2014年1月22日、歌手フランソワ・ドゲルトが81歳で亡くなりました。世界的にもフランス的にもこのアーチストは1曲だけしか知られていません。それは1965年に発表された "Le Ciel, le Soleil et la Mer"(空と太陽と海)という歌です。この1965年の夏というのはフランスのヴァリエテ界では画期的なことに、エルヴェ・ヴィラール "Capri c'est fini"(日本題:カプリの恋の物語)、クリストフ "Aline"(日本題:愛しのアリーヌ)、そしてドゲルトのこの曲、というフランスの三大「夏のスローバラード」が一挙に登場したのでした。3曲ともフランスでは「必殺のスロー (le slow qui tue)」と評され、夏の浜辺でポータブル電蓄でかけると、たちまち周りで多数のカップルのチークダンスが始まってしまう、というしろものです。で、フランス人たちは1965年以来、毎夏、この3曲をヴァカンスに向かうクルマのカーラジオで聞いたり、遅〜い夕暮れ時の海辺のテラスでジュークボックスからこの3曲のいずれかが流れたら、見知らぬ男が女に "Tu danses?"と声をかける、なんてえことをしていたのです。毎夏ですよ、毎夏。
エルヴェ・ヴィラールとクリストフの歌は両方とも悲恋バラードなのですが、ドゲルトの曲はほとんど極端にオプティミスティックなヴァカンス讃歌です。高度成長期、失業も移民問題も笑い話だった時代のフランスが見えます。
Il y a le ciel, le soleil et la mer
Il y a le ciel, le soleil et la mer
二人で浜辺に寝転がり
髪の毛は目の中に
鼻は砂の中に
二人でいるのっていいね
夏だもの、ヴァカンスだもの
おお、神様、僕らはなんて幸運なんだ!
空と太陽と海が一緒にあるなんて
空と太陽と海が一緒にあるなんて
不滅ですね。夏に空と太陽と海さえあれば、私たちはどれだけ幸せか。 他に何もなくていいと思いますよね。しかしフランソワ・ドゲルトや私たちとは違う考えを持つセルジュ・ゲンズブールは、1978年に「空」を外しちゃって「海と太陽」の間にセックスを挿入してしまうのです("Sea, Sex and Sun")。その頃からフランスの夏の海浜地帯の風紀は乱れっぱなしなのです。
"L'AMOUR EST UN CRIME PARFAIT" 『愛は完全犯罪』 2013年フランス映画 監督:アルノー&ジャン=マリー・ラリウ 原作:フィリップ・ジアン("INCIDENCES") 主演:マチュー・アマルリック、マイウェン、カリン・ヴィアール、サラ・フォレスティエ フランス公開:2014年1月15日
2010年発表のフィリップ・ジアンの小説 "INCIDENCES"をアルノー&ジャン=マリーのラリウ兄弟が映画化したものです。雪に始まり、火で終わる小説です。ジアンですから、性と狂気とヴァイオレンスがたくさんあります。
この映画は『ラヴ・イズ・ザ・パーフェクト・クライム』というタイトルで2013年の東京国際映画祭に出品され、フランスに先立ってプレミア上映されて、主演のマチュー・アマルリックも来日しています。ミディ・ピレネー地方ルールド出身のラリウ兄弟(65年&66年生れ↓写真)は、1999年から長編映画5本を発表していて、2回カンヌ映画祭に出品されたこともあります。前作『世界最後の日々(Derniers Jours Du Monde)』(2009年。マチュー・アマルリック、カリン・ヴィアール、カトリーヌ・フロ主演)は、パリ〜ビアリッツ〜イビサを舞台にした地球最後の日々に女漁りをする男を描いた大予算&大仕掛けの野心的ロード・ムーヴィーだったのですが、これが興行的に大失敗となり、その後映画会社(およびその出資者であるテレビ会社)からしばらく全く干されてしまい、この『愛は完全犯罪』が言わば雪辱戦の映画となっているわけです。