ジョルジュ・ムスタキ『ソリテール』
2008年、ムスタキさんの最後のアルバムです。ヴァンサン・セガル(ブンチェロ)のプロデュースで、ヴァンサン・ドレルム、カリ、チャイナ・フォーブス(ピンク・マルティーニ)、ステイシー・ケントなどとのデュエットがフィーチャーされた、言わば後進たちの熱い後押しに支えられたカムバック祈願アルバム。その時ムスタキさんは74歳。その前の年2007年は大統領選挙の年で、ムスタキさんはセゴレーヌ・ロワイヤル候補(社会党)を支援して、数年ぶりに人前で(5月1日ロワイヤル支援集会@スタッド・シャルレッティ)歌っています。カリとの意気投合はこの政治集会の時で、このカムバックアルバム『ソリテール』でもカリの熱烈なるリスペクトがよく現れています。同じ2007年にはヴァンサン・ドレルムのプライヴェート・コンサート"FAVOURISTE SONGS"にも出演していた、ということはこのブログの前の記事で書いてますが、ドレルムもその縁で『ソリテール』に参加しています。
ムスタキさんが自ら「われらみんなの師匠」と言ってはばからないほど敬愛していた大先輩アンリ・サルヴァドールはついこの間までバリバリの現役だったのに、その年2008年の2月に90歳でこの世を去りました。サルヴァドールの超人的な元気さに比べたら、ムスタキさんは既にかなり弱っていたような感じです。アルバムに続いて2008年5月にはオランピア劇場に出演していますが、もうかなりしんどそうな感じでした。(当時の国営フランス2のニュース↓)
Georges moustaki a l’olypia album solitaire 6... par jean_luc_arsene
その後も精一杯の努力で、コンサートを続けていましたが、2009年2月に気管支炎を発病、以前から弱っていた呼吸器系統の衰弱には勝てず、予定されていたスケジュールをすべて中止して、歌手廃業宣言をします。
図らずも「白鳥の歌」になってしまったわけですが、このアルバムの最初の曲は本当にそれっぽい歌で、逝ってしまった先輩たち、一緒に老いた同輩たち、みんな俺たちはギターを弾いていたんだ、ああわれらが美しきギターの時代、という郷愁300%みたいな歌なのです。歌詞に注釈込みで以下に訳してみます。
LE TEMPS DE NOS GUITARESフランス(およびフランス語圏)の自作自演シャンソンとフォーク・ムーヴメントの Who's Who みたいな歌です。ムスタキさんは最晩年にこんな歌作って、ギターぼろんぼろんのノスタルジーに浸っていたんでしょうね。特に直前に亡くなったアンリ・サルヴァドールへの敬意、もうすぐ、そっち行くからね、みたいなあいさつのようでもあります。
われらが美しきギターの時代
ブラッサンスは「ゴリラに気をつけろ!」と叫んでいた (Georges Brassens "Gare au gorille")
サッシャは自分の家族について語り、(Sacha Distel "Scandale dans la famille")
マキシムはどこかで生まれていた (Mxime Le Forestier "Né quelquepart")
ディランは転がる石のようだったし (Bob Dylan "Like a rolling stone")
ブレルはヴズールの町をワルツで踊らせていた (Jacques Brel "Vesoul")
パコはア・ガロパール(全速力)でギターをかき鳴らした(Paco Ibanez "A galopar")
われらが美しきギターの時代
われらが美しきギターの時代
ルクレールは「俺と俺の靴」を歌い (Félix Leclerc "Moi, mes souliers")
ルマルクは「町の小さな靴屋さん」で (Francis Lemarque "Un petit cordonnier")
ダルナルは「傭兵」を口ずさんだ (Jean-Claude Darnal "Le Soudard")
コリューシュはアリスティッド・ブリュアンの生返りだった
ジョエルはまだ若造だった (Joël Favreau ブラッサンスのギタリスト)
ジャン・フェラもいたし、ギ・ベアールもいた
われらが美しきギターの時代
われらが美しきギターの時代
オーフレイは「サンチアノ」を歌っていた (Hugues Aufray "Santiano")
リセは城館の召使いとなり(Ricet Barrier "La servante du chateau")
ピエール・ペレもアンヌ・シルヴェストルもジャック・イヴァールもいた
ロベール・シャルルボワはモンレアルからやってきた
ジャック・ドゥエはその故郷ドゥエからやってきた
あの時はゲンズブールがまだガンズバールになっていなかった
われらが美しきギターの時代
われらが美しきギターの時代
ブラッサンスは「ゴリラに気をつけろ!」と叫んでいた
サッシャは自分の家族について語り
マキシムはどこかで生まれていた
アンリは優しい歌を歌っていた (Henri Salvador "Une chanson douce")
彼こそわれらすべての師匠だった
私はと言えばただのらくらと怠惰に生きていた
われらが美しきギターの時代
本当にたくさんの、たくさんの人たちがいた
そうとも、私は何人も忘れてしまった
私の記憶の力を許しておくれ
われらが美しきギターの時代の記憶を
われらが美しきギターの時代
われらが美しきギターの時代
(↓YouTubeの投稿動画"Le temps de nos guitares")
<<< トラックリスト>>>
1. Le temps de nos guitares
2. Sorellina
3. Une fille à bicyclette (with Vincent Delerm)
4. Mélanie faisait l'amour
5. Partager les restes (with Stacey Kent)
6. La jeune fille
7. Ma solitude (with China Forbes)
8. L'Inconsolable
9. Sans la nommer (with Cali)
10. La chanson de Jaume
11. Solitaire
12. Donne du rhum à ton homme (with China Forbes)
Georges Moustaki "Solitaire"
EMI CD 2074952
フランスでのリリース:2008年5月
(↓メイキング・オブ・「ソリテール」2008年)