですか?」という質問に、"Because I love her. She's my first love."と断言したのである。それから1年も経たぬ91年9月、帝王マイルスはこの世を去る。
2003年スラム詩人としてデビューしたグラン・コール・マラードの6枚目のアルバム。2020年夏、グラン・コール・マラードに起こった異変、それは7月にこのアルバムの先行シングルとして発表されたカミーユ・ルルーシュとのデュエット曲"Mais, je t'aime"が、ヒットパレードなど全く無縁であったこのスラム・アーチストにして初めてメジャーのFMネット(NRJ、Virgin FM、RTL2...)でヘビロテでオンエアされ、2020年夏最も美しいラヴバラードとして人々に愛されたこと。私たち家族はこの「コ禍」の危機的状況を知りながらも2週間のコート・ダジュールでのヴァカンスを敢行したが、リゾート地のローカルFMで、ブラック・アイド・ピーズなどに混じってグラン・コール・マラード(+カミーユ・ルルーシュ)の曲が聞こえてくると、これ、間違いではないだろうか、と思ったものだった。グラン・コール・マラードはメジャーレコード会社ユニヴァーサルから作品を発表しつづけているそれなりにメジャーのアーチストではあったものの、NRJのプライリストに載るような"ヒット”とは一線を画していたのだが、この種の"大衆化”は悪いこととは言えないのだろうな、たぶん。 "Mais, je t'aime"は掛け値なしに美しい曲であるが、それは当初女優・自作自演歌手であったカミーユ・ルルーシュが2017年に自曲として発表していたものだった。期待になにひとつ応えられない愛だけれど、それでもいいのなら私の最善の愛を捧げるという女性の控えめだが力強いマニフェストの歌であったが、それにグラン・コール・マラードが俺も不器用でどうやって愛していいのかも知らない男だけれど、と散文的に介入してダイアローグにしようと試みたのがこのデュエットだった。 不器用で何をどうしていいのかわからない男だけれど、俺も何かしたいんだ、関わりたいんだ、とグラン・コール・マラードが突き動かされてつくったアルバムである。何に関わりたいのか? それは"フェミニズム”である。男女同権、男女平等がお題目になってから何十年経とうが、われわれの社会はそれからほど遠いのは誰もが認めるところである。家庭で、学校で、実社会で、役割にしても出番にしても重要度にしても報酬にしても、なぜ男女でこんなに違うのか。女性たちがいくら声高にそれを主張しても、事態はほんの少しずつしか前に進まない。グラン・コール・マラードはフランスでの婦人参政権ですら20世紀半ばに獲得されたばかりだということに驚愕し、封建的に堅固な男性原理社会を壊すには、非力かもしれないが男性側もなんとかしなければ、という自覚にいたる。「女性は人類の未来である」(ルイ・アラゴン/ジャン・フェラ)、「女性たちよ、私はあなたたちを愛する」(ジャン=ルー・ダバディー/ジュリアン・クレール)と同じように、グラン・コール・マラードはこの問題に関する男性たちの関心と意識の高まりを訴えようと言うのだ。何を今さら、と言われようが、多くの男たちは「これが世のならわし」と女性たちの現実を見過ごしている。 『メダム』はそういう問題意識をベースにした女性たちへのオマージュアルバムであり、全10曲、1曲めのマニフェスト的なアルバムタイトル曲「メダム」を除いて、続く9曲はすべて女性アーチストとの共演。前述の"Mais, je t'aime"だけが(カミーユ・ルルーシュのオリジナル曲として)既発表の曲で、残る8曲はグラン・コール・マラード詞のこのアルバムのための新曲である。共演相手は現在フランスのトップクラスの人気歌手であるルアンヌ、女優ローラ・スメット(母ナタリー・バイ、父ジョニー・アリディ)、大歌手ヴェロニク・サンソン、1990年生まれのシンガー・ソングライター(2020年ヴィクトワール賞ステージパフォーマンス新人賞)シュザンヌ、クラシックヴァイオリン+チェロの姉妹ジュリー&カミーユ・ベルトレ、ラップ/R&B歌手アリシア(Alicia)、グラン・コール・マラードと同じスラム詩人で十代のマノン(Manon)、エレクトロ・ポップのアミューズ・ブーシュ(Amuse-Bouche)。 アルバム冒頭は共演なしでグラン・コール・マラードがひとりでスラムする「メダム」というこの男からの最大級の女性へのオマージュで、ちょっとこちらがきまり悪くなるほど。
ジョニー・アリデイとナタリー・バイの娘で、昨今女優として進境いちじるしいローラ・スメット(現在36歳)との共演である3曲めの「片手にグラスを持ちながら(Un verre à la main)」は、とあるパーティー・レセプションで、話し声と音楽の喧騒の中で場違いに孤立している見知らぬ男と女の、出会いそうで出会えない目と目のダイアローグを短編映画風に描いたもの。
思い込みによる出会い願望の盛り上がりと、やっぱりすれ違いに終わってしまう偶然と戯れ。ひとりになって残るは茫々たる寂寥。これはUltra Moderne Solitudeであるな。
そんな9曲の女性オマージュ楽曲であるが、やっぱり自分が序曲「メダム」で断っているように、「デマゴギー」として聞かれる危険性があると思う。そんな中で問答無用に飛び抜けて優れた曲がカミーユ・ルルーシュとの"Mais, je t'aime"(6曲め)であり、このことは爺ブログ別稿で紹介した。この1曲でずいぶん救われたアルバムであると思いますよ。
<<< トラックリスト >>> 1. Mesdames 2. Derrière le brouillard (with Louane) 3. Un verre à la main (with Laura Smet) 4. Une soeur (with Véronique Sanson) 5. Pendant 24h (with Suzane) 6. Mais, je t'aime (with Camille Lellouche) 7. Chemins de traverse (with Julie & Camille Berthollet) 8. Enfants du désordore (with Alicia) 9. Confinés (with Manon) 10. Je serai que de trop (with Amuse-Bouche)
Grand Corps Malade "Mesdames" CD/LP/Digital Caroline/Universal フランスでのリリース:2020年9月11日