そしてマエルはいい人と組んだ。左利きのベーシスト(悪いわけがない)にして当代一の(仏ポップ・ロック)メロディスト、カロジェロ(1971 - )が、なんと言おうか、その最良の部分をこの新人歌手のデビューアルバム制作に注ぎ込んだ感じ。このブルゴーニュ地方ソーヌ・エ・ロワール県から出てきた勝気な少女に、その等身大のポップメロディーと陰影のある詞(カロジェロの伴侶の作詞家マリー・バスティードの良い仕事)を提供、カロジェロの兄ジョアキノも3曲で作曲に参加。カロジェロ一族が全面バックアップという感じ。
えええ?こんなの歌うんだぁ?とびっくりしたのが、学校内&職場内「イジメ」(フランスでも一般名詞として "ijimé"です)をテーマにした「L'Effet de Masse (群衆効果)」という曲。この"effet de masse"という言葉に合う日本語を探したのだが、イジメにつきものの「多数派につかないとのけものにされる」的な群衆心理のことだと思う。ネット上の"Internaute.fr"の解説によると "effet de masse"とは「環境の領域において、限定された地域において人口過剰があった場合に起こり、死亡率の増加のような悪質な結果をもたらすことになる効果」とある。一種の環境問題用語のようだが、イジメ/ハラスメントに通じる比喩的表現(人がいっぱいになった時に起こる悪質な効果)と理解できる。
そして2019年春にデビューシングルとして発表された、「ザ・ヴォイス」の歌唱コーチだったザジーが作詞した「Toute les machines ont un coeur (すべての機械には心がある)」はこのアルバム冒頭曲として収録されたが、夏にヴァカンス地のFMでヘビロテで何度も聞いたけれど、聞くごとにすばらしい曲だと思う。
<<< トラックリスト >>> 1. Toutes les machines ont un coeur 2. Le mot d'absence 3. Le pianiste des gares 4. L'effet de masse 5. Je t'aime comme je t'aime 6. SOS 7. Sur un coup de tête 8. Si 9. Tu l'as fait 10. You go 11. La marque Maëlle "Maêlle" CD/LP Mercury/Universal フランスでのリリース;2019年11月22日 カストール爺の採点:★★★★☆ ("Sur un coup de tête" 詞イネス・バルビエ 曲カロジェロ)
Mes amis, retenez ceci, il n'y a ni mauvaises herbes ni mauvais hommes. Il n'y a que de mauvais cultivateurs. (Victor Hugo "Les Misérables" ) わが友人たちよ、このことを覚えておきなさい、悪い雑草も悪い人間たちも存在しない、あるのは悪い耕作者たちだけなのだ。 (ヴィクトール・ユゴー『レ・ミゼラブル』)
この話は勉強になる。17世紀から19世紀にかけてフランスを仲介してアフリカからアメリカ南部に送られた奴隷たち(ナント港経由がのべ50万人、ボルドー港経由がのべ15万人)の多くの子孫たちがブランシャール姓を名乗っているということは、カトリーヌの家系の先祖の中に奴隷商がいたかもしれない。これは身に覚えが(おぼろげに)ある歴史的負目を歌にしてしまったということだろう。
そして権威ということで言うならば、2017年から突然にフランスの最高権威に上りつめてしまった若い男エマニュエル・マクロンは、第1曲めの「BB パンダ(BB Panda)」で俎上に乗せられている。なぜこんな天狗になってしまったのか。ここで挿入される(マクロンの声もサンプルされている)エピソードは、2018年6月、リセ生たちに握手ぜめにあっているマクロンに、ひとりの男子生徒が「Ca va Manu ?(マニュ公、元気か?)」。これに対してマクロンはむっと来て、「私はきみのダチではない。きみは私をムッシュー・ル・プレジダン(大統領殿)と呼ばなければならない」それに続けて「いつかきみが革命を起こしたいと思ったら、まず学位を取って、自活するようになってからだって覚えておきなさい」と説教した。カトリーヌはこの赤字部分のセリフをサンプル挿入して、その直後にバシッと平手打ちを喰らわす音。
(ゴンザレス)そして人生もまたひとつのテンポがある。 この人生のテンポもまたわれわれにグリッド・グラフを示し出す。 1週間に7日、 1日に24時間 1時間に60分 そして多数の秒数 自分自身のパターンに至るために そこから何を取り除いていくのかを決めるのは われわれひとりひとりである Notre pattern, qui n'est pas terne (われわれのパターンは冴えないものであるわけがない) Qui n'est jamais terne (断じて、つまらないわけがない)
うわぁっ!これは音楽マニフェストではないか。
<<< トラックリスト >>> 1. BB Panda 2. Stone Avec Toi 3. KesKesséKçetruc (feat Camille) 4. La Converse Avec Vous 5. Malaise 6. Blond (feat Gérard Depardieu) 7. Bonhommes 8. Aimez-moi 9. Duo (feat Chilly Gonzales & Angèle) 10. 88% (feat Lomepal) 11. Une Journée Sans (feat Clair) 12. Point Noir Sur Feuille Blanche 13. La Clef (feat Oxmo Puccino) 14. Raphaël 1965-1989 15. Bof Génération (feat Dominique A) 16. Rêve Affreux 17. Rêve Heureux (feat Léa Seydoux) 18. Madame de Philippe Katerine "Confessions" LP/CD CINQ7/Wagram フランスでのリリース:2019年11月8日