救世主アダモ『明日は月の上で』 Salvadore Adamo "A demain sur la lune" (1969年)
(←)2019年7月20日付けリベラシオン紙フロントページです。1969年7月20日、米国宇宙船アポロ11号の2人の飛行士によるウォーキン・オン・ザ・ムーンの50周年を記念しての5面特集記事。主要テレビをはじめ世界中のメディアで同じようなことをやっているはずなので、私がとやかく言うことではありまっせん。リベ紙はその特集のタイトルとして、当時地球的規模で大スターだったベルギー人アーチスト、サルヴァドール・アダモ(1943 - )の1969年のヒット曲のタイトル「A Demain Sur La Lune(明日は月の上で)」を採用しました。言うまでもなく、このサルヴァドールは1963年の「雪が降る」以来、日本で最もポピュラーなシャンソン歌手として君臨し、何度も何度も日本に行くから、日本語も堪能ですし、日本では最もパリ的なベルギー人と奥様がたに評判です。後輩の森進一(1947年生、1966年デビュー)は往時「日本のアダモ」と呼ばれていました。それはそれ。
オリジナル曲 "A Demain Sur La Lune"は当然1969年人類月面到達という事件にインスパイアされて作られたものです。誰でも子供の頃の夢だったのかもしれませんが、お月見ならぬ「お地球見」の風流も歌詞中に現れます。どうもね、当時はロマンティックな王子さまのような、日本の奥様がたの願望に沿ったイメージが先行していたようで、あの頃、英米のポップス(ロック含め)を聴いていた日本リスナーたちと、フランス語ポップス(イージーリスニングを含め)を好んでいた人たちとの溝を大きく深めた原因のひとつにアダモがなっていたと思うんですよ。ま、(60年代ですから)ビートルズ聴く人はアダモは遠慮すると思いますよ。その溝を一挙に縮めたのがポルナレフである、という主張には一理ありますよ。だって、この歌だって、めちゃくちゃ歯の浮くような歌詞なんだ。
À demain sur la lune 明日は月の上で Aux quatre coins des dieux 四方を神々に囲まれて À demain sur la lune 明日は月の上で À trois bornes des cieux 天国にたった三里の距離のところで
Il y aura un carrosse 馬車は僕たちを Qui nous emmènera 子供の頃の夢の場所に Voir mes rêves de gosse 連れていき Et tu t'y reconnaîtras きみはこれは夢じゃないと気づくだろう
Et pour toi ma jolie 僕の美しい人、きみのために Le vent, ce magicien 風という名のマジシャンは Jouera une symphonie 千人のミュージシャンをつかって De mille musiciens シンフォニーを奏でるだろう
À demain sur la lune 明日は月の上で
Là nous verrons la terre そこから僕たちは地球を見るのさ Comme une boule de Noël まるでクリスマスツリーの玉飾りみたいに Se balancer légère 宇宙の大きなもみの木に吊られて Au grand sapin du ciel 静かに揺れている
Et d'étoile en étoile そして星から星へと Nos chevaux voleront 僕らの馬は飛んでいくだろう À l'heure où le ciel se voile 空が白い千の夢のヴェールで De mille rêves blancs 覆われるとき
À demain sur la lune 明日は月の上で
Le vent te couvrira 風はきみを D'un voile de dentelle レースのヴェールで包み Et tu t’endormiras そしてきみは最高に美しい夜のなかで Dans la nuit la plus belle 眠りにつくだろう Moi moi moi je te bercerais 僕はきみの揺籠をゆすりながら J'attendrai ton réveil きみの目覚めを待っていよう Puis je t’embrasserai 太陽が出たらその目も気にせず À la barbe du soleil きみにくちづけるのさ
ベルギーで生まれた偉大なマンガ「タンタンの冒険」(エルジェ作) の16作目で「めざすは月(Objectif Lune)」(1953年発表)というのがあります。赤白の市松模様(クロアチアの国旗のよう)のロケットで月世界探検に出発する話です。アポロ11号の16年前の想像力、そのフォルムの美しさに感服します。 さてアダモ「明日は月の上で」に戻りますが、歌詞はどうあれ、一流のメロディー・メイカーであったアダモのこの曲のBメロ、よく聴いてください。このメロディーは1975年、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」にパクられたんじゃないか、と私は真剣に疑っています。 (↓)アダモ「明日は月の上で(A demain sur la lune)」
7月16日、JCが66歳で亡くなった。"白いズールー”と呼ばれた男の「アシンボナンガ」は私にとって20世紀で最も美しかった歌のひとつだった。合掌。
JCがすい臓ガンと診断されたのは2015年のことだった。その日から死を覚悟して、最後のアルバム("King of Time" 2018年)も作ったし、最後のコンサートツアーもした。"最後の”と銘打っても、アルバムを買う人もコンサートに来る人も、当人が亡くなるまで"最後”は実感しない。しっかりとそれを悟っていたのは本人だけだ。4年間の闘病だった。この孤独な闘いのことを、2018年9月にパリ・マッチ誌のインタヴューで語っていて、そのインタヴュー記事全文がJCの死の直後ウェブ版パリ・マッチに再録された。そのうち、最後の2つの質問の部分だけ、以下に翻訳する。
2019年7月10日号のテレラマ誌の表紙はブリジット・フォンテーヌ。80歳。その前週 封切のフランスの女性たちによるロックを追ったドキュメンタリー映画”HAUT LES FILLES”(上映館が少なすぎて観に行けないので DVD化あるいはストリーミング化されたらブログで紹介します)や、自身の復活コンサートツアー(9月から)でいろいろ露出度が高くなっています。テレラマの記事は、シャンソン欄主筆のヴァレリー・ルウーによるインタヴュー込みで “J’AI DECIDE DE ME VENGER MOI ET MON SEXE”(私は私と私のセックスの復讐を果たすと決めた)という題。インタヴューの中で(おそらく)初めてフォンテーヌ自身の(非合法時代の)妊娠中絶体験と強姦被害について告白しています。問題の部分、ちょっと硬い日本語でごめんなさい、翻訳してみました。
<<< トラックリスト >>> 1. Hello, how do you do 2. You might even say 3. Alexander 4. Send you with loving 5. You're running you and me 6. Peace 7. Eagle's son 8. Graves of grey 9. New day 10. It'll never be me 11. I'm checking out 12. All gone now Bonus Tracks 13. Monsieur Rock (Ballad of Philippe) 14. Lover 15. Silver stars PHILIPPE DEBARGE WITH THE PRETTY THINGS "ROCK ST TROP" MADFISH RECORDS CD/LP 2017 カストール爺の採点:★★★☆☆